サミュエル・ハンチントン Samuel P. Huntington アメリカは、議会が制定した白人の国でした。 (月刊PLAYBOY 2004年9月号)
1996年に出版され、冷戦後の世界秩序を予測した著『文明の衝突』で、サミュエル・ハンチントンは、特にイスラム世界と西欧世界の衝突がもっとも激化すると予見している。そして、まさにそのことが今この瞬間、世界に起きていることである。予測がそのまま現実となった今、ハンチントンはその眼光を今度はアメリカに鋭く当てる。 「もう10年前から、アメリカがアングロ・プロテスタント文化とヒスパニック文化に分離し始めたことに気づき、大学で、ナショナル・アイデンティティについてのコースを設けたのです」 その講義をまとめた本が、この『分断されるアメリカ』である。英語のタイトルは"WHO ARE WE?"(我々は誰なのか)であることからもわかるように、アメリカのアイデンティティが揺らいできたというのである。ハンチントンは、アメリカの文化はアングル・プロテスタントであり、建国の精神が「アメリカの信条」に基づいていることは歴然としていると言うのだ。 「アメリカは、議会が制定した白人の国でした。我々は黒人を奴隷化し、ネイティブ・アメリカンを排除し、19世紀の後半には中国人をはじめとしてアジア人も排除したのです。このことは、アメリカ人は自分たちのことを白人国民だとみなしていたことを反映しています」 ヒスパニック文化が入って定着しかかった今、アメリカは、分断され、「アメリカ人とは誰なのか」というもっとも根本的なアイデンティティの問題に直面している。 「昔の移民は、自分の文化を捨てて、アングロ・プロテスタント文化に同化しましたが、今は同化しません。これがアメリカを分断する原因になることは明らかです」 冷戦後、多くの国が民主主義体制に変わり、グローバリゼーション現象が急速に進んだ。 「アメリカのエリートの中には、自分たちの民主主義を世界に広げることがいいと思いこんでいる人が増えています。これは間違っています。それぞれの国にはユニークな文化、文明があり、それを尊重すべきです。だから、私はイラク戦争にも最初から反対したのです」 宗教対立が、文明の衝突の中心となるとすれば、イラク統治は一筋縄ではいかない。だから、この混乱はまだまだ続くだろうという。 「ロシアではチェチェンで紛争が続き、インドではカシミールで紛争が続いています。異なった国で、アメリカ人とは異なる国民を制圧するのは思うようにはいかないのです」 アメリカが分裂を深めていくにつれて、それが世界に影響を与えることは必至である。 「分裂が進むと、それをとめようとするために、アメリカの保守化が進みます。保守化が進むと、今回のイラク戦争にもみられたように、対外的に強硬姿勢が出るようになります」 アメリカの分裂を止めるには、移民を入れないようにするのがいいだろう。しかし、それはアメリカらしさを失う。ハンチントンは、アメリカが移民をどんどん入れる政策に猛烈に反対する。日本はもともと移民を入れないので、自分の国のことを棚に上げて、僭越なことは言えないが、ハンチントンの意見は排他的に聞こえて仕方がない。 いざ日本のこととなると、「日本は、文化・文明的に孤立しているので孤独な国です。だから、どこかの国と仲良くしておかないとますます孤立するでしょう」と厳しいご託宣だ。東アジアでは中国が超大国になることは目に見えているという。 「日本は、間違いなく中国に追い抜かれるので、中国とも仲良くしておいた方がいいでしょう」 小泉首相が対米追従路線を貫いていることについては、アメリカの傘の下に入っているからといって、必ずしも追従する必要はないとアドバイスする。 「間違っていると思えば、従う必要はない。小泉は自分のビジョンを持つことの方が重要です」 ハンチントンは、どんどん分断されていくアメリカを憂え、それが日本のみならず世界に悪影響を与えるのではないかと強く警鐘を鳴らすのである。