SAPIO 2003年12月10日号(11月26日発売)
6カ国協議ではXデーをはやめることなどできはしない
「核」「ミサイル」「拉致」3つのカード封じ込めが
金正日体制を終焉させる最善策だ
アメリカン・エンタープライズ
公共政策研究所(AEI)
客員研究員
ニコラス・エバースタット |
<PROFlLE>1955年生まれ。八一バード大学で政治経済学博士号取得後、同大研究員.現在、アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)の客員研究員。朝鮮半島間題の専門家として米国務省や世界銀行などコンサルタントに従事。ニューヨーク・タイムズ紙やウォールストリート・ジャーナル紙等に記事・コラムを執筆している。99年に発表した『北朝鮮最期の日」の邦訳版が今年2月に恒文社21より刊行されている。 |
(インタビュー・構成/大野和基)
「北朝鮮は軽水炉建設の期限である2003年までに崩壊する」1994年に北朝騨の核開発放棄と米国主導の軽水炉建設を交換条件にした米朝枠組み合意が結ぼれたとき、専門家の多くがそう予測した。
しかし、その後も「核カード」をチラつかせて、援助を引き出すワンパターンの瀬戸際外交で北朝鮮は生きながらえてきた。本当に“Xデー”は来るのか?
「もし、一切の援助をしていなけれぱ今頃北朝鮮は内戦状態に陥っていた可能性が高い」
そう分析するアメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)の客員研究員で、『北朝鮮最期の日』(恒文社21刊)の著者でもあるニコラス・エバースタット氏が、現在最も可能性の高い「北朝鮮崩壊シナリオ」を予想する。
ClAは「南北統一の可能性は低い」と報告
私は共産主義国家が1980年代後半以降、次から次へと崩壊していくのを目の当たりにしたときに、どうして北朝鮮が崩壊しないのか、なぜ体制を維持し続けられるのか、ずっと疑問に思っていた。
その理由を検証した結果を99年に「The End of North Korea」(邦訳『北朝鮮最期の日』)として発表したが、その後も、北朝鮮の世界諸国に対する脅追じみた外交政策はますますひどくなり、断末魔の焦燥がそういう行動をとらせているように、私には見えて仕方ない。それは、北朝鮮の経済基盤がガタガタになり、国家破綻の見通しが近づくにつれ、現体制の世界に対する脅威は逆に増しているからだ。
現在の北朝鮮の経済を見ると、10年前と比べてはるかに弱体化しているにもかかわらず、大量破壊兵器の保有を宣言することで存在感を高め、周辺諸国を脅迫するカもさらに強めている。その意味で現在の北朝鮮は、パラドキシカルな(矛盾した)存在としかいいようがない。11月8日、米中央情報局(CIA)高官は米議会において、「北朝鮮は、核実験でその効果を証明する必要のないレベルまで、核燃料を核兵器に応用する技術をマスターしたと確信する」と報告した。これは今までの「核兵器をすでにーつか2つ保有している」(02年のCIA議会報告)というレベルをはるかに超えている。
CIA高官はさらに、「北朝鮮が核実験をしない理由は、そうすることで予想されるさらなる孤立を避けるためである」と証言した。近年北朝鮮は「すでに核開発プログラムを開始(その後、完了)している」と世界を脅してきたが、それが根拠のないこけおどしではなかったことを証明した。ブッシュ政権はいささかタカをくくっていた感を否めないが、もう後戻りできないところまできていることは確かだ。
もともと、このCIA報告書は8月18日に提出されたものだが、っい最近まで公開されなかった。そして、同報告書はこう緒論づけている。<朝鮮半島の南北統一が今後5年以内に起こる可能性は低い>
「軍事クーデター」や「金正日暗殺」の可能性
ブッシュ大統領は確かに北朝鮮に対して非常に強い態度をとっているが、緒果的に十分でないことは誰が見ても明らかだ。就任後3年も経つのに、対北朝鮮政策はどうあるべきか、具体的なことは何も説明していない。
今、北朝鮮について米メディアでは6か国協議のことが大きく報道されている。しかし、ブッシュ大統領はこの外交的アプローチに対して根拠のない楽観主義を表明している。「今の危機は外交で解決できる」と思い込んでいるようだ。他の国、とりわけ「もし北朝鮮が核問題を解決すれば、大規模な経済援助を行をうと発表している韓国なども同様の楽観主義を披露しているが、私に言わせれば、6か国協議は、外交上の夢想でしかない。枠組み合意が成立した94年以降、北朝鮮が何をしてきたかを考えれば、再び騙されれるのがオチだろう。
