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週刊女性セブン 1991年7月18日号
あなたの子供、私が生んであげます。
代理母 〜アメリカ人の代理母から日本人夫婦のこどもが誕生
− 報酬1万ドルで他人の赤ちゃんを産む『出産代理業』。不妊で悩む人のために、また、夫婦の都合で生みたくない人のために、彼女たちは・・・。
日本人夫婦の卵子と精子でアメリカ人の母から日本人の子供が
昨年の8月中旬、ロサンゼルズの少し南の町、サンタ・アナに住むアンナ・ジョンソンは、おなかにいる胎児の、しかし、遺伝的には自分とまったくつながっていない胎児の保護権を勝ち取るために、裁判所に訴訟を起こした。
被告は、キャルバート夫妻。手術で子宮をなくした妻・グリビーナは夫のマークと相談して、自分たちの精子と卵子を使って体外受精を行い、それをアンナ・ジョンソンのおなかにいれ、子供を授かろうとした.のだ。
アンナは、いわゆる『代理母』だった。彼女は、子供を生んだ暁には、遺伝的に親であるキャルバート夫妻に赤ちゃんを引き渡し、1万ドルの謝礼を受け取る『契約』をしていた。しかし、出産の1か月前になって、子供を引き渡したくないと訴訟を起こしたわけだ。アンナは、9月13日に元気な男の子を生み、マシューと名付けた。そして、醜い争いは始まった。
ひと音前、代理母といえば、出産を望む夫婦の夫の精子を代理母の体内に入れ、その卵子と結び付けるのが、あたりまえの方法だった。しかし、最近は、体外受精の技術が発達したために、受胎専門の代理母(gestational surrogate MOTHER)も出てきている。アンナ・ジョンソンの場合がそれだ。
とくに、ここ数年、アメリカまで行って代理母に出産を依頼する日本人の夫帰は、例外なくこの『受胎専門の代理母』と契約を結んでいる。
不妊の原因を医学的に的確に追求することは難しい。手術で子宮を摘出した、妊娠すると母体に危険を及ぼす、子宮の形状に異常があるなど、原因がはっきりしている場合もあるが、説明のつかない不妊も30パーセントにのぼる。また、男性側に原因がある場合も少なくない。
アメリカでは、一般に、1年間妊娠のための努力を続けて妊娠できなかった場合、『不妊』と診断される。原因追求以前に、そう診断される。そういう診断書が二通あれば、代理母斡旋業者に駆け込む資格はある。もし、原困を追求して、たとえば輸卵管の手術で治る可能性があったとしても、手術をするか、代理母に頼るかは、.本人たちの意思しだいである。誰も手術を強制することはできない。
しかし、代理母斡旋業者を訪ねるのは、不妊に悩む夫婦ばかりではないのではないかとも危惧されている。いずれ、自分の職業を続ける上での事情などの理由で妊娠を避けたいと考える女性が、自分の代わりに代理母に妊娠、出産を依頼する可能性があるということだ。いや、もうすでに起こっているかもしれない。
現に、UCLAの体外受精の専門家・ギャンボー博士は、「もうすでに起こっている可能性が非常に高い」と断言している。.
この現象が進めば、後述するように“ブリーダー(breeder=子孫をつくる人。繋殖する動物の意もある)階級』が生まれることは必至、との意見もあるのだ。
私は、全米で最大といわれる代理母斡旋業者を訪ねた。年間200組の夫婦からの依頼を受けるという、弁護士ノエル・キーンの経営する斡旋所だ。
キーンは、1988年に起こった有名な『ベビーM事件』の折に、契約書をつくったことで一躍名を馳せた。彼は、出身地であるデトロイト郊外の町・ディアポーンのほか、マンハッタン、インディアナポリス、サンフランシスコにオフィスを置いている。
キーン弁護士は、代理母斡旋業の元祖といっても過言ではない。
「1976年に初めて、私の事務所にレバノン人の夫婦が現れ夫の精子で妻の代わりに妊娠できる女性を探してくれないかと頼まれたのです」
キーンは、このビジネスのきっかけをこう語し始めた。
レバノン人の妻は「文化的に養子は受け入れられない」といったという。まだ、代理母(syrrogate mother)という言葉がなかったときだった。もちろん、それを規制する法律もなかった。キーンはさっそく、地元の新聞に『代理母求む』という意味の広告を出そうとしたが、そういう倫理に反することはできないと、新聞社に一蹴された。途方にくれたキーンは、ミシガン大学の壁広告に貼紙を出した。
貼紙は、地元の新聞記者の目にとまり、翌日には一面の大きな記事となる。そして、これをきっかけに、全米が大騒ぎとなった。.
