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Voice 2010年6月号
普天間問題 親日派からの忠告
もはや日本という国自体に、アメリカは関心がない!
五月末までに決着させる−。そう一国の首相が述べたにもかかわらず、まったく進展をみせない普天間問題。結論を先延ぱしするうちに、まともな首脳会談すらしてもらえなくなった。目下の日米関係を専門家はどうみているのか。ワシントンからの現地レポートをお届けしよう!
十分で終わった日米首脳会談
ニュースはローカルである、という言い回しがある。ニュースの価値はそれが起きている地域や国でないと出てこないということである。そういう意味では、普天間移設問題は日本だけで過熱報道されている、といっても過言ではない。ワシントンの友人から「アメリカでは誰も騒いでいない。この温度差を取材したら面白いかもしれない」といわれた。さっそくワシントンに飛んで取材してみると、日本研究家以外の人は誰も関心をもっていない。小沢一郎氏の名前も誰も知らない。アメリカメディアさえほとんど報じない始末だ。
「貿易摩擦時代の日米関係の悪化はかなり深刻であったが、安全保障問題において日米関係がこれほど悪い時期は思い出せない」。こう語るのはケント・カルダー氏だ。ジョンズ・ホプキンズ大学教授ライシャワー東アジア研究所所長を務めるカルダー氏は、日米関孫の悪化を懸念する。一九六〇年の日米安保条約に反対したのは世論であって、二国の政府聞の問題ではなかった。経済問題について関係がよくなかった時期もあったが、安全保障問題でこれほど悪い時期はないという。原因の一つは政権交代であるが、政権交代があったから日米関係が悪化したというのは筋が通らない。カート・キャンベル国務次官補(東アジア・太平洋担当)も民主主義のプロセスとして、政権交代は自然の成り行きであると公言してきた。
「オバマ政権のほとんどの人は、ある程度の期間がたつと(普天間移設問題について)結論に達すると期待していた。昨年の九月、十月ならまだわかるが、十一月になっても何も結論がなかった。年末には結論に達するだろうと期待したが、それもダメだった。いま鳩山首相は五月末という期限を設けたが、私は悲観的だ」(カルダー氏)
鳩山首相の優柔不断については日本人もかなりあきれているが、それは結局、日本政府の意思決定能力の問題と捉えられる。一方で『ライシャワーの昭和史』の薯者であるジョージ・バッカード氏はこう語る。
「オバマは十一月という早い時期に鳩山氏をせっつくべきではなかった。新政権になったばかりで、党内でやるべきことがたくさんある。それはオバマ政権でも同じだ」
つい最近、核不拡散問題でサミットが開かれたとき、オバマ大統領は胡錦濤国家主席と九十分の二国間協議を行なったが、鳩山首相とは十分しか話の場をもたなかった。この対照的な扱いは何を意味するのか。
「言語道断である。少なくとも二時間は話し合いの時間をもつべきだった。胡錦濤と九十分も話し合い、鳩山と十分というのはオバマの失態だ。ただ、オバマは核不拡散、イラン、北朝鮮問題など優先すべきことがあまりに多すぎたことは確かだ」(バッカード氏)
要するに、アメリカの日本に対する関心、とくに普天問の移設問題に関心があるのはほんのひと握りである、ということである。一般的にアメリカの日本に対する関心は急速に薄くなってきているが、この十分というオバマ・鳩山会談はそのことを象徴的に表すといっても過言ではない。
「いまアメリカは日本を経済面、政治面などすべての点でfailing country(後退しつつある国)とみている。関心をもつ人がアメリカ政府内にもほとんどいない。日米関係についてつい最近、上院委員会でもっと日本に関心を向けるようにジム・ウェブ(パージニア州氏主党議員)の前で証言したが、百人の上院護員のうち日本に関心があるのはたったの三人しかいない。これは問題である」(パッカード氏)
デイヴィッド・フィッツジェラルド氏は一九六九年から九四年まで国務省にいたが、そのうち七〇年から七七年までは日本のアメリカ大使館、七八年から八一年までは米国憤報庁のジャパン・デスク担当であった。
フィッツジェラルド氏は現在の日米関係を悪化しているとはみていない。
「いま世界で起きていることは日米関係の性質を変えている。アフガン復輿、イラク復輿、核問題、気候変化の間題など、二国間だけで解決できないレペルに達しており、日米関係も二国間関係というよりも多国間関係でみるべきだ。昔は二国間の問題だけで協力し合っていたが、新しいレベルに達したといってもいい」
普天間移設問題が日米関係をこじらせているとみる人は多いが、フィッツジェラルド氏はそうみない。
