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突然のデフレ宣言。その前日、なぜか、鳩山首相はビル・エモット氏を官邸に招いていた。日本のバブル崩壊を的中させたジャーナリストは首相に何を伝え、日本経済をどう見ているのか。
世帯収入を増やすしかない
−円高が統いています。日本の輸出産業、そして日本経済を直撃することになると思うが、日本政府は何をするべきですか。
エモット デフレのことを考慮に入れると、5〜10年前の水準より実質ではそこまで高くなっていません。
たしかに政府は円の激しい動きをゆるやかにするために介入すべきですが、それ以外のことに手を出すべきではない。つまり輸出産業を助けるために特別何かする必要はありません。
いま動くべきは日銀です。デフレを打ち負かすために「量的緩和」を行うのです。日本は事実上ゼロ金利政策をとっているので、それ以外の方法はないのです。
−3年5ヶ月ぶりに、管直人副総理・経済財政担当相は、日本は「デフレ」状態にあると宣言しました。あなたは2009年初頭、「半年以内に日本はデフレに突入するかもしれない」と述べていましたが、まさしくその予想が当たったことになります。デフレの背景をどう分祈しますか。
エモット 私は、このデフレは日本の内需の弱さから来ていると思います。数年にわたって世帯収入(家計所得)が減少し続けていることが原因です。日本は輸出が滅少して、外需が急激に落ち込むと、デフレに振れる可能性が非常に高くなります。
−鳩山政権も「内需主導の成長」をめざすと強調しています。いままでのような単なる輪出立国では、経済の成長や安定は難しいという判断をしているようです。この考えは正しい?
エモット それは、正しい考え方です。日本という国が内需をもっと必要としていることは間違いありません。これを増やすには、世帯収入を増やすしかない。世帯収入が少なければ、内需が弱くなるのは当たり前です。
−内需を増やす具体的な方法を教えて下さい。
エモット 短期では非常に難しいですが、まずは生活保護、福祉給付金を増やすことです。貧しい人におカネをあげると、貯金する余裕はないので必ず使う。それは結果的に内需を活性化するのに役立ちます。
もう一つの内需拡大の方法は、最低賃金を少しずつ上げていくことです。使わざるを得ないから、このおカネも使われます。パートタイムの人の賃金を上げることも内需拡大に役立ちます。短期的にはこれぐらいしか方法がありません。
長期的には、投資を奨励することです。特にサービス業への投資を誘導すること。サービス業は日本のGDP(国内総生産)の70%を占めています。いろいろな形で規制緩和をして生産性を上げていかなければなりません。
私は2007年、’08年、’09年のOECD(経済協力閑発機構)の日本に関する提言に賛成なんです。そこには、テレコミュニーケショシ(電話・通信)、電気供給、卸販売、小売販売、物流管理、空港、港、その他の輸送産業における規制綬
和をすべきだと書かれています。もっと競争させたほうがいいとしているのですが、私なら、そこにさらにメディア、広告、法律業務の分野なども付け加えますね。
ただ、残念ながら鳩山首相がサービス業の分野で規制綬和政策を実行するかどうかは、まだ疑問です。彼はマーケット至上主義、市場原理主義を批判していますからね。
−『ニューヨーク・タイムズ』に転載されて話題になった、あの有名な鳩山論文『Voice』'09年9月号)にもそのことが書かれていましたね。
エモット 鳩山首相は考えを変えるべきだと思います。
まずい政策に執着するな
−90年代に「失われた10年」を経験した後、日本ではいまだに「失われ続けて」いるのはなぜでしょうか。
エモット デフレから脱する方法を見つけていないからです。また、日本は大きな競争や規制綴和を通じて、経済を活性化する術をもっていないからです。
リーマンショックにおいては、アメリカはさらに間違いを犯す可能性がありましたが、素早く行動してそれを防ぎました。アメリカの経済はフレキシビリテイが大きいので、失われた10年を経験しなくてよかったのです。対して日本経済はアメリカのそれと比べると十分にフレキシプルになりきれていません。
