ジム・ロジャーズ/Jim Rogers
アメリカ経済の大失敗
債券が下落し商品は上がり調子なのに金利を下げる愚

(月刊Voice 2007年12月号)

ジム・ロジャーズは一九七三年「クォンタム・ファンド」をジョージ・・ソロスとともに設立。十年間で3365%のリターンを得た伝説の投資家である。
一九九八年「Rogers International Commodity Index (RICI)」設立。八O年代から九〇年初頭にかけてはオートバイで世界六大陸を渡った。現在の金融をめぐる状況を聞き出すため、私は最近彼が移住したシンガポールまで飛んだ。自宅のあるコンドミニアムのジムで、バイクをこぎながら一時間にわたって、ロジャーズは忌憚なく語ってくれた。



片手間で投資はできない


−まず、長年住んでおられたニューヨークを離れ、シンガポールに移住したのはなぜですか。

ロジャーズ 中国は21世紀において、世界で最も重要な国になります。最初は中国の都市に移住しようと思い、いくつかの都市に実際に行ってみたのですが、あまりにも大気汚染がひどかった。私も家族も、その空気を吸いたくなかったのです。一方、シンガポールはいろいろな点で条件が揃っています。中国語も英語も話し、世界で最高の教育システムがあります。ヘルスケアも最高です。だからシンガポールにしましちゃ。香港や上海、大連も候補になりましたが、やはり大気汚染がひどすぎますね。

私の娘は生まれてから、ずっと北京語ができます。中国語を話す都市に移住しようと思ったもう一つの理由は、娘が北京語を完璧に話せるようにさせたかったからです。繰り返しますが、21世紀は中国の世紀になります。19世紀は英国の世紀。20世紀はアメリカの世紀でした。私の娘は2003年生まれですが、これから生まれてくる子供たちをどう教育するかという問いへのベストアドバイスは、中国語を完璧にマスターできる環境で育てる、ということです。

−あなたの投資哲学について、伺いたい。

ロジャーズ もっとも基本的な哲学は、Buy low and sell high.(安く買って、高く売る)ですが、何か安くて、何が高いかを見極めることが非常に難しい。私がやってきた方法は、まず安いものを探すことから始まり、そこにプラスの変化が長年続いているかどうかということが決め手になります。一時的な変化ではなく、大きなプラスのうねりが起きているかどうかです。売る場合は非常に高いときで、大きなマイナスのうねりが起きているとき、しかもそれが長く続いているときです。

買うときは安いので、判断が間違っていても大きな損失を出すことはありません。でも、たんに安いだけではダメです。ずっと安いままかもしれないし、それよりももっと安くなるかもしれない、株価などを決定する基礎的条件(fundamentals)を見て、プラスやマイナスの変化が起きていると判断できるものであれぱ、おそらく大儲けをすることができるでしよう。

−その判断はどうやってするのですか。

ロジャーズ すべての点で裏付けをとらないと判断できませんが、一筋縄ではいきません。資料を読んだり、旅に出たり、散歩したりして、実際に、プラスの変化につながることが起きているのを目の当たりにすることが重要です。それに加えて多くのホームワーク(自宅学習)をして、自分が正しいと確信するのです。いままでの人生で私が犯したどの間違いも、十分なホームワークをしてこなかったことが原因です。ブローカ-やメディアに責任があるのではなく、つねに自分が悪かったのです。間違いをするたびに、十分なホームワークをしていなかったと気付きます。

−ブローカーのアドバイスに耳を傾けることはありますか。

ロジャーズ 日本であろうと、中国であろうと、アメリカであろうと、世界中のブローカーがいうことを私はいっさい信じないので、ブローカーと話もしなければ連絡もしません。ブローカーと話す唯一のときは、注文するときだけです。

−投資を片手間にやる人もいます。

ロジャーズ 片手間でやるのであれば、投資はやるべきではありません。そういう人は、銀行に預けて、微々たる利子で満足すべきです。でも一つだけ、片手間でやって成功する方法がある。それは、自分が熟知している分野で投資をすることです。スポーツ、車、ファッションなど、どの分野でもよい。

もしあなたがファッションについて詳しいとすると、それだけに集中するのです。自分がよく知っている分野であれば、大きな変化が起こるときに気づくからです。新しいファッション関係の会社に旬なデザイナーがいて、デザインも素晴らしいということがわかり、それをきっかげとしてホームワークをすると、何かが判断できる。そういう人は私よりも、ファッション界の少しの変化に気付くことができるのです。

どんなストックプローカーよりもファッションについて詳しいのだから、きちんとリサーチして、株が安くて、すべての条件が組み合わさっていて、数年間非常にうまくいっていれば、株買う決断をすることです。これは本職とは別にやるので一見、片手間に見えるかもしれませんが、専門的に投資するので片手まではありません。これなら本職を辞めないでも本格的に投資をすることができます。大きな成功を収める可能性も非常に高い。


中国のバブルは必ず弾ける

−経済は、いろいろな要素から成り立っていますが、金融市場の役割とは何ですか。

ロジャーズ それは資本の源です。経済成長するには資本が必要で、投資によって資本が増えるのです。資本がなげれば工場も、高速道路も建設できません。金融市場がなければわずかな資金だけになるので、何も建成できません。

資本を増やすには投資が不可欠です、投資がなければ経済の成長はわずかで、しかもスローなものになる。まず経済発展は望めないのです。資本主義経済がない国の経済は、成長しませんでした。ソビエトは金融市場がなかったので、経済成長がなかった。事実、崩壌してしまったほどです。金融市場が完璧だといっているのではありませんが、これ以上よいシステムは誰も考え出していません。社会主義も共産主義もうまくいきませんでした。共産主義国のリーダーたちはお金持ちになったかもしれませんが。神政政治もダメでした。国民全体の生活水準を上げるシステムで成功したものは、資本主義しかありません。

−金融市場では、お金がお金を生むメカニズムがあります。

ロジャーズ 賢く投資すれぱ、さらにお金がお金を生むメカニズムです。それで世界か動いているのです。具体的にいえば、投資で資本が増えると工場ができ、そこで仕事が生み出され、市民の生活水準が上がります。これほどよいシステムがどこにあるでしょうか。工場をつくって製品や食品を生産する企業もお金持ちになり、そこで働く人にもお金が入って生活水準が上がる。株主もお金持ちになり、政府も税金が入ってくるから利益を得られる。皆の生活水準を上げたければ、資本主義がベストです。

−工場で働いている人は毎日汗水垂らして働いてもそれほど高給をもらえないから、なかには文句をいう人もいますね。

ロジャーズ もし腹が立って、工場に放火して焼き落とし、オーナーを殺害してしまえばもっと生活が苦しくなり、行き場もなくなるでしょう。彼らはシステムを理解していないので、工場を燃やしたらどうなるがわからない。北挑戦やキューバなど、資本主義はよくないといっている国に行って生活すれば、いまのシステムのほうがいいことがわかるでしようね。

−資本主義がベストであることはわかりましたが、世界はいま金余り現象による問題が生じ、けっしてよい状況でもありません。

ロジャーズ 資本市場では往々にして金余りが生じます。いまがその状態にあるのは確かですね。アメリカの中央銀行も、中国の中央銀行も、膨大な量の紙幣を印刷しています。これがバブルを引き起こし、投機にもつながる。ますます世界中でインフレが悪化し、利率も上がり、近いうちに痛い目を見るでしょう。

−なぜ政府は紙幣をどんどん印刷するのでしょうか。それは悪循環になるのではないか。

ロジャーズ そのとおりです。紙幣をどんどん印刷すれば債券か値下がりし、インフレか悪化し、通貨を弱くし、投資家がお金を失いはじめます。彼らを救済するために、政府はさらに紙幣を印刷する。そしてますますインフレが悪化する。

世界中で同じような状況が生じています。あちこちの中央銀行か犯している重大な間違いです。最終的には誰もが憂き目を見るでしょう。

金余り現象の一つかバプルで、これは中国で生じています。もう一つのバブルは西側諸国です。西欧の投資銀行は巨額のお金を儲けています。三十歳たらずの人が、年闇一〇〇〇万ドル以上儲けているのです。彼らはこれが正常であると思っているし、世界はこのように動いているとも思っていますが、やはり異常です。

しかし歴史を振り返れぱ、このバブルは例外なく弾けます。いま中国で起きているバブルも必ず弾け、その後、何年も厳しい時代が続くでしょう。これが資本主義の問題ですが、それを止める方法は思い付きません。屋根の上に立って皆に、「これはバブルだ。注意せよ」と注意を促すしかありませんが、ただそうやって警鐘を鳴らしても、聞く耳をもつ人はいないでしょうね。1980年代後半に生じた日本のバブルは巨大でしたが、誰も警鐘に耳を傾けませんでした。

このバプルは大惨事になる、といっても笑われるだけでした。すべてのバブルは弾けるということが、日本人には理解できなかったのです。

−歴史という言葉が出ましたが、著書のなかでも歴史を学ぷことは重要だといっておられます。

ロジャーズ パブル一つとってみても、何回も過去に起きていることなのです。電気が発見されたときも、鉄道、ラジオ、、テレビ、コンピュータなどさまざまなものが発明されたときにも、バブルが生じました。いつも同じようなパターンで起きているのです。少し落ち着いて歴史を見ると、それが同じパターンで繰り返されていることがわかりますが、そう説明しても誰も耳を傾けない。戦争であれ、飢饉であれ、疫病であれ、不況であれ、すぺてのことは過去に起きているのです。

−歴史の重要性にはいつ気づいたのでしょうか。

ロジャーズ エール大学を卒業し、オックスフォード大学に留学していたときです(注記:1966年オックスフォード大学卒)。英国史を勉強しているときに歴史の重要性に気づきました。過去に起きたこととほぼ同じようなことがまた起きている。しかし世界は同じではなくなっている。歴史を見なければ、いまのことが理解できないとわかったのです。

ただし、当時はまだその意味を十分に理解できていなかったようにも思います。のちにウォールストリートの投資の世界で働きはじめたとき、歴史の重要性を痛感しました。そのとき閃くような体験をしたのです。これは過去に一回起きている、いや二回起きている、ということに気付きました。This is the way the world works ! (世界はこういうふうに動く!)と思ったです。

ここで強調したいのは、歴史は日々の投資のオペレーションには役に立ちませんが、何か事が生じているとき、同じことが過去に起きていると気づかせてくれる、ということです。
日本はバブルを経験し、いまはそれが弾けて世の終わりだ、と思っているでしょうが、過去にもバブルは何回も起きては弾けているけれど、世の終わりになったことは稀です。歴史的に、大局的に見ると、実際にバブルが起きたときにも視点を失わず、何を見るべきかといいうことがわかるのです。


ヘッジファンド規制論議は意味不明だ

−ドイツG8で初めてヘッジファンド規制が議題に上がりました。

ロジャーズ すべての投資は世界中で規制されていて、ヘッジファンドも例外ではありません。これをG8で話題にするような政治家は金融市場を理解していない。ヘッジファンドを規制せよといっているのは、何を意味しているのかわかりません。
ヘッジファンドに対して違うルールを作れ、というのでしょうか。ヘッジファンドだけにルールを厳しくせよ、というのでしょうか。それとも甘くせよ、というのでしょうか。規制、規制と叫んでいるだけで、まともな答えを聞いたことがあり.ませんo

−アメリカのサププライムローン問題でもヘッジファンドが注目を浴びました。

ロジャーズ ヘッジファンドがサブプライムローン問題をつくったのではありません。日本の銀行、保険会社、中国の銀行、ドイツの保険会社、フランスの投資信託など多くの人がサブプライムに投資しました。バンカーが問題つくったのです。
世界中の中央銀行が、サブプライムヘの投資を買っても大丈夫だといったのです。サブプライムヘの投資で大儲けしたヘッジファンドは、頭のよい投資家です。

−しかし、ヘッジファンドが注目を浴びたのは事実です。

ロジャーズ それはメディアがそう書くからです。ヘッジファンドは他の投資に比ぺて新しいので、メディアによって悪者扱いされやすい。一般人はヘッジファンドのことがわからないから、メディアが書き立てるとそう思ってしまいます。
1920年ごろにはメディアはpools of capital(共同出資)のことを書き立てた。1980年代後半、日本では誰もが金融工学のことを口にしていていた。新しいことが出てくると、メディアはまるで空からそれが落ちてきたかのように書き立てるのです。

−ヘッジファンドというと、どうしても否定的なイメージがあります。

ロジャーズ いまはそうですが、4年前はプラスのイメージがありました。人々がヘッジファンドに対してマイナスイメージをもつ理由がわかりません。損すればマイナスのイメージをもち、得すればプラスのイメージをもつ傾向はありますね。1908年代後半、日本ではストックブローカーと投資信託はプラスのイメージだった。しかし1995年には、この二つの言葉にはひどいマイナスイメージをもつようになった。1980年代後半は、皆か儲けていたからです。


2008年のアメリカ経済を読む

−いまの世界経済が直面している問題を解決するには、どうしたらよいですか。

ロジャーズ アメリカから話をしましょう。アメリカは莫大な借金を抱えています。世界史的に見ても一国か抱える借金としては最大で、世界を破滅させるほどの金額です。
アメリカは、地政学的にも、軍事的にも、経済的にも、財政的にも最悪の問題を抱えています。しかし何をいってもアメリカ国内にいる人は耳を傾けようとしない。頑固でやり方を変えようとしないから、解決のしようがありまぜん。
昔、強国であった国のすべてに起こったことと同じことが、アメリカで起きているのです。栄枯盛衰です。頂点に達したあとは落ちるしかありまぜん。

−2008年のアメリカ経済はどうなりますか。

ロジャーズ インフレと景気後退が同時に起きているので2008年は厳しい時期になるでしょう。
いまアメリカは利率を下げるというひどい間違いをしています。債券市場は下降線をたどっていて、商品市場は上り調子ですから、利率をカットするのは間違いです。景気後退がさらにひどくなり、最悪の状態になる。2、3年のあいだに深刻な危機がやってくるでしょう。

−それでは2008年の世界経済はどうなりますか。

ロジャーズ アメリカ経済が悪化すると当然、他国の経済にも影饗が出ます。とくに西欧諸国は影響を受ける。アジアはアメリカの債権者だから、そこまで影響を受けることはないでしょう。日本の株価は下がるかもしれませんが、アメリカの株価はもっと下がる。アジァのなかでもひどく影響を受ける部分とそうでない部分があって、中国は、影響を受けないところが多いでしょうね。


グリーンスパンは史上最悪の議長である

−ロジャーズさんは、現在は「商品の時代」だといっていますが、それはいつまで続くと思いますか。

ロジャーズ はっきりとはわかりませんが、歴史的に見れば、商品の時代は18〜19年続いています。過去がそうだからといって将来も同じとはかぎりませんが、いま私がわかっていることは、この40年間で誰も大きな油田を発見していないこと。25年間に一つだけ鉛の鉱山を見つけたことです。最後に鉛精錬所がつくられたのは1969年なのです。麦畑の総面積はこの30年間滅ってきていますが、しかし世界が突然変わらないかぎり、商品の時代はまだまだ続くでしょう。

−ドル覇権はどうなりますか。

ロジャーズ ドルはいずれ世界準備通貨としてそのステータスを失います。イギリスのポンドが世界準備通貨だったが、70年前、世界はドルに移行しました。ポンドがそのステータスを失ったようにドルのステータスも失われるでしょう。

歴史全体を見たらわかるように、同じことが過去に起きているのです。世界で、強い通貨か2、3種類あり、その通貨が一時期を支配しますが、その後、弱くなり、別の通貨に取って代わられる。もし私があなたであれぱ、私はドルをもちません。

−FRB(連邦準備制度理事会)前議長のアラン・グリーンスバンは、最近自叙伝を出しました。

ロジャーズ グリーンスバンはすべてにおいて正しくありませんでした。1970年代のグリーンスパンを知っていますか。

1974〜77年、彼はChairman of the Council of Economic Advisors(経済諮問委員会委員長)でした。インフレが始まったのは1974年ですが、彼がそのときとった政策はWINというもので、Whip Inflation Now(いまインフレを鞭打て!)の略です。しかしインフレを終わらせるはずが、逆にアメリカ史において最悪のインフレをもたらしたのです。その失敗が原因で彼は地位を失いました。そのあと民間企業に移りましたが、そこでも失敗した。政府に戻ると1987年に株の暴落が起きました。彼がいうことはクレージーで人を恐れきせる発言ぱかりだったから、株が暴落したのです。

FRBにいた20年間もつねに間違っていました。アジア通貨危機のときはゴールドマン・サックスやウォールストリートの友人たちを救済するために、莫大な量の紙幣を印刷しました。それがバブルを生み出した。経済はすでに悪化しはじめていました。バブルは弾けると利率を1%まで下げ、それが次のバブル、つまり住宅と消費のバブルにつながったのです。それかさらに他のバブルにも連関して、いま弾けているところです。グリーンスバンは何をやっても間違っていた。これほどまでに失敗を続けるのは驚くべきことです。皆がいま過去を振り返って、いかにグリーンスパンか間違ってたかに気付いて驚いているところなのです。

−彼は自分がいかに間違っていたか、ということに気付いていないのでしょうか。

ロジャーズ 気付いたとしても口に出していわないでしょうが、恐らく気付いていることでしょう。自分の評判を維持しようとしているだけです。彼は史上最悪の中央銀行の議長として歴史に残るでしょう。現FRB議長のパーナンキもどうしようもありませんが、二人合わせるとアメリカの中央銀行の歴史で、もっともひどい時期といえるでしょう。

アメリカにはこれまで3つの中央銀行が存在しました。一つ目が失敗して消滅し、5年後の1816年、二つ目の中央銀行ができた。しかし、第七代大統領のアンドリュー・ジャクソンが拒否権を使いその延長を拒否、その後、中央銀行がない状態が1912年まで続いたのです。三つ目もグリーンスバンとバーナンキのせいで失敗するでしょう。すでに二つの中央銀行が消滅しているので、三つ目が最悪とはいえないかもしれませんが。

−率直な意見お聞かせいただき、ありかとうございました。

 
 
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