「あちこちのテレビ局から電話がかかってきて。大変でした。視聴者を交えての討論番組には何回も出ました。それがかえって宣伝になったようです。誰もが私のことを知るようになったのです」と、キーンは当時のことを振り返る。
キーンのマンハッタンのオフイスは60丁目、5番街とマデイソン街の真ん中にあるビルの12階にある。入ってすぐソファーがあり、そこに大きなアルバムがあった。いままで、この事務所が斡旋した代理母をとおして生まれた赤ちゃんや両親の写真が貼ってあった。デスクの上には、代理母を依頼する日本人からの手紙が届いていた。私にはもちろん見せてくれなかったが、このところ、日本からの依頼が徐々に増えているという。.
一方、代理母になりたい女性は、常時、新聞などで募集しているので、いつでも申し込める。斡旋所によっては、前科を調べることもあるが、健康であるということはいうまでもなく、むしろ、動機などの心理テストが決定的となる。代理母の受けとる金額は、普通、1万ドルである。
依頼する夫婦が支払う費用は斡旋所によって異なるが、キーンの斡旋所ICNY(Intertility Center of New York)の例で見てみよう。ICNYと夫婦の間で交わされる契約書の5ぺージ目に、次のような一覧表がある。
ICNYへの謝礼. $16000
雑経費(交通費など) $2000
●第一回目の受精で支払う費用
代理母への謝礼 $10000
広告費(代理母を募集) $300
精神鑑定費用(代理母の) $450
IQテスト(選択は自由) $125
医師にかかる費用(精子分析や受精など) 人によって異なる
医療保険 人によって異なる
●代理母の妊娠と同時に支払う費用
代理母の生命保険料 $300
妊婦服 $400
父親権手続きの費用 $500
養子手続きの費用 $1000
弁護士料 $1500
○その他
父親であることを証明するための血液検査費(選択は自由) $700
旅費、通信費など 人によって異なる
確実にかかる費用だけでも、約33000ドル(約450万円)。これに、日本から渡航する費用、人によって異なる費用などを加えれば、優に5万ドルを超える額になる。
「みんなに隠して、依頼に来ました」 日本人夫婦のためらい
このキーン弁護士に、現在、代理母の斡旋を依頼している日本人夫婦がいる。結婚して6年になる、田中さん(仮名)夫妻。妻の不妊が原因での依頼である。
卵子摘出手術のため滞在中だった田中さん夫妻は、初め、取材に応じる気配さえ見せてくれなかった。しかし、私の重ねての依頼に、ようやく、その重い口を開いてくれた。
田中さんの夫は中小企業を経営。順調に会杜を伸ばしてきた。夫妻も、早く予供が欲しかったが、理由もわからないまま、ずっと恵まれなかった。
一昨年の12月のある日、妻は、医師から衝撃的な知らせを受けた。
「子宮に筋腫ができているので、手術で取ってしまわなければなりません」
かなりのショックで、家に帰っても、夫に話せなかった。どうやって切り出そうかと毎日、呻吟した。1週間が過ぎてようやく、勇気を振りしぼって夫に打ち明けることができた。
「私、子宮に筋腫ができて、手術しなければならないの」
夫の受けたショツクも、妻が受げたそれと変わらないほど大きかった。
手術は翌年の1月25日。約2時間の手術の後、20日間ほど入院した。
もうどんなに頑張っても、養子を取らない限り子供は持てない − 代理母の存在を知らなかった夫婦は、養子を取ることは考えず、子供のことは完全に諦めていた。
8か月経った昨年の9月、田中さん夫妻は、冬NHKのスペシャル番組てアメリカに代理母が存在することを、初めて知った。すでに赤ちゃんを授かった日本人がいることも知った。問い合わせたNHKが田中さん夫妻に知らせてくれた連絡先の中にノエル・キーンの代理母斡旋所があった。
英語ができない夫婦は日本語で問い合わせの手紙を書き、近くの英語の教師に翻訳してもらって、キーンの事務所にファクスをいれた。返事は、一週間後に来た。田中さんは、2日にー回のペースでファクスを送った。英語で返事がくると、英語の教師のところに持っていって訳してもらい、すぐに泌事を書くという生活が続いた。
夫の経営する会社には従業員が50人ほどいるが、田中さんの妻が子宮を摘出したことや、代理母を依頼しようとしていることを知る人はいない。家の近所の人も、もちろん、知らなかった。
深刻な表情をした妻は、私に向かって、小さな声でこういった。
「日本は、アメリカと違って閉鎖的ですから、どうしても世間の目を気にして生ぎていかなくてはなりません。だから、私たちが代理母を使おうとしていることが知れたら、大騒ぎになってしまうでしようね」
この夫婦がキーンのサンフランシスコのオフイスを訪ねたのは、咋年の11月4日。翌5日にノエル・キーン弁護士に会い、彼のいままでの代理母斡旋の経験をきいた。かかる費用については、すでに日本にいるとき知らされていたので納得していた。しかし、体外受精の成功がまだそれほど高くないことは、そのときに初めて知った。、
代理母が受けとる謝礼の1万ドルについてどう思うかと私が聞くと、田中さんの妻は、「少なすぎると思います。お金には代えられませんが、代理母が捧げる期間、その労働を考えれば、やはり少なすぎると思います」
少し間ををいて、こう答えた。
−では、奥さんが代理母になってほしいと頼まれたら、どうしますか?
