『グリーンビル』への乗艦については昨年の10月に知人から誘いを受けました。私たちは彼と仕事上の付き合いがあったので打診されたのだと思います。彼には海軍関係者とのコネクションがあったことから話が持ち込まれたようでした。軍の施設などを民間人が見学するツアーがあることは知っていましたし、一生に一度あるかないかのことですから二つ返事で参加の意思を伝えました。ハワイヘの旅費や滞在費は負担しなければいけませんでしたが、体験航海そのものには、一切お金は必要ないとのことでした。
体験航海は、その名も『Submarine tour (潜水艦ツアー)』と名付けられていました。納税者に潜水艦がどういうことをやっているのかを見せるためのツアーで、市民権を持ったアメリカ国民であれば特に参加の制限はなかった。今年1月には海軍広報の挨拶とともに、乗艦の際の注意事項が送られてきました。潜水艦の中には立ち入り禁止区域があることや、どこに動くにもクルーの案内が必要なことなどがこと細かに書かれていました。パッケージに含まれていたのは潜水艦の見学とゴルフ。2月7日の水曜日にハワイに入って翌日にゴルフ、9日に体験航海を行なって、事故が起きなければ週末は再びゴルフをして、12日に現地で解散、帰途に着く予定となっていました。
ハワイに入ったのは7日の午後です。その日は特にスケジュールは入っておらず、おのおのホテルで疲れを癒しました。翌目は16人の民間人全員でゴルフをやって親睦を深めた。もともと夫婦連れが多く、口伝てに参加者を募っていたこともありそれぞれ数組のグループはあったのですが、ここで皆が一堂に会して知り合った。ゴルフそのものは和気あいあいと大変楽しいものでした。
浮上を始めてから5分ほどたったころです。ドラム缶をバットで思い切り叩いたような音が響き渡りました。艦長は、「Jesus, what the hell was that ? (一体あれは何だ)」と叫んだ。私たちは船にぶつかったとは思いもよらず、何か機械が故障したのかと思
った。衝撃もそれほど大きくはなかったのです。
艦長はすぐに潜望鏡を上げるように命令しました。そして間もなく、不吉な予感は悪夢に変わりました。操舵室の前方には80センチ四方の、右側面には30センチ四方のモニターがあり、潜望鏡の映す映像が見えるようになっていたのですが、それらにはえひめ丸らしき船体がかなりの勢いで沈んでいくのがはっきりと映っていたのです。
その瞬間、私たちは祈り始めました。
時間にして1分もしないうちに、えひめ丸は海上から姿を消しました。民間人の間からは悲鳴があがり、操舵室にはクルーたち.の怒号にも似たやりとりが溢れました。