ジャック・アタリ/Jacques Attali
フクシマ問題は“原子力の危機”にあらず
いま必要なのは「脱原発」ではなく、より「安全な原発」のイノベーションだ

(月刊Voice 2011年8月号)

ジャック・アタリ
ミッテラン大統領の側近として大統領特別補佐官を務めたジャック・アタリ氏は、いまでも国家間の政策に関わる交渉に直接関与する、“ヨーロッパを代表する知性”である。近著『国家債務危機』(作品社)のテーマは日本にも関係する喫緊の問題であり、多くの政治家が読んだと報道された。フクシマ問題から原子力発電の行方、世界経済の将来まで、俯瞰的で鋭い洞察力が読み取っているものを、この独占インタビューで明らかにする。



100%の透明性ですべてを公表せよ


− 福島第一原子力発電所の事故について、いま率直に何をお感じになりますか。

アタリ この事故が、日本人にとって悲劇であることはもちろんわかっています。しかしフクシマというとき、唯一重要なことは原発事故であるかのようですが、実際のところ、この危機は地震と津波によって引き起こされたものです。原発事故よりも、地震と津波のほうがより多くの人たちに影響を与えました。何万人もの人が亡くなったにもかかわらず、みなが原発事故だけに焦点を合わせているのです。


何よりもまず地震と津波について私がいいたいのは、海岸に近い都市はリスクが莫大であることを理解しなければならない、ということです。もし今回の災害がもっと南である東京で起きていれば、大惨事になっていた可能性がある。いま東京にとって重要なことは、津波が東京に来たら、どれくらいの惨事になるか、そのシナリオを考えることでしょう。経済と政治すべてがその都市に集中しているのですから。

次に考えるべきことはもちろん、原子力発電所の問題です。最新報告書によれば、事故の原因は主に発電所内の電力の故障によるものですが、東京電力と日本政府の多くの失策にも原因があります。報告書は日本の原子力部門の多くの弱点を露見させました。アクター(役者、関係者)が多すぎること、管理欠如、腐敗、隠蔽など、あまりにも杜撰です。

もちろん、透明性をもってきちんとコントロールしていれば、このような危機は起きていなかったでしょう。もう一つ津波よけの高い壁があれば、ここまでひどくなっていなかったでしょう。よく勘違いされますが、これは原子力エネルギーの問題ではなく、日本政府や東電の運営の仕方の問題です。

− 日本でも、政府や東電の情報隠蔽はかなり批判されました。

アタリ この危機以前にも、東電は何年も前に起きた原発事故について嘘をつき続け、それを原子力安全・保安院は受け入れていました。まったく甘かったと思います。情報を公開しなかったことは深刻な間違いであり、さらには日本人の傲慢さもこれに加担していました。これほど深刻な事故を過小評価したことが、事態の収束を遅らせているのは間違いありません。過去の失策から日本は何の教訓も得ていないことが、今回の事故で判明したのです。情報隠蔽によって失った時間は、あまりにも大きい。

− あなたは東電、日本政府のどちらにより責任があると思いますか。

アタリ 政府よりも東電のほうが、より責任が重いと思います。しかし原子力安全・保安院も同様に責められるべきです。

− 東電のトップは刑務所に入れるべきだ、と主張する人もいます。

アタリ それは日本の当局が決めることですが、その見方はよくわかります。昔はそのような隠蔽工作を行なっても逃げおおせることができたので、今回もそう思ったのでしょう。だから今回も同じような手法をとったのだと思います。その点では、トップだけではなく、ほかにも有罪である人がいる、ということです。

− 日本の雑誌メディアに対し、「とにかく情報の透明性を高めることが重要」と発言されました。そのためには一国のみならずどのような制度、どのような組織が必要となると思いますか。

アタリ 何よりもまず、日本国民が疑問を提起する必要があります。国会でも意見が投げかけられるべきでしょう。NGO(非政府組織)ももっと要求を出し、パワフルになる必要がある。日本にあるNGOは日本社会で力がなさすぎます。

