SAPIO1998年11月11日号
これはアメリカの「病巣」か「再生」か
「男性優位」で大膨張
「プロミス・キーパーズ」集会に潜入


アメリカでは今、「プロミス・キーパーズ」という男だけの新興宗教が論議の的になっている。婚外セックス、ポルノ、同性愛を禁じ、家族の絆を;強調する一方、フェミニズムを敵視し、男権復活を主張する。昨年4月、ワシントンで行なわれた集会には、男性のみ数十万人を集めた。フェミニズムヘのフラストレーションを鼓舞するこの宗教の大膨張に、世紀末アメリカ社会の混迷が見える。


今年の8月21-22日、テキサス州ヒューストンのアストロドームは5万人の男性で埋まった。ドームの外はハリケーンの嵐だったが、中は男しか生息していない惑星にいるのかと錯覚するほどの異様な、薄気味悪い、まったくの別世界だった。
熱気に包まれる中、フィリップ・ポーター牧師が気炎を上げる。
「聖書は、家長になるのは男の役割であると教えている。それが適切になされれば、何の聞題もないはずだ。最終的な決定は、男が責任をもってすべきである。男は家族のために犠牲を払うべきだ。女は男に従うべきだ」
牧師は、家族の絆の大切さや倹約の重要性を説きながら濱々と演説を続ける。やがて、聖歌合唱団がステージに現われ、『Real Men Sing Real Loud』(真の男は大声で歌う)を高らかに歌う。すると会場はさらに熱気が高まり、興奮、陶酔した男たちがステージの前に群がる。両手を上げ、肩を寄せ合って抱き合う者、とめどもなく涙を流し、神の思し召しでもあったのか、突然雷に打たれたように倒れる者。床に臥せたまま祈る者、何とも異様な光景だ。
この宗教の名は「プロミス・キーパーズ」(Promise Keepers=約束を守る人、以下PK)。その宗旨が男性優位を説き、大膨張をとげていることから、最近アメリカのマスコミを大いに賑わせている。データベースで検索すると、1997年の初めから今までアメリカの主なマスコミで取り上げられた回数は7219回。CNNの調査報道番組や、「ラリー・キング・ライブ」でも取り上げられ、全米で喧々囂々の議論を巻き起こしている。
何が論争の的なのか。
まず、信者は男性でなければならないことだ。女権がかなりの力を持つアメリカではそれだけでも異常である、PKは、女権運動で変化を余儀なくされ、脆弱になった男性に新しい活力を与えるべく結成されたキリスト教の一つであるという。PKには7つの誓いがあって、基本的には、男性は父親として、夫として責任を取り、主導権を握るべきだという。聖書は、男性がリーダーになるべきだという教えを説いている。婚外セックスやポルノや同性愛を禁止し、家族の絆を強くせよとも提唱している。


フェミニズムヘの反撃

1990年に誕生したこのPKの創始者はビル・マッカートニー(58歳)、元コロラド大学のフットボールのコーチだ。当時、彼はコーチ業に専念しすぎて、家庭をまったく顧みなかった。そのせいか、1989年に未婚の娘が自分のチームの選手の子供を妊娠してしまった。この“事件”がマッカートニーに与えた影響は計り知れない。翌夏、神の啓示を受けたという彼は、カトリック教会を離れ、プロテスタントの一派に入信。この宗教は信仰によるヒーリング、奇跡などを重んじる宗教だった。自分の娘のスキャンダルに頗るシ
ョックを受けたマッカートニーは、やがて男らしいクリスチャンの復活を求めて、PKを創始し、コロラド大学のバスケットボール競技場に男性だけの集会を召集した。1991年7月のことだ。そこに集まったのは、4000人あまりだった。
翌年の92年には2万2000人の男性が同競技場の半分を占め、その翌年には、年間5万人、94年には30万人、95年には70万人にまで激増する。そして昨年の97年は、120万人(4月のワシントンの集会だけで数十万人が参集)というから、異常な成長ぶりである。専門家たちは、アメリカの宗教史でももっとも成長の早い宗教の一つだと異口同音に言う。
今や、フルタイムの従業員が400人以上、年間予算が1億ドルの規模にまで成長した。PK広報部によれば、現在信者の平均年齢は40歳、離婚したことのない既婚者が67%、再婚が14%、離婚あるいは死別が6%、子持ちが58%という。平均収入は年間4万8000ドル、白人が86%で圧倒的に多い。
最近アメリカではフェミニズムがすっかりすたれた。60年代、70年代の性革命はアメリカ社会を完全に男女平等に変えたと思えるほど、成功したかに見えた。セクハラ一つとってもそうだ。男性が女性を扱うのはまるで地雷原を歩くようなものになった。男性はひとつ間違えば、社会的にも法律的にも叩かれる運命になったのである。こういう敵対的な男女関係の下で、男性の中には怒りを持って反逆するものもあれば、離婚の際の子供の養育権などの面で女権に対抗して“男権”を主張するものも出てきた。


KKK以来の大膨張

『Manhood in America』(アメリカでオトコであること)の著者であるマイケル・キメル教授は、PKの成功の背景についてこう語る。
「目的を持った社会運動の中で変化を経験した女性と違って、男性には、運動の基盤になるものがない。基本的に男性の生活は、女性の生活が劇的な変化をしたので、その副作用として変化しただけだ。つまり男性の生活は女性によって変化を余儀なくされたと言える。PKはそういう男性のフラストレーションをうまく利用したと言えるだろう。
事実、行き過ぎた信者がフェミニストを襲う事件も頻発している。
当然、現在フェミニズムの旗手になっているNOW(national Organization for Women)はだまってはいなかった。所長のパトリシア・アイアランドは、「男性が立派な父親になり、夫になることは何も間違っていません。わたしたちも同じことを言ってきました。でも、男性が指導者で女性が従者でなければならないというのは間違っています。女性に服従を強いることは間違っています」
と批判する。PKは女性にとって脅威だというのだ。
一方、マッカートニーの信念は今でもまったく変わっていない。
「今日のこの社会や文化は、神のボールを落とした男たちの結果生まれてきたものだ。今こそ我々男が一緒に立ち上がって、そのボールを拾い上げるときだ。そうすれば、きっと神がこの国を復活させるだろう」
PK自身は政治とは関係がないと主張するが、専門家はそう見ない。PKを監視しているCDS(Center for Democratic Studies)のアルフレツド・ロス所長は、こう説明する。
「PKは、常に男性優位を主張してきた宗教右派の運動として捉えないといけません。創始者のマッカートニーはある日突然神の思し召しを受けたと言いますが、まったく馬鹿げています。表面は“いい夫、いい父親になろう”というモットーを掲げながら、中身は、宗教右派となんら変わりませんから。これを男権運動とみるのは間違っています。
このまま行けば、いずれは政治権力を持つことになるでしょう。これほど支持を得たのはKKK(白人至上主義のKu Klux Klan)以来のことです。要するにPKは、政治的な目的を隠すために、宗教の仮面をつけた超右派の政治組織なのです。それに気づいていない人やマスコミも多いでしょう。PKが出している本はすべて宗教右派の中でも過激派の人が書いたものです。ですから非常に危険な組織です」
しかし、クリントン大統領の不倫事件という追い風を受けて、PKは勢いをますます増していくだろう。
 
 
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