ジェームス・アワー/James Auer
総力特集 鳩山政権につけるクスリ
瀬戸際の鳩山政権、知日派からの警告
経済政策では素人ぶりをさらけ出し、普天間基地移設では現行案に逆戻り・・・・。
この体たらくを海外の目はどう捉えたか。
理念なき政治を"日本通"が一刀両断する!
集団的自衛権の「行使」から逃げるな
ジェームス・アワー(バンダービルト大学教授)

(月刊VOICE 2010年7月号)

沖縄の普天間基地移設は紆余曲折の末、日米で合意に達したが、結局、現行案に逆戻りした。レーガン政権で日米同盟強化に奔走した知日派のジェームス・アワー氏は国防総省で日本部長を務め、辺野古を数回訪問し、地元住民とも会話している。現在、バンダービルト大学日米研究協力センター所長を務めるアワー氏に、今回の騒動に対する率直な意見、さらには日本の安全保障に関わる課題を伺った。


時間を無駄にしたといわざるをえない


− 沖縄の普天間基地移設の顛末について、どのようにご覧になりましたか。

アワー 現行案は沖縄県民にとってもよい案である、私はつねにそう考えてきました。アメリカにとっては現状維持が望ましい状況でしたが、長期間にわたる交渉の末、この案は同意に達したのです。10年
以上の歳月が費やされているわけですから、非常に多くのオプションが考慮されている。他の案でこれ以上のものを得るのは難しいでしょう。

その内容は、沖縄に対する負担を実際に軽減しています。現行案の変更を主張する人たちは、沖縄県民のため、という言葉を使いますが、これ以外の案がほんとうに沖縄県民を助けるか、私には疑問で
す。辺野古にも何度か足を運んだことがありますが、名護市の東側と西側とでまったく違う。私が知っているかぎり、東側に住んでいる人は現行案をかなり支持しているはずです。他の地域に土地を保有し
ている人は、普天間から辺野古への移動が起きてほしくないと思っているかもしれない。彼らは多額の賃貸料が入ってくる現在の普天間基地を継続してほしい、と考えているのかもしれません。

− 日本の政治家の右往左往ぶりは、目に余るものでした。

アワー 行き詰まりを生じさせたのは日本の国内政治の問題であって、現行案に近いかたちで進められるのであれば、かなりの時間を無駄にした、といわざるをえないでしょう。さらにいえばその結果、不必
要に日米関係を悪化させてしまったことも否めません。おそらくその行き詰まりの原因は、案の内容ではなく前政権が決定したものだから、という理由だったのではないでしょうか鳩山首相の「日米関係は日
本の外交政策の基盤」といった言葉自体は、本心であると思います。

− 今回の移設問題は、日本政治の脆弱さを示したと思いますか。

アワー 日本の政治システムについてはコメントを控えます。私は民主党にいる優秀な議員を個人的に何人も知っていますが、民主党自身がどのような党であるか、きちんと理解することは難しい。同じ党
の中に、考え方が大きく異なる人がいるからです。

− 問題の大部分は鳩山政権に拠ることは理解できますが、オバマ政権の対応には問題がなかったのでしょうか。4月に行なわれた核安金保障サミット時、鳩山首相と十分しか会談時間を設けなかったこと
についてはいかがですか。

アワー オバマは鳩山政権に対し、フラストレーションを感じていたように思います。いま私はアメリカ政府の政策と関わりをもっていませんが、おそらく昨年11月の時点では、オバマはこの問題を鳩山政権が
年末までに処理する、と考えていたのではないでしょうか。しかし、実際には何も起こりませんでした。オバマは無礼な態度をとりたかったのではなく、「あなたはまだ決定していないのか」というメッセージを伝
えたかったのでしょう。