「たしかにこの問題で二国間にある程度の緊張が生じているが、それは日本のメディアがそう報じているだけのようだ。アメリカ側はこの問題を対日本との関係全体において、critical test(臨界テスト)にしようという願望はないと思う」
いまアメリカで起きている経済問題や最重要課題である医療保険改革は、日本人にとって大きな関心事ではない。一方で日本のメディアが毎日のように普天間問題を報じているのは、日本国内の政治問題に大いに注意を向けているからだという。
徳之島の態度は「ニンビー」
沖縄にはかなりの利害の衝突がある.ことは誰もが承知している。土地を貸している側にとっては莫大な収入になる。アジアの経済危機以降、沖縄の商業地価は下がっているが、基地の土地の賃貸料は上がっている。
1沖縄市民はその歴史のせいで、基地に対していわば本能的に反感をもっているが、実際は経済的な観点からみれば、基地はますます魅力的なものになっている。ただ誰もその事実を正式に認めたくないだけだ」(カルダー氏)
決着を困難にさせている要素はそこにある。「十四年間もこの問題が続いているのはいささか粛然とさせられる」とカルダー氏はいうが、政権交代がなければ二〇〇六年の同意案で事は進んだだろう。二国間で同意案に署名したことは事実であるからだ。
日米両政府が県内移設を条件に普天間の全面返還に初めて同意したのは一九九六年だ。沖縄の負相軽減のため、在沖縄海兵隊八千人をグアム移転し、嘉手納基地以南の六基地を返還するのは普天聞移設を前提条件にしている。
フィッツジェラルド氏も、二〇〇六年の同意案が実行されるのがもっとも道理にかなっているという。
「犯罪などの社会的汚染や環境汚染の観点からみると、普天聞は沖縄市民にとって大きな問題だが、二〇〇六年の合意案がそういう問題を軽滅することは確かだ」
原案は基本的には自民党が交渉したものであり、当然のことながら、自民党にとって利益が組み込まれているものだ。自民党が行なった交渉を民主党が実行したくないことは鴛くに値しないし、内容の少々の変更はやむをえないことも、アメリカ側は理解している。
「アメリカ側がいま懸念しているのは、日本がこの問題を先送りすることだ。なによりも重要なことは早く解決することであるが、日本側は参議院選挙のあとまで先送りしようとしているかもしれない」(カルダー氏)
日本側のインセンティブ、アメリカ側のインセンティブ、沖縄のインセンティブがすべて異なるところが難点である。沖縄はこの問題を沸騰させておくことで、できるだけ補償金を上げることができる。しかし、先送りすればするほど問題は複雑になり、にっちもさっちもいかなくなる。
アメリカにとって最終的に重要なのは、日米同盟が最優先なのか、海兵隊のオペレーション(軍事行動)が最優先なのか、という問題である。もしこのまま二国間が同意に達しなければ、一九九六年の原案に戻るしかない、とカルダー氏はいう。そして、鳩山政権のなかにもそれに賛同する人は多い気がするというのだ。
「軍事オベレーションの要求を満たすには、もう一つ段階が必要だろう。最初の段階はキャンプ・シュワブ内で何ができるか、ということだ。理境調査はあまり必要ないが、これが先送りを生じさせている」(カルダー氏)
普天聞移設問題は日米間の問題ではあるか、冷静に考えると日本側の問題でもある。日米同盟の観点からいえばもっと重要な問題が山積している。中国の台頭によって、沖縄の戦略的な意味が増し、普天間間題で足踏みしているどころではない。
しかし現状は「ミッション・クリープ」になっている。ミッション・クリーブとは、終わりの見えない展開、という意味で、本来は任務を遂行するうえで目標設定が明確でないまま当初対象にしていた範囲を拡大したり、いつ終わるか見通しが立たないまま人や物の投入を続けていかなくではならない政策を意味する米軍事用語であり、批判的に使われる言葉だ。沖縄問題の場合、日本の圧力団体が介入し、最初の目酌がどんどん拡大していくことを意味する。問題が複雑化した状態を放置し、鳩山首相の優柔不断さもそれに拍車をかけているが、「日本の圧力団体、アメリカの利益団体、軍事テクノロジーの発達、沖縄における利害関係が問題をさらに複雑化している」とカルダー氏はそのミッション・クリーブ状態を説明する。
バッカード氏は沖縄市民の権利は尊重されるべき、と自らの経験からいう。
「私は元沖縄県知事の大田昌秀氏に宜野湾の教室に案内されたことがあるが、上空を通る戦闘機の騒音があまりにも大きいのでショックを受けた。教師は五分か十分に一度、教えるのを中断しなければならないほどだった。駐ニューヨーク総領事館の西宮大使は『何百万の人に囲まれてマンハッタンのセントラル・バークに普天間をもつような感じ』、つまり憩いの場所に基地が来て騒音に悩まされる状態、といったことがある。そのような騒音公害を裏庭にもたない権利を尊重しなければならない」