「やはり、白分がどれほど健康でも、代理母になることは考えられません」
妻はこういってから、
「日本人で代理母になってくれる人をみつけるのは、難しいでしょうね」
と、付け加えた。
田中さん夫妻が初めてキーンのオフィスを訪ねたとき、すでに代理母はみつけられていた。5日、キーンと会った折、紹介され、代理母とその家族に会った。そして、お互いに、まるでひとめ惚れのように気に入ってしまったという。
それから長い契約書に目をとおし、署名をし、頭金として100万円を置いた。そして、子宮が手術によって摘出され完全に不妊である証明書を、キーンに渡した。
田中さん夫妻に質問を続けた。
−もし、体外受精の技術が現在ほど発達していなくて、従来の代理母のように代理母の卵子と夫の精子を受精させる、いわゆる人工受精の方法をとるのだったら、どうしましたか。
妻は迷わず、体を少し前にのめらせるようにして、「私はハーフでもいい、夫の遺伝子が伝えられている子供ならばそれでいい、と思っていました。ハーフは可愛いし、でも、夫が……」
そういいかけた瞬間、夫は、妻の言葉をさえぎるようにこういった。
「日本人に似ていたらおかしくないでししょうが、金髪の子供が生まれてきたら、まわりの人に知られてしまいます。急に白人の赤ちゃんを連れ歩いたら、世間がどういうかわかりません。やはり、日本人はほとんどの場含、夫婦の受楕卵を使うほうをとると思います」
夫の口調は、あたかも日本人のすべての感情を代表しているかのようだった。
11月に1週間遇ごしたあと、今年に入って1月の中旬、妻だけがひと足早く、サンフランシスコ入りした。
そして、心理学者に会い、さまざまなアドバイスを受けた。たとえば「生まれてくる子供が年頃になったら、本当のことをいったほうがいい」とか、「身内の人は賛成しているのか」とかいった内容だった。
田中さん夫妻はともに両親が健在で、みんな賛成しているという。本当にこの方法で子供が授かれるのなら、『宝の子だ』といっているという。'
2月14日、バレンタインデーの日の朝、妻は病院にいって、卵子の摘出を受けた。9時半に手術室にはいり、終わったのは11時過ぎだった。
2日後には、この卵子と夫の精子からできた受精卵が代理母の子宮に入れられ、妊娠を待つのだと伝えられた。田中さん夫妻は、このときまでに、斡旋業者・キ一ンに320万円を支払っていた。
先日、田中さん夫妻に電話をいれ、近況を聞いた。田中さん夫妻の代理母は1回目の妊娠に失敗した、と斡旋業者から連絡を受けていた。同じ代理母でもう一度妊娠を試みるか、別の代理母を探すかは、斡旋業者の判断にまかせるつもりだという。
代理母・テリー、27歳。「私の生涯で、最も価値ある行為です」
田中さん夫妻のために代理母をつとめるのは、テリーという27才の女性。サクラメントに、トラックの運転手で年収は4万ドルだという夫と、8才と5才の女の子、2才の男の子の3人の子供たちと住んでいる。訪ねてみると、予供たちは皆、人形のように可愛い。
テリーが代理母になろうとしたきっかけは、不妊で悩む友人たちが「もう自分たちの子供を持つのを諦めた」と話しているのを聞いたことだった。
昨年の夏、まず、キーンの事務所から、代理母の申し込み用紙を取り寄せた。9ぺージからなる申し込み用紙には、流産の経験、離婚の回数、人種、宗教、中絶の回数、生理の規則性、1回の生理が続く期間、避妊方法、煙草を吸うか、アルコールはどうか、マリワナはどうか、手術の経験の有無などを書き込む欄があり、さらに動機の欄には、どうして代理母になりたいのか、もらうお金についてはどのくらい欲しいのか、また、本当に不妊の夫婦のためだけに代理母をつとめたいのかなど、こと細かく書き込むようになっていた。