はっきり言うが、北朝鮮が核開発プログラムを放棄することはありえない。というのも、それが彼らに残された唯一の外交カードであるからだ。一方で、北朝鮮の経済状態は悪化の一途を辿っているので、これからも手練手管を駆使して、各国から食糧を貢がせようとする方針にも変わりはない。今の北朝鮮の状態はまさに生命維持装置をつけた末期症状の患者と言っても過言ではないだろう。
この先に彼らを待ち受けるもの、それは第一に「経済崩壊」である。ここで言う経済崩壊は「産業経済が既存のメカニズムを通じて、人口の相当部分に対する栄養上の必要を満たすことができなくなった状況」を指す。この観点から見ると、日本でもドイツでも国としての食糧システムは第2次世界大戦で敗北する数ヶ月前には、基本的に経済崩壊の状態に陥っていた。
北朝鮮の場合、昨年から今年にかけて物価は10〜20倍に上昇した。それに合わせて給料も同程度上昇したが、生産量が大幅に不足している主食の米の価格は4倍に跳ね上がった上、入手が困難となった。
それに加えて核開発による米朝枠組み合意違反で米国からの重油がストップし、燃料不足による工場閉鎖が相次いだ。そうなると当然食料を購入する金のない不就労人口が急増する。外貨にアクセスできる政府高官は別として、一般庶民は収入の80%を食料購入にあてざるをえない事態となった。ロシアヘの輸出額も90年比で少なくとも60%も落ちている。これほどまで短期問に輸出が落ちた国は他に例を見ない。
そうなると国民を養うには外国からの食糧援助が絶対に不可欠であり、それが途絶えたとき、私の定義でいう「経済破壁は必ず起こることになる。
私が『北朝鮮最期の日を著わした99年当時は、ここまで悲惨な経済状況ではなかった。急激に悪化したのは、この1年3か月のことである。
今まで北朝鮮が経済崩壊を逃れてきた理由、その一つは、韓国と米国の「太陽政策」にある。この融和政策で、北朝鮮は最も絶望的であるときに援助を受けることができた。その援助は97年から02年の間に2倍にもなっている。逆にこのときに援助をしていなければ、経済崩壊に陥っていた可能性は高い。
金正日総書記の狡滑な“時問稼ぎ”は少なくとも今のところ成功している。合意するふりをして、援助を引き出し、事実上反故にするという一貫した「戦略的詐欺」に世界は振り回されてきた。その結果、米政府は北朝鮮に対して望むことを何も達成していないのに対し、金正日は欲しいものを手に入れている。そういう意味では金正日の方が一枚上手である。
北朝鮮が崩壊に至るシナリオを考える場合、大きく3つのパターンに分類できる。簡単に言うと、@韓国との平和的統一、A経済崩壊をきっかけとした内部闘争による金正日体制崩壊、B北朝鮮、あるいは米国の先制攻撃による戦争、である。
これらは拙著『北朝鮮最期の日の「特別解説」で冨山泰氏(時事通信・外信部部長)が指摘しているように、その時の情勢に応じてそれぞれが可能性の最も高いシナリオとして論じられてきた。
例えば90年代半ばから後半にかけては、金日成死去(94年7月)や北朝鮮が公式に認めた「経済危機」(93年)、「食糧危機」(95年)を受けるかたちでAの見方が圧倒的に多かった。
90年代末から00年にかけては、前述した「太陽政策」を推進する金大中韓国大統領と金正日総書記の商北首脳会談(00年6月)によって@への期待が高まった。しかし、ムードばかりが先行し、金正日のソウル答礼訪問など北朝鮮からの“お返し”はないままにトーンダウンした。
その後01年に誕生したブッシュ政権は、北朝鮮を「悪の枢軸」のひとつとして名指しで批判し、大量破壊兵器を開発するテロ支援国家には「先制攻撃も辞さない」とするブッシュ・ドクトリンを発表した。それだけに今年3月にイラク攻撃が始まると、「次は北朝鮮の見方も出たが、戦後のイラク統治が泥沼化するとともにその可能性は消えつつある。
もともとイラクと北朝鮮は地政学的にも大きく異なる。韓国への被害、中国への政治的配慮もあってブッシュ政権が真剣に先制攻撃を検討した形跡は見当たらない。さらに最近は北朝鮮への「安全の保証」文書化が検討されるなど、Bの可能性も後退しつつある。
以上の経緯や現状を踏まえて、現在最も可能性が高い「北朝鮮崩壊シナリオ」は何か?