ただ一方、オバマがこの経緯にいささか失望したことも事実だと思います。昨年の段階で、鳩山首相は、"Trust me"とオパマに伝えました。かつて日米間に繊維摩擦が生じたとき、ニクソン大統領と佐藤首
相が会談しましたが、そのとき佐藤首相は、"I will try my best"と発言した。しかし鳩山首相はそれよりさらに強い表現である、"Trust me"という言葉を用いたわけです。鳩山首相はスタンフォード大学で博
士号を取得したはずで、英語をよく理解している、とアメリカ人は考えています。だからこそ、彼の言葉は重いし、発言には責任が伴う。

− 「海兵隊が抑止力と思わなかった」という驚くべき発言は、首相としての無知をさらすことになったのではないですか。

アワー その発言自体には、私は疑問を感じています。というのは、私は1988年の8月末に国防総省を去りましたが、私を最後に訪問した人が、まさにその鳩山氏であったからです。われわれは三時間も英
語で議論しました。そのとき「抑止力」について、若いながらとてもよく理解している、と感心したものでした。

− 沖縄における在日米軍の価値について、あなたならどのような説明を行ないますか。

アワー アメリカ人は日本人、あるいは日本のビールや寿司が好きだから、そこに駐留しているわけではありません。あくまでアメリカの国益のためです。太平洋はグローバル経済の中心であり、その安定
のため、アメリカは莫大な費用を掛けて米軍を沖縄に駐留させている。日本も同様にマクドナルドが好きだから、アメリカ人に親切にしたいから米軍を受け入れているわけではないでしょう。

不幸なことにいま、日本は地政学上、とても危険な地域に位置した状態であると思います。自衛隊という軍隊は保有しているものの、それほどバワフルではありません。そのような現実を考えた場合、日米同
盟を維持することで両国ともに国益を縫持できるわけです。その地域の平和を確保するため、米軍の駐留は非常に重要な意味をもっているのです。


エゴイステイックな行動は孤立を招く

− 今回の普天間問題を端緒として、日米関係は悪化しつづける、とお考えですか。

アワー 日本政府かきちんと約束を実行できれば、問題はないでしょう。国防という観点からいえば、両国の関係は非常にポジティブで、海上自衛隊と米海軍の関係も強力です。私にいわせれば、普天間
問題はどちらかといえば墳末な話で、もっと重要なテーマか残っています。それはもちろん、集団的自衛権に関する問題です。日本政府が集団的自衛権を直視するのかどうか、私にはわかりませんが、将
来、アジアに危機が生じたとき、非常に深刻な問題がもたらされることか予想されます。

− あなたが日米関係を仕切りなおせる立場にあるとすれば、まず初めに何をしますか。

アワー もちろん日本政府に対し、集団的自衛権についての政策を変えることを勧めます。あなたには子供がいますか?

− 娘が一人。

アワー いま何歳ですか。

− 18歳です。

アワー もし娘と公園を散歩しているときに猛犬か、気の触れた悪漢に娘か襲われたらどうします?娘を守りますか?

− もちろんです。

アワー そうでしょう。私の娘はあなたの娘よりも少し歳上ですが、とるだろう行動はまったく同じです。しかし、いまの内閣法制局の考えでは、「私の娘一人が襲われただけでは、娘を守ることはできない」とい
うのです。

2001年4月、小泉純一郎氏が首相になった週の日曜日、NHKは小泉氏にインタビューを行ないました。そこで小泉氏は、次のような発言をしたのです。「米海軍と日本の海上自衛隊が日本海に一緒にいて
、北朝鮮船のミサイルに攻撃されたとしましょう。もし海上自衛隊が攻撃されたら、米海軍は即日本を守りますが、アメリカの船しか攻撃されなければ、海上自衛隊はアメリカの船を守ることかできない。これ
は非常におかしい状態で、研究しなければならないテーマであると思います」。

先ほど述べたような状況で、アメリカが日本を助けることはできても、その逆ができないのは、日米関係に亀裂を生じさせる可能性がある。だから小泉氏は集団的自衛権の行使が日本の国益になるか、研
究すべきといったのでしょう。実際、9・11同時多発テロか発生すると、小泉氏は迅速に行動し、テロ特別措置法を通しました。日本のタンカーはインド洋に行くことができ、日米関係は強化されたのです。

同じように鳩山氏も、首相になる前、日本は集団的自衛権を行使する権利がある、と明言しています。しかし、いまのところその議論に触れる気配はありません。

− その民主党政権はインド洋給油を停止して、資金提供、民生支援を中心とするアフガン政策を打ち出しました。

アワー もちろん世界はお金を歓迎するでしょうが、一方で自衛隊は、スーパーパワーではないとはいえ、有能な軍隊です。そこでもし、一人たりとも兵士か殺されたくない、自分たちだけか守られたい、と
言い出すならば、残念ながらその考え方はアメリカ人に理解されないでしょう。日米同盟があるかぎり、ノーマルな国として日本は行動する、とアメリカは思っています、そもそも小沢一郎氏自身、「日本はノ
ーマルな国になるべき」といったわけですから。

「私は絶対に戦争をしない」といって、いまあなたが「娘が襲われたら戦う」といったように、アメリァは日本が襲われたら戦闘を行ないます。そのような状況であまりにエゴイスティックな行動をとるのであれば、
将来的に日本か孤立する可能性も考えられます。

− 鳩山氏は反米だ、という人もいます。

アワー そうではないことを望みます。鳩山氏は、いわゆる旧自民党タイブの人間といってよいでしょう。民主党の哲学のなかには筋が通っているものもありますが、鳩山氏も小沢氏にしても、新しい哲学を考
案するようなクリエイターではありません。たとえ今回の参議院選挙で民主党が負けたとしても、2〜3年は首相の座を民主党のリーダーが牛耳るでしょうが、そのような権力と哲学の変遷を観察することは、長
年日米関係を研究してきた者として、輿味深いものがあります。

鳩山氏は、日米同盟をもっと対等なものにしたい、と発言しました。そのことについてアメリカはほぼ同意していますが、対等にしたくない、と考えている人もるようです。一方で日本にも、日米関係に対する
貢献をもっと少なくしたいと考えている人かいる。その典型が今回の普天間問題である、といえるのではないでしょうか。


日米両国の国益をしっかり一致させよ

− 東アジアにおける戦略環境という点では、日米両国は同じような認識をもっていると思われますか。

アワー 今年2月に訪日したとき、BSフジの生放送番組に出演しました。その内容はODR(4年に一度の国防計画見直し)に関してで、私の教え子である長島昭久防衛大臣政務賃、退職した自衛隊員と私の
三人のパネリストで討論を行ないました。三人は同じ考えでしたが、一方で日米の国益は大きく異なる、という人もいます。

双方とも繁栄を願い、平和でありたいと考え、核拡散に反対しているという意味で、日米両国の国益は同様であると私は思っています。そしてそれをしっかり一致させるには、やはりどちらの国にも優秀なリ
ーダーシップが必要でしょう。

− オバマの中国や東アジア諸国に対する政策については、どのようにご覧になっていますか。

アワー 中国は経済大国だから、かつてのソ連のような敵国に回したくない、と考えているように思います。しかし中国は、日本とシステムがまったく異なる。もちろん民主主義でないし、純粋な自由主義経済
でもありません。だからこそ、アメリカは日本とパートナーシップをもつごとを望んでいるのです。

− 最後に日本人へのメッセージを。

アワー 日本の国益とは何か、ということに従って行動してほしいと思います。国内の欧治的な理由、たとえば前政権の政策だったから、という理由で反対することはやめてほしい。

かつてピールや泡盛を飲みながら、辺野古の人たちと話した内容が忘れられません。彼らはみんな、「米軍に沖縄を離れないでほしい」といっていました。「もしアメリカが去ってしまえば、われわれは中国に
乗っ取られる」と本気でいったのです。『琉球新報』や『沖縄タイムス』はわれわれに取材を行なったことがない、と。何がほんとうの国益か、いまこそ普天間問題を奇貨として、もう一度、考えを深めるべきではないでしょうか。

 
 
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