すべてを一気に書き込むだけの勇気はなかった。毎日、1行、2行と埋めては、呻吟した。30分もあればすべて書き込めるのに、3週間かかってようやく書き込んだ。そしてそのとき、心は決まった。夫に打ち明けたのだ。
「私、代理母をやろうと思っているの」
夫は、自分の妻の言葉が、信じられなかったという。それからしばらく、顔を合わせても、目と目を合わせることができない日が続いた。妻は、一生懸命、夫を説得しようどした。
「私が人にやってあげられることで、代理母というのは人生で最も価置あること。簡単に口にしているのではありません。ほとんどの人は代理母をやろうなんて考えないでしょうが、これほど自分に報いのあることはありません」
「あなたの支持がなければ、絶対にできないことなのです。ベビーMのときと違って、白分の卵子を使うのではなく、不妊の夫婦の受精卵を使うのよ」
夫はようやく、自分たちとは遺伝的に、まったく関係ないということで、納得した。感情的にはいまでも吹っ切れていないが、妻の生来の強い意志を信じたからだ。
私は、テリーにきいた。
−もし、従来の代理母のように、人工授精であなたの卵子を使うのであれば、どうしましたか。
「できません」
彼女は、こう即答した。
夫は、ほどんどきこえないような声で、私にこういった。
「これから、家族の結束が必要です。私も複雑な心境ですが、自分の気持ちがどう変化していくのか予想できません。でも、妻は、本当に意志の強い女性ですから、きっと子供を生む段階になって気持ちが変わることはないと信じています」
子供たちにどう説明するかも問題だった。生まれてきた弟か妹が、ある日、いなくなってしまうのだ。私は、テリー夫妻の長女に率直にきいた。
−お母さんが何をしようとしているのかわかる?
「わからない」
娘は、小さな声でそう答えた。そして、母親に向かって、念を押すようにこういった。.
「これから生まれてくる赤ちゃんは、家に戻ってこないのね。でも、その次の赤ちゃんは、私たちのところにくるのね」
夫は、娘の言葉を引き取って、
「こういうことは、誰もが犠牲になるのです。.でも、家族の結束が強ければ、乗り越えられると確信します」
と、私に答えた。
1万ドルの報酬については、「お金で計ることはでぎませんが、お金がもらえるなんて、始めは知りませんでした」
とテリー。夫も、「値段が付けられるようなものではありません」
と、少し声を大きくしていった。
−ところで、代理母は、金持ちの夫婦によって利用されているのだという意見もありますが……。
私がそうきくと、テリーはいささか興奮気味の声で、
「私の考えでは、100人中99人は代理母をやらないでしょうが、私は利用されているとは考えたこともありません」
こういい返した。そして、「でも、これが最初で最後でしょうね」
と、精神的に苦悩を隠しきれないといった表情で付け加えた。
1200人以上の代理母ベビー。しかし、トラブルは増加するだけ・・・
現在、アメリカでは、12州で代理母をビジネスとすることを禁止し、3州では代理母斡旋は犯罪となり、業者は刑務所に送られる。また、代理母ビジネスの最も盛んな、2つの州、カリフォルニアとニューヨークでも、弁護士や医師からなる特別委員会が設置され、禁止の方向に向かっている。
ちなみに、ごく最近、フランスでは、人間は売るものでも、貸すものでもないという理由で、代理母が完全に禁止された。
実際『ベピーM事件』以来、アメリカの代理母ビジネスは、表面上はその姿を隠し始めている。しかし、法律が暖味な州では、このビジネスを始めるのに何のライセンスもいらないことも事実なのだ。
『デトロイト・ニュース』紙の調査によれば、1989年までの10年間に斡旋業者を介して代理母ビジネスで使われた金額は3300万ドル。生まれた赤ちゃんの数は1200人以上という。
しかし、.トラブルも頻出している。
冒頭に紹介した、アンナの例もそうだ。.
