エドワード・J・エプスタイン/Edward Jay Epstein
「ビッグ・ピクチャー ハリウッドを動かす金と権力の新論理」
(週刊文春 2006年3月9日号)

ビッグ・ピクチャー―ハリウッドを動かす金と権力の新論理 ハヤカワ・ノンフィクション
エドワード・J. エプスタイン (著), Edward Jay Epstein (原著), 塩谷 紘 (翻訳)


「ハリウッド映画の歴史において、盛田昭夫さんは誰よりも重要な人です。スティーブン・スピルバーグやジョージ・ルーカスよりも。盛田さんの判断がハリウッドに与えたインパクトは、甚大です」
ハリウッドの内幕と変貌を描ききった、『ビッグ・ピクチャー』の著者エドワード・J・エプスタイン氏は、そう明言した。
ビデオ・レコーダーの合法性を巡るユニバーサル対ソニーの法廷闘争は、一九八四年ソニーに有利な判決が下されるまで、八年間も続く。
「もしこの訴訟でソニーが負けていたら、ハリウッドは破壊されていたでしょう。皮肉なことに、ハリウッドがソニーに負けたことで、逆に莫大な収入が入ってくるようになったのです。代々引き継がれてきた酒造りの家に育った盛田さんには、絶対的な自信と先見の明があったのです」
家庭用ビデオ・レコーダーの出現がハリウッドに与えた脅威は計り知れないが、これが映画の行く末を変えるのは必至であった。
そしてDVD革命は、さらに映画産業をホーム・エンターテインメントの方向へ決定付けた。
「今や映画だけの収入は全体の一四パーセントにも満たないのです」

エプスタイン氏の最初の関心は冷戦にあったが、ハーバード大学大学院在学中、ケネディ大統領暗殺をリー・ハーベイ・オズワルドの単独犯行とした『ウォーレン委員会報告書らに異議を唱えた論文を発表し、それが本になると、瞬く間にペストセラーどなった。
その後、全く異なるテーマを模索中にテレビ業界に関心を持ち、それから映画に関心が移ったのは自然の流れであった。
「映画産業の実情を暴露した本がなかったので、自分かやるしかないと思いました。最大の壁は、本当の数字を入手することで、最初から最後の最後まで苦労しました」
「本当の数字」とは、スタジオのパランスシートだが、門外不出のデータである。私も経験があるが、粘り強く取材をしていると天恵にめぐり合うことがある。エプスタイン氏はこのデータを、M&Aにかかわった弁護士の妻から入手することになるが、そのデータがなけれぱ、説得力のない作品になってしまう。

盛田昭夫に劣らず、抜山蓋世であったルパート・マードックがメディアを立て続けに買収したのは、ちょうど私がニューヨークに住んでいたときだったので、「生き馬の目を抜くような」勢いは肌で感じていた。
「マードックの野望を生み出したのは、恐らくチャレンジでしょう。心に描いた未来像に向かって実行する力は誰にも負けなかった。
『映画ビジネスは映画ビジネスではない』と断言したのは、他ならぬマードックでしたしマードックは、映画が映画館からホーム・エンターテインメントに変貌していくことを予見していたのである。自分のビジョンをグローバルな規模で成功させた稀有の人だ。

果たしてハリウッドの将来はどうなるのか。
「それは、薔薇色の未来です。ハリウッドは世界のエンターテインメントを支配し続けるでしょう。テクノロジーが東京やシリコンバレーから来ても、ハリウッドのセレプ・カルチャーは変わりません」
イリュージョンを作り続けるハリウッドの裏事情を、具体的な数字、秘話を入れて掘り下げたこの作品は、間然するところがない、多年の労作である。

Edward Jay Epstein
1935年ニューヨーク生まれ。コーネル大卒。ハーバード大学大学院で博士号取得。
MITとUCLAで政治学を教えた後、ジャーナリスト・作家として独立。1996年発表のDossier : The Secret History of Armand Hammer は、〈フィナンシャル・タイムズ〉が選ぶ最優秀ビジネス書及ぴ最優秀ビジネス評伝に選定。邦訳に「ダイヤモンドは永遠か?」「アメリカを撃った男」。

 
 
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