東アジアの安全保障の点からみれば、八千人の海兵隊に何ができるか、という問題がある。米海兵隊のスタルダー司令官は「北朝鮮の金正日体制の崩壊時、北朝鮮の核兵器を速やかに除去することである」といったと伝えられているが、バッカード氏は「それは私にはあまり賢い答えであるようには思えない」という。
徳之島の島民も米基地移設に猛反対しているが、それは「ニンビー」の発想だとパッカード氏はいう。ニンビーとはNIMBY(Not In My Backyard)のことで、核やゴミの廃棄物処理施設など、都合の悪いものをよそに設置するのはいいが、自分の家の近くには絶対置きたくない、という人を指す。彼らは「米軍基地は必要だが、自分の裏庭にはイヤだ」と思っているのだ。
首相の辞任は日本が決めること
日本のメディア報道をみていると、たしかに普天間移設問題によって日米関係が悪化しているようにみえる。しかし実際にインタビューをすれば、むしろ日本人自身がそのような考え方を強くもっていることがわかる。
「日本の政治はこのような政治問題を解決する方法として辞任を選んでも不思議ではないと思うが、アメリカからみれば、名前を覚えるのが難しいくらい、ころころ首相が代わるのが日本だ。鳩山首相が公言した五月末を過ぎてもこの問題を引きずっていれば、当然、辞任の可能性はあるだろう。しかし、それは民主党が決めることだ。アメリカ側からすれば、首相の辞任はまったく関係ない」(フィッツジェラルド氏)
沖縄が偶然にも地理的にみて、東アジアの安全保障上もっともよい場所の一つであることは間違いない。ハワイであれ、ブエルトリコであれ、基地があるところには必ず問題が生じるが、沖縄も何ら変わりはない。太平洋上に安全保障上の脅威がないから基地は必要ないという見方もあるが、多くの日本人、アメリカ人はその見方に賛同しないだろう。ライシャワーの秘書を務めたバッカード氏はいう。
「著書にも書いたとおりだが、日本にある米軍は、日本の自衛隊のゲストとして日本の基地に配置される日がいずれくるだろう、とライシャワーはいっていた。そうなると問題の部分的な解決になるかもしれない。日本か核武装してアメリカから独立して防衛するべきだという議論もあるが、それは狂気の沙汰だと思う。いま日本はかなり安いコストでアメリカに守られているが、他のやり方ではコストが掛かりすぎる。合理的な考えの持ち主であれば、日米同盟を健在のままにさせておく方法を考えるだろう」
普天間移設問題は、日米関係のほんの一部である。これをあたかも最優先事項であると考えるのは日本のメディア報道によるところが大きい。アメリカ側からみると、あるいはオバマ大統領からみると、けっして最優先事項ではないのだ。だから日米同盟を強化する方法は、普天間問題の解決に限らない。
「たとえば高速鉄道(新幹線)や航空宇宙技術の分野で日本はかなり貢献できる。ポーイング777をとってみても、機体の八〇%は三菱重工や川崎重工によって生産されているのではないか。エネルギー分野でも日本はかなり貢献できる。日米だけでなく、インドとも協力して三カ国問でやればもっと貢献できる」(カルダー氏)
ペトナムに高速鉄道をつくることで日本はベトナムに協力するが、それと同じように日本はアメリカに貢献できる。日本の技術は世界に誇るほど高い。環境問題以外では日本は自らの考えを明確に出していないが、日本の国内政治のなかで意見がまとまっていないことにも原因がある。それが外交に悪影響を及ぼしているとすれば、外交は別枠で考えなければならない。外圧がなければ日本は行動できないというのは、昔の話にしなければならない。
「アメリカが中国と日本のどちらかを選ばないといけない、というのはアメリカでは神話である。私は三カ国で非常によい関係をつくることができると思う。貿易の面でもそうだ。アメリカ経済は日本と中国にとって推進力になる。つまり三カ国間でうまくやれば、そこには共通の利益がある」(バッカード氏)
日米関係は、普天間移設間題で崩壊するほど脆弱なものではない。長い歴史があるので、少々の問題で崩れることはないだろう。
「アメリカは日米間のいろいろな間題で、日本が協力してくれるのを当然のことだと思っている。インドや中国をもっとアメリカ側に引き込もうとして、日本のことは置き去りになっていると思う。たしかに普天問の問題で緊張が生じているが、それはアメリカからみると大した問題ではない。もっと問題がある国にどうしても関心がいくものだ」(フィッツジェラルド氏)
いずれにせよ、普天間問題がアメリカにとって大きな問題ではないとはいえ、その前進が滞っていることは間違いない。二国問にとってもっと重要な問題に取り組むためにも、まずは普天間問題について、日米が早急に同意に達しなければならないだろう。
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