裁判所は、昨年10月22日、「1人の子供に2.人の母親は子供に混乱をきたすだけで、すべては子供の利害を中心に考えるべきだ」として、アンナには一切の権利を与えない判決を下した。しかし、彼女は控訴し、現在も争いは続いている。
最近は、依頼する夫婦の卵子と精子による受精卵が代理母の体内に入れられ、遺伝的には代理母と無縁の赤ちゃんが生まれる。しかし、その赤ちゃんを手放すことが、代理母にどれほどの苦痛を与えるものなのかは、誰にもわからない。
また、斡旋業者にだまされ、遺伝的にまったく無関係な他人の子供を渡されたという例もあとを絶たない。
トラブルは、他にもある。
代理母をきちんと選ばなかったためにエイズにかかって生まれてさた赤ちゃん。女の子しか欲しくないと、依頼した親から受取りを拒否された赤ちゃん。.代理母が出産を迎える前に依頼した親たちが離婚、引取り手がなくなった赤ちゃん・・・。いずれも、最終的な犠牲者は代理母から生まれた赤ちゃんたちである。
3年前、首都・ワシントンに設立されたNational Coalition Against Sur-rogacy という、代理母産業に猛反対する組織がある。ニュージャージー州で起きたあまりにも有名な裁判「ベビーM事件』がきっかけで生まれた団体だ。この団体の弁護士であり、中心的な運動家でもあるアンドリュー・キンブレルは、興奮した声で、私にいう。
「代理母は不妊の解決にはなりません。現に子官摘出をした人の半分は、その手術が必要ではなかった人たちなのです。もしビジネスとしての代理母を合法化すれば、いずれ杜会的地位の低いブリーダー(繁殖)階級が生まれることは必至です。
アメリカには、需要と供給さえあれば何でもできるという考えがあります。しかし、臓器売買が連邦法で禁止されたように、代理母をビジネスにするのは神聖なものに反するという点で、絶対に禁止されるべきなのです」
将来、プリ一ダーと呼ばれる階層が出現し、不妊以外の理由で代理母を利用する人間たちが現れるなど、考えるだけでもおぞましい。それが、すでに現実となっている可能性もあるとの専門家の指摘を考えあわせれば、なおさらである。
最新の情報によれば、日本人でも、日本人コンサルタントがアメリカの代理母斡旋業者と契約を結び、不妊で悩む日本人夫婦向けの情報センターを開いたという。
アメリカでの代理母ビジネスは禁止の方向に向かっているので、金持ちの日本人をターゲットにしようとしている、と私には思える。
これまでレポートしたように、商業べースの代理母には問題が多すぎる。最悪の場合は、関係するすべての人たちが傷付く。私は、早く代理母ビジネスが全面的に禁止ざれることを希望してやまない。なによりも、何も知らずに生を受ける赤.ちゃんたちを犠牲にしないために…。
*ベビーM事件ー代理母問題の原点
:代理母と依頼した両親との間で、生まれた赤ちゃんの親権が争われた事件。1985年、米ニュージャージー州に住むメアリー・ベス・ホワイトヘッドは、子供が欲しい夫婦の精子で人工授精を受け、出産後、子供を夫婦に引き渡して1万ドルの報酬を受け取る契約書に署名した。1986年、メアリーは女の子を出産。一度は夫婦に子供を引き渡したが、その後連れ戻し、1万ドルの受け取りも拒否した。一審では、代理母契約は有効、メアリーに親権はないされたが、その後、契約は無効、メアリーは法的に母であり、両親の元で暮らす子供(その方が子供に有益)に訪問する権利を認めるとの判決が出ている。
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関連書籍
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2009年5月15日発売!
『代理出産 生殖ビジネスと命の尊厳』
大野和基・著 定価:735円(税込)
ISBN978-4-08-720492-6
搾取か?福音か?
子どもをもつ最後の手段が「代理出産」だとしたら──
不妊に悩む夫婦にとって「福音」といわれる生殖補助医療、代理出産。しかし、代理母の精神的・肉体的負担、貧困層のブリーダー階級化、親子関係の定義づけの難しさなど、現実はシビアな問題が山積みだ。日本でも法整備を進める動きがあるが、代理出産をめぐる議論はまだまだ不十分。このテーマを長年、追いかけてきた著者が複雑な代理出産の問題の核心に迫る! |
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