週刊ポスト 2006年5月26日号
全米ナンバーワン・ベストセラー著者が伝授

あなたの仕事を成功に導く『ハイ・コンセプト』6つの感性
ダニエル・ピンク


今、米国のビジネスマンに最も影響力を持つジャーナリストの一人が、ダニエル・ピンク氏である。
エール大学ロースクールで法学博士号を取得後、米副大統領の首席スピーチライターなどを務めフリーに。『ワシントン・ポスト』や『ニューヨーク・タイムズ』で経済動向やピジネス戦略についてのリポートを精力的に執筆している。
彼の新著『ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代』(大前研一訳・三笠書房刊)は、05年の米ビジネス書部門ベストセラー1位を獲得した話題作。ピンク氏が日本のビジネスマンに向けて語った。



最初に言っておきたいのは、われわれは時代の変遷期にいるということです。20世紀末というのはコンピュータが象徴する情報化の時代でした。プログラマーや弁護士、MBAホルダーのように特定の知識を持つ人、直線的でロジカルな思考が有用とされた。けれど現在、コンピュータが操れればアッパー・ミドルクラスに入れるわけではないように、成功に必要なのは効率や論理だけではありません。私は次なる時代を「コンセプトの時代」と呼んでいます。すなわち、創意や共感、総括的な展望を持つことによって社会や経済が築かれるようになるのです。

「ハイ・コンセプト」とはそれを生み出す能カ、人を指します。
たとえば、あなたが成功するか否かは、自らの仕事について次の3つの問いへの答えによって決まるといえます。

A.他の国ならもっと安くやれるだろうか
B.コンピュータならこれをもっとうまく早くやれるだろうか
C.自分が提供するものはこの豊かな時代でも需要があるだろうか

AとBがイエス、Cがノーだとしたら問題は深刻です。今の時代を生き延びることができるかどうかは、対価の安い海外のナレッジ・ワーカーや、高速処理のコンピュータにもできない仕事をやれるか、また豊かな時代における非物質的で解しがたい欲求を満足させられるかにかかっているからです。

私は最近よく脳の話をします。産業革命で機械が人間の能力にとって代わることができるようになり、IT革命でコンピュータが人間の左脳にとって代わることができるようになった。
左脳は逐次的、論理的、分析的に情報を処理します。一方で右脳は非直線的で直観的、本能的、全体的に機能する。情報化の時代では右脳的な能力は軽んじられてきましたが、今後は右脳的な特質こそが重要になる。なぜなら、それらは簡単にオートメーション化もアウトソーシングもできないから。左脳で蓄積する知識や技術は必要ですが、それをどう生かすかについて考えないと知識や技術も埋没してしまう時代なのです。
求められる右脳的な資質として私は6つの感性を挙げます。

@デザイン ここまで物質的に豊かになると商品やサービスにしても機能的であるだけでは魅力的には映らない。クルマがいい例ですが、美しく感情に訴えるものを創ることが不可欠です。

A物語 情報やデータは氾濫しているなかでは、議論に打ち勝ってもやがて誰かが必ず盲点をついて反論される。肝心なのは相手を納得させる話ができること。人の記憶は数字や事象が先行するわけではなく、物語として残ります。ストーリーテリングの力は何にも優る武器になる。

B調和 バラバラなものを一つにするカです。私はシンフォニーと呼んでいますが、分析だけではなく、全体像を描いて新しい全体観を築きあげることは、あらゆる仕事、企業がグローバル化するなかで一層重要になってくる。

マルチな人間が問題を解決

さらに続けます。

C共感 論理だけでは立ち行かなくなるのは世界の外交を見ていても明らかです。成功するのは、何が人々を動かしているのか理解して人間関係を築き、相手を思いやることのできる人。医者などでも患者の身になって話を聞けるかが問われる。

D遊び心 笑いやユーモア、娯楽が仕事面でもプライベートでも大きな恩恵をもたらすことは数多くの例で証明されています。遊びがあるからこそ仕事の倫理が高まることもある。日本人に多いようですが、深刻になりすぎるのは人生全体に悪影響を及ぼすことがある。

E生きがい 物質的なニーズが満たされてくると、精神性の価値が高まってくる。お金だけでなく働く意義を求める社員も増えています。企業にしても、目標に沿った形でうまく意義を取り入れられるかが業績にも関係してくる。消費者にとっても「生きがい」のニーズは高まっている−。

おのおのの具体例は本の中に詳述していますが、コンセプトの時代には新しい全体思考が必要になります。とはいえ、こうした6つの感性は本来、人間に備わっているもの。磨きをかけるだけでいいのです。

私はこれから成功する可能性が大きいタイプの人として、3種類のパターンを考えています。

第1は「境界を超えられる人」。以前は専門分野で知識を身につけれぱ成功が保証されたが、今後は全く異なる仕事を同等にこなせる人が多額の報酬を手にできる。米国ではピアニストにしてコンサルタント会社経営、牧師兼小児科医、数学者兼デザイナーなど実際にマルチな活躍を見せている人はいます。現代社会はマルチカルチャー。複数の言語を操り、複数の専門性を持つマルチな人間が、困難な問題を解決するシーンは増えていくでしょう。

第2は「発明できる人」。今日のビジネス界では革新的な製品がごく短期間で一般的な消費財になってしまう。けれど、発明や画期的なアイデアの大半は既存のものを組み直すことで生み出されています。調和のカを利して開発していければ、発明自体は不可能ではない。

第3が「比喩をつくれる人」です。人間の思考プロセスは大部分が比喩的ともいわれており、この能力が斬新なものを考案し創造することにつながることも多い。また比喩は他者との理解の助けにもなる。

これらを踏まえてみても、日本のかつての詰め込み教育はふさわしくありません。決して創造性の芽を嫡んではいけないのです。社会に出ても、本や雑誌を多く読んだり、芸術作品に触れることで右脳が鍛えられる。技術職や専門職の方でも仕事以外に広くく興味を持つことで物事が全体的に捉えられるようになる。
完全な全体思考を身につけた人、ハイ・コンセプトな能カをマスターした人は成功を収められるが、何も動こうとしない人は苦しむことになるかもしれない。われわれが生きているのはそういう時代です。



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