国際機関もまた、日本に甘すぎです。日本政府や当局に対し、丁寧すぎるのです。そこでは新しい組織をつくるより、いま存在する国際組織が日本に対し、もっと厳しい疑問を提起すべきでしょう。もっとアグレッシブになるべきなのです。

− ここから深刻化するのは海洋汚染、という話もあります。それに対して日本が打つ手はあるのでしょうか。さらには「イメージ」が生み出す風評被害について、構ずるべき手段はありますか。

アタリ 風評被害は噂と事実の区別がつかないから起きるものであって、被害のすべてが風評被害とはいえません。それは事実を公表しないから起きるのです。いま必要なことは、繰り返しになりますが、100%の透明性ですべてを公表すること。今年4月、この危機はもはや日本だけではなく、世界の危機である、と私は米紙に寄稿しました。世界中の人が深く関与しており、だからこそ、国際的な介入が必要なのです。

海洋汚染であれ、食物汚染であれ、それは単純な風評被害ではありません。汚染されているという事実があれば、もはや風評ではないからです。日本も自国の主権、発言権にある程度の限界があることを受け入れねばならない。国際コミュニティーが介入してくることを認めねばならないのです。


ドイツの「脱原発」には非常に懐疑的

− あなたの国(フランス)やアメリカなどは原子力推進のエネルギー政策を堅持し、ドイツ、イタリアなどはそこからの脱却を鮮明にしています。原子力の否定派は偶然にも、第二次世界大戦の敗戦国です。

アタリ 何度もいいますが、世界中の国が勘違いし、誤解しています。フクシマの問題を原子力エネルギーの危機と結びつけるのは誤りです。それは原子力エネルギーのマネジメントの失策であって、原子力エネルギー全体の問題ではなく、日本の原子力エネルギーの問題であるということです。これを明確にしておかねばなりません。アメリカでもヨーロッパでも、東電がしたような情報に関する隠蔽はなく、独立してしっかりとした運営がされています。この二つを混同してはいけない。

− それでも今回のフクシマ危機は、世界中の原子力エネルギー政策に影響を与えています。

アタリ 本来なら影響を与えるべきではありません。原子力エネルギーに代わって二酸化炭素をもっと放出するエネルギーを用意したところで、それは真の問題解決策にはならないでしょう。ドイツは「脱原発」を進めようとしていますが、それに対して私は非常に懐疑的です。

− なぜドイツは「脱原発」を進めるのでしょうか。

アタリ ドイツには「反原発」の意見が長年あって、今回のフクシマ事故をその促進手法として使おうとしている、とみたほうがよい。

− フランス人は原子力エネルギーに賛成ですか。

アタリ まったく問題ありません。長いあいだ、多くの議論を重ね、賛否両論の意見をすべて公開してきました。日本と違ってフランスには、情報についての透明性があります。

− 反原発のデモはなかったのでしょうか。

アタリ 過去にはありましたが、その後、侃々諾々の議論をして、最終的には同意に達しました。もちろんいまでも反原発の人はいますが、大半は賛成派です。

− 先日フランスで行なわれたサミットでは、原子力発電の安全基準づくりで合意をしましたが、先進国だけではなく新興国、さらには産油国が積極的に原発の構築に乗り出すいま、望ましい基準とは何でしょうか。

アタリ ロー・コストが危険の元凶となります。安全基準をつくるとき、もっとも重要なことはコストを下げないことです。そうすることで安全が犠牲になってしまう。原子力エネルギーには莫大な費用がかかりますが、その費用を惜しんだ安全基準は絶対に認められません。国際機関がそれを念頭に置き、コストがかかっても非常に高い安全基準をつくり、それを世界中の原発国が実行することが重要です。