理想的なシナリオは、@の平和的な南北統一というソフトランディング路線にあることは問違いないが、CIAが議会で報告したように、近い将来に韓国と利害を一致させられる可能性はきわめて低い。北朝鮮が望む統一形態は、韓国が到底受け入れることのできないものである。
次にAの経済崩壊をきっかけとする内乱だが、私はこの可能性が最も高いと考えている。北朝鮮の実態を調査したとき、ここ数年で著しく変化したのが経済面であり、今後ますます悪化していくことも想像に難くない。その緒果、経済崩壊という事態にまず突入する(もちろん、北朝鮮はすでに経済破綻しているという見方もできるが、軍部にまだある程度食料が支給されているうちは大きな社会的混乱にまでは達しないだろう)。
その緒果、軍内部の分裂をきっかけとした内部闘争や軍部クーデターによる金正日総書記の遣い落とし、最も劇的なケースとしては金正日暗殺も考えられる。さらには(予防的措置としての)暴発的な金正目サイドからの先制攻撃というオプションもありうるだろう。
当然、周辺諸国はその余波を、大量の難民流入や武カ攻撃という形で受けるかもしれない。しかし、それらを現時点で正確に予測するのは至難の業だ。言えるのは、このシナリオの前提になるのは、国際機関や周辺諾国が北朝鮮に援助を差し出さないという厳しい態度を貫いた場合に隈られる、ということだ。
米国が先制攻撃に動く「唯一の可能性」
金正日にしてみれば、これは最も避けたいシナリオだろう。加えて、経済悪化を放置した場合に現実性がきわめて高いものである。
それだけに今後、断末魔と化した金正日はなりふりかまわず「核カード」を振り回してくるだろう。今の北朝鮮は余命いくばくもない。長期的な見方はできずに、日々生き残り策を思案しながら、その日暮らしのように生きながらえている。北朝鮮に残されたカードは、国際的に見ると今や核カードしかないので、そのカードを使って恫喝を続けながら、各国からエネルギー、食糧を貢がせようとしている。.
このやり方を、「一時しのぎ」「姑息な手段」と嘲るのは簡単だが、これまで他国から譲歩(援助)を引き出してきた実績を忘れてはならない。
さらに北朝鮮はもう一枚カードを持っている。それは日本に対する「拉致問題カード」だ。目本がその策略に屈してはならないのはもちろんだが、さらに拉致被害者だけでなく、50年代末以降、帰還事業で北朝鮮に渡り、その後出国を許されずにいる日本人妻を含めた在日朝鮮人の問題も解決に向けて取り組むべきだろう。その際に重要なことは、2国間交渉ではなく国連や国際司法裁判所に持ち込んで、国際的な問題に“格上げ”することだ。
同時に、日本が推進している防衡力の強化、法的整備、米国との軍事的協力体制の構築、北朝鮮への食糧援助の削滅、万景峰号への立ち入り検査などは高く評価できる。これから先も日本がこうした対応を続けた場合、北朝鮮はミサイルを日本近海、あるいは本土に威嚇発射して、間接的に援助を要請するかもしれない。しかし、巨額の経済協力資金を北朝鮮に与えると、太陽政策が失敗に終わったように、また北朝鮮の思うツボになってしまう。絶対に屈してはならない。
いずれにせよ、6か国協議という茶番に期待するよりも、このまま各国が経済的圧カをかけ続けるのがベストである。そうすればあと4,5年のうちに自滅する可能性が十分ある。
最後の崩壊シナリオ、米国による北朝鮮への先制攻撃の可能性についても考えてみたい。基本的には、前述したようにその可能性は地理的制約から滅じているが、ひとつだけ軍事的オプションが想定されるケースがある。
それは、北朝鮮が別のテロ支援国家、あるいは米国が「脅威」として認定する国に、核兵器や核物質を密輸していることが確認された場合である。この場合は、核不拡散という大儀名分を使って周辺諾国から条件的支持をとりつけ、単独で軍事行動に出ることも十分にありうる。
崩壊要因としての北朝鮮攻撃、あるいは経済援助の停止、その双方で重要な役割を果たすのが中国だが、対北朝鮮政策を見ると、他国と比べて動きが非常にゆっくりしている。というのも中国には何ひとつとしていい選択肢が残されていないからだ。北朝鮮の核武装、北朝鮮の自滅、北朝鮮との戦争、どれをとっても中国にとってプラスになるものはない。
ただ一つ注目すべきは、中朝国境付近に北朝鮮の難民を受け入れるための施設をすでに用意していることだ。実はロシアも韓国も難民収容を目的とした施設を同様に持っている。
崩壊シナリオがいずれの場合でも、金正日体制が終盤を迎えているという認識では各国一致している。韓国は将来的な吸収統合に向けて、憲法改正を含めたビジョンを作るべきだし、日本も流入難民の受け入れ態勢を真剣に考えるべきときが来ている。
今後必要なのは、核カードに譲歩することなく経済的圧力を続ける覚悟と“不測の事態”に備えた準備である。
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北朝鮮最期の日
ニコラス エバースタット (著), Nicholas Eberstadt (原著), 冨山 泰 (翻訳),
渡辺 孝 (翻訳) 恒文社21 2003年2月
金正日体制崩壊の日近し。拉致と核に揺れる平壌でクーデターは起きるのか? 暴発してミサイルを発射するのか?
ソウルと東京は安全か? 北朝鮮研究学者の警告。特別解説「「北朝鮮崩壊」三つのシナリオ」(富山泰)も収録。 |
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