−民主党は野党でいるときは政府を自由に批判していればよかったが、政権を取れば政策の優先事項を決めなければならず、その結果にも責任を負わねばならない。いま、鳩山政権は混乱しているように見えます。
エモット 私にはそうは見えません。政府内で意見が異なったり、矛盾したりするのはノーマルなことで、それを「混乱」だとは捉えていません。いま判断するのは時期尚早ですが、実際に彼らが取っている行動から考えると、自分たちがやっていることを把握していると思います。
ただ、例外が一つだけあります。亀丼(静香)金融担当相がやろうとしている郵政民営化の見直しです。これだけは政策が逆行している。他の点、すなわち官僚に対する姿勢や事業仕分けのプロセス、外交政策、概算要求のアプローチの点から見ると、着実な進歩を遂げています。
−民主党はマニフェストで掲げたことを何としてでも実行しようとして、現実から目を背けていませんか。
エモット マニフェストに固執することを否定はしませんが、財政的に可能かどうかは別問題です。
ですから、マニフェストをリビング・バイプル、つまり永久に変更ができない石碑に刻まれた文字のように扱うのは、間違っていると思います。有権者もマニフェストに書かれたことの中には、実行不可能なものもあることをわかっているはずです。
−手ども手当の支給や高速道路無料化などを実施すれば、初年度でも7.1兆円の予算が必要です。税収が大幅に減ることを考えれば、見送るべき政策もあるのではないでしょうか。
たとえぱ、政府は所得制限なしで子ども手当を支給しようとしていますが、あなたはそれに賛成ですか
エモット この提案には、2つの狙いがあるのでしょうが、うまくいかないと思います。
日本政府は手当によって出生率を上げ、同時に貧しい人を助けることができると考えているようですが、どちらの目的にもこの政策は効果的ではありません。子どものいる低所得者層におカネを配ることは、ある程度の消費を創出するでしょうが、それ以外の人々は手当を使わずに貯金に回してしまうからです。
少子化対策の面から見ても、単純におカネが貰えるということだけで、国民に子どもを作るという決断をさせるのは難しいでしょう。
−高速道路の無料化も来年度から実験的に始めるとしています。
エモット これもまずい政策だと思います。その一番の理由は、温室効果ガス削減という政権の重要な政策にマイナスに働くからです。
2020年までに25%排出量を削減するという目標を達成するうえで障害になりかねません。だからこの政策は非常にたちの悪い、危険な提案だと考えるのです。高速遺路に車をどんどん走らせて、燃料を使わせて、それなのに温室効果ガスを削減せよというのはおかしいでしょう。
高速遺路無料化に反対する2番目の理由は、もしこの政策の目的が、貧しい人や所得における中間層を助けるということであれば、現金をあげるか減税するほうが効果的だからです。
近年、諸外国では高速道路料金をもっと上げようとしています。にもかかわらず高速道路有料のパイオニアであった日本は逆方向に走って行こうとしている。この政策はただちにやめるべきだと思います。
本音を話しすぎる
−2010年度の概算要求は95兆円超と過去最大になりました。これでは新規に40兆円を超える国債を発行しなければならない。もっと予算を削るべきですか、それとも…。
エモット 力強い景気回復が見られるまでは、予算を圧縮すべきでありません。もし予算を削れば、リセッション(景気後退)が進んでしまうでしょう。日本がイギリスやアメリカと同じように、財政出動を減らし始めるのにはまだ早すぎます。ただ2011年以降は財政出動を減らさなければならないとは思います。
−'09年春、総選拳前に、あなたは当時民主党の幹事長だった鳩山氏に会っています。そこで、何を話したのですか。
エモット もし政権交代が実現したとき、民主党がどういう政策をとるのかを聞きたかったのです。それによって、政権交代の準備ができているのか、確認できると思いました。
鳩山氏以外にも何人かの幹部に会ったのですが、政権運営や政策に関する研究がなされており、十分な知識がありました。ですから、当時噴出していた、彼らはまだ政権を取る準備ができていないとか、経験が浅すぎるとかという批判は間違っていると感じました。
−初めて鳩山氏に会ったのはいつのことですか。
エモット 10年ほど前です。
−つい先日にも、官邸で会われていますね。「宇宙人」のようだという人もいますが、何度か話をされて、鳩山首相の人間性をどう捉えていますか。
エモット 私の彼に対する印象は「宇宙人」ではありません。
彼はsincere(本音を言う)で、open-minded(心の広い、人の考えを受け人れる)な人物で、政治家としては、驚くべき性格と言えます。あまりにもfrank(率直、はっきりものを言う)なのです。記者の質問にあれほどきちんと答えるのは、政治家の態度として一般的ではない。こうした姿勢は、政治の世界ではよく裏目に出ます。
もう一つの首相の印象は、考えが一貫しているということです。
初めて会った10年ほど前、私が議長を務めた経済学者の会議で、彼はスピーチをしました。当時、私はすでに『官僚の大罪』という本を出版していましたが、鳩山氏はその頃から官僚システムを変えるべきだという決意に基づいて、このテーマについて研究をしていると話していました。その信念は現在も変わっていません。こうしたことも政治家としては非常にまれなことです。
−あなたと首相は英語で話すのでしょう?
エモット 少し英語を使いますが、ほとんど通訳を介します。首相になってからは慎重になっているのでしょう。以前は英語で話をしました。鳩山氏は自信を持って表現するまでの英語力はありませんが、でも基本的な表現はできます。
党首経験者が4人も必要か
−鳩山政権には、鳩山首相と小沢一郎幹事長という二人の実力者がおり、権力の二重構造化、あるいは小沢主導の政権運営が進んでいます。あなたはこの問題点をどう感じますか。
エモット 権力の二重構造化は常に問題が生じる可能性があります。しかし私はそのことより、艮主党に4人の党首経験者(鳩山、小沢、菅、岡田克也外相)がいることに注目しています。しかもそれぞれが現在も要職についている。決していいスタイルだとは思えません。異例のことで、それが今後困難な状況を作り出す可能性があります。
−先ほど鳩山首相の印象の話の中にも出てきましたが、日本では官僚批判がかつてないほど高まっています。あなたは以前、『変わるべきは官僚ではなく、政治家だ」と話しています。
エモット 官僚から権力を奪い取る必要があります。官僚たちはまるで自分の思うままになる王国の王のように振る舞っています。この「王様」は別の何かに置き換えるべきです。
そのためにまず政治家が考えを変えて、自分の政策に自分で責任を持つようにならなければなりません。「変わるべきは政治家」という発言の真意はそこにあります。そうならなければ、官僚から権力を取りあげる意昧がない。
−民主党は官僚を効果的に使う方法がわかっているのでしょうか。
エモット それを判断するにはまだ早すぎますが、彼らは官僚をどうするべきかというアイデアは持っています。しかし、問題は急に変えることはできないということです。ステップ・バイ・ステップでやっていかなければなりません。数年はかかるでしょう。
そしてステップが進むにつれて次のステップに行くのが段々難しくなっていくでしょう。確かに、成功することは非常に難しいと思います。
−日本では『日が再び昇る』のでしょうか。
エモット 「日が昇る」前に、たくさんのことが起きなければなりません。
もしサービス業の生産性がもっと上がれば、「日がまた昇る」可能性が出てくる。政治家と官僚の新しい関係が、規制を緩和することに役に立てば、それはさらに高まります。
ただし、現時点で言えるのは、「日がまた昇る可能性はある」ということだけで、「日がまた昇る」と予言することはできません。
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