− 原発のイノベーションも重要になりますね。

アタリ 将来のエネルギーを考えるとき、人びとはもっと太陽エネルギーを開拓すべきだといいますが、その前に、もっと安全な原子力発電についてのイノベーションがあるべきです。当面は完全に脱原発の方向にいくのではなく、原発と他のエネルギーを組み合わせるべきでしょう。長期的にみれば将来、太陽エネルギーが唯一頼れるエネルギーになると思いますが、現段階で太陽エネルギーは、主な電力源としてはほど遠い。そこに至るまではクリーン石炭(精炭)、新型ガスなどの活用も考えるべきです。いろいろなエネルギーを試すべきでしょう。

− 将来というのは何年先くらいのことでしょうか。

アタリ 二十年くらい先ですね。原子力発電は、安全に利用されれば今後十年はまだ、積極的に利用されるべきです。使い方を間違えなければ他のエネルギーよりも安全ですから。石炭を利用することで過去には何百万人もの人びとが亡くなりました。一方、原子力発電で亡くなった人は他のエネルギーよりも少ない。すなわちそれは、安全だということです。

− 今後、国際社会におけるエネルギー地図にも大きな変化があるのでしょうか。

アタリ まず、民主主義国家でなければ、いかなる国でも原子力エネルギーを使うべきではないと思います。私からみれば、民主主義は原子力エネルギーを使う必須条件です。原子力エネルギーは透明性を意味するからで、透明性がなければ民主主義国家ではありません。中国は民主主義国家でないわけで、私は中国での原子力エネルギーの使用に懐疑的です。他の多くの国に対しても同じような印象を抱きます。

二つ目にはテクノロジーの問題があります。まだ誰にもわかりませんが、これからの二十〜三十年で大きなプレイクスルーが起きるかもしれない。それが起こったならば、世界中が太陽エネルギーを使うことになるでしょう。そうでなければ、世界のエネルギー地図は、原子力エネルギーと太陽エネルギーの混合になっているように思います。


ドル・円・ユーロの「不美人コンテスト」

− 世界経済について話をしましょう。震災によるサプライチェーンの寸断や原発事故による日本経済の失速、アメリカ経済の停滞、さらには欧州をはじめ、先進国全体を覆うソブリン・クライシスへの懸念など、昨年に比べて世界経済は、より多くのリスクを抱えているように感じられます。

アタリ まったく同感です。二番底からそう遠くありません。危機はもう目前にあります。負債は膨らむ一方で、リスク要因は増加する一方です。

− しかし、日本経済の将来については楽観視されていますね。

アタリ ゲノミノクス、ナノテクノロジー、ロボットなど、将来のテクノロジーといわれる分野で、日本は非常に優れているからです。優れた才能をもった人が多いうえに特許もたくさんあり、イノベーションもある。将来においても世界で非常に重要なプレーヤーになっていることを、ほんとうに確信しています。

− しかしこの二十年、日本は経済成長していません。

アタリ たしかにそうですが、人口も減少しているので、一人当たりGDPも減少してはいないでしょう。ただし、人口問題は深刻に考える必要があります。出生率は二人以上にしなければなりません。

それに国自体がまだまだ閉鎖的で、海外に開かれていない。フランスの知識人は当たり前のように英語を使いますが、日本では知識人といわれる人ですら英語ができない。外国の優秀な才能を日本に入れるため、英語は必須です。それはできて当たり前で、英語の是非を議論すること自体がおかしいのです。

− 世界経済の未来については、楽観視していますか。

アタリ 楽観も悲観もしていません。ポテンシャルは非常に大きいと思います。いままで以上に大きい。世界には多くの貯蓄があり、テクノロジーも豊富で、労働力も不足していない。これからの二十〜三十年は年率5%成長のためのすべての手段は揃っています。すでに成長は起きていますし、これからも続くでしょう。ただそれが安定したものになるかどうかは、国際的な法の支配が必要です。それについてはどうなるか、まだわかりません。

− 米セントルイス地区連銀のブラード総裁は、欧州よりもアメリカがデフォルトすることが最大の懸念、と述べました。

アタリ かつて「美人コンテスト」がありましたが、いまはドルと円とユーロの「不美人コンテスト」をやっています。各通貨がもっとも弱い通貨になるため、ワーストをめざそうとしているのです。アメリカがドルを弱くするために「経済がよくない」というと、ヨーロッパも「こちらもよくない」と返しますが、アメリカほど悪化していることを立証できません。

