ジム・ロジャーズ/Jim Rogers
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中国・進化する管理経済
素早い政策決定がもたらした消費ブー.ム

(月刊Voice 2009年8月号)


なぜ上海総合指数は上昇しているか

− 2008年に08年最高値となる1706.703をつけた上海総合指数は09年6月10日、10ヶ月ぶりの高値となる2816.247まで上昇し、そのあいだの上昇率は65%にも達しました。

ロジャーズ 株価が下がるとファンダメンタルズがどのような状況であれ、必ずリバウンドが起こります。中国政府は万一のき(rainy day)に備えて貯蓄をしてきましたか、その万一のときがやって来たのです(now it is raining)。膨大な貯蓄を公共事業を通じ、株価上昇のために使っています。

つまり、中国政府がしっかり貯蓄をしてきたこと、危機のいま、それを賢く使っていること、二つの要索が中国市場を上昇させているのです。

2007年から中国株は60〜70%下落しましたが、アメリカでも日本でも、同じような現象か起きました。そこからリバウンドが起こっているわけですが、しかし世界がパニック状態に陥った昨年のリーマン・ショック以来、私は中国株を買っていません。中国はいま、世界でもっとも大幅な上げ相場の一つですが、急に上がったものに飛びついたりはしないのです。

これからさらに株価が反発して上がっても、それに対して私は懐疑的です。しかしもちろん、いまもっている中国株を売ることは考えていませんし、大きく下がれば買い増しを行なうでしょう。

そして何より、中国の産業株は魅力的です。歴史的にみれば、経済にどのような事が起きようとも、必ず最後に産業株は伸びる。とくに水処理産業と農業の将来は明るいでしょう。農業に対してはほんとうに強気です。商品(commodities)はファンダメンタルズが好転している、世界中で唯一のセクターです。

私の場合、株が下がっても商品で儲けることができます。世の中の投資家は新興国株こそ儲けどころだと思っているようですが、私は一、二年前、中国以外の新興国株をすぺて売り払ってしまいました。台湾株は少し買い戻しを行ないましたが。

− それではあなたがいま、実際に買っているものは何ですか。

ロジャーズ スイス・フランと円です。キャリートレードでやられた(beaten down)からで、いつかは元に戻るからです。さらには米国債を空売りしています。やがてアメリカはインフレになり、さらに国債残高が増えていくと考えているからです。

− 中国株は有望、といわれましたが、ディスクロージャー(情報開示)の透明性という部分でいえば、まだまだ十分ではない点があるのではないでしょうか。

ロジャーズ それはアメリカ企業のことをいっているのですか(笑)。破綻したペアー・スタ一ンズやリーマン・ブラザーズのことをお忘れですか?

歴史的にみても、透明性の問題はどの国の企業にも存在しています。そこではただ、慎重に分析を行なうしかありません。しかし、もしそこで自分がいったいどの企業の株を買っていいのか分からなければ、商品を買ったり、インデックス投資を行なったり、通貨を買えばよい。特定の企業の株を買うことを避ける方法はいくつもあるのです。


資本主義化する中国、社会主義化するアメリカ

− リーマン・ショック後、アメリカをはじめ西欧の資本主義国は