長期的にみれば、アメリカの状況はヨーロッパよりはるかに悪くなるでしょう。ヨーロッパは全体として、負債がゼロだからです。カリフォルニア州のように、ヨーロッパのそれぞれの国には借金がありますが、全体としてみるとゼロなので、まだまだ行動(計画変更)の余地がある、ということです。

− ソブリン・クライシスの時限爆弾はやはり、欧州よりもアメリカのほうが現実的でしょうか。

アタリ そうです。

− 日本でも現在、「税と社会保障の一体改革」に合わせて増税に関する議論が行なわれています。しかし、景気後退期に増税する、というアプローチは正しいのでしょうか。

アタリ すでに日本経済は二十年ものあいだ、デフレを経験しているのですから、そろそろ脱出をめざさなければなりません。しかし増税は景気後退を悪化させない。それどころか国の歳入を増やすので、新しい成長のキャパシティーを産出します。

日本はVAT(付加価値税:消費税に相当)の重要性を理解すべきです。それに加えて透明性と人口統計学上の政策が求められるでしょう。これらが揃うと将来に向けて、よい立ち位置になります。


世界政府が「超民主主義」を実現させる

− 共通問題を抱えた先進各国のエゴが対立するなかで、あなたのいう、人びとが他人のために働くことで利益を得、心の発展・開放をめざす「超民主主義」は実現するのでしょうか。

アタリ 実現すると確信します。世界市場があるからです。しかしそれには世界政府に当たるものが必要です。これからの数十年のあいだにそのような組織ができることを願っています。危機が生じたあとになるのか、その前になるのか、それはわかりません。

それは国連とIMF(国際通貨基金)をうまく調整したような、あるいは合併したような、世界を統治する新しい機関になるでしょう。国家債務を管理して民主主義を強化し、イノベーションを広げることを目的とした機関です。

成長こそが国家債務に対する唯一の現実的な解決策です。そして、成長はイノベーションから来るのです。

− 『国家債務危機』でもお書きになった「主権債務」を管理する世界的な枠組みですね。

アタリ 私自身その問題についていま、グローバルな交渉のなかにいます。アメリカや日本、ヨーロッパの国家債務を組み直すには、組織的に実行するしかありません。もしそうしなければ、破滅的な状況になります。そのためにこそ、国家債務を組み直すグローバルな機関が必要なのです。重要なのは先進国が債務を返済し、再び成長を取り戻すことです。

− ほかに、その機関が担う役割とは何ですか。

アタリ それはまた、貧困との闘いにも挑む機関です。貧しい人たちが貧困から脱出すると、安定した着実な成長を産出することができます。彼らを市場に入れなければ、成長をつくりだすことはできません。いま世界では40億の人が飢えるほどの貧困に苦しんでいます。彼らに資金を出し、市場に導くことで、成長を産出できるのです。

− あなたは、「プラネット・ファイナンス」というNPOの所長でもありますが、その組織について教えていただけますか。

アタリ 10年前に設立した組織で、80カ国で活動を行なっています。東京にもオフィスがあり、ジェトロや日本企業ともうまく協力しています。貧困と闘う組織としては世界最大でしょう。非常に貧しい人が、自分のスモール・ビジネスの資金調達を援助したりすることなどを通じ、彼らが世界の成長に参加するのを助けています。マイクロ・ファイナンス分野ではすでに、二億人の人に資金を提供し、アドバイスを行ないました。このような取り組みが、貧困との闘いに対するキーになる、と考えています。


ジャック・アタリ(経済学者)
1943年生まれ。仏国立行政学院(ENA)卒。81‐90年、ミッテラン政権の大統領特別補佐官を務める。91‐93年、ヨーロッパ復興開発銀行の初代総裁。2007年、サルコジ大統領に依頼され、大統領諮問委員会「アタリ政策委員会」の委員長を務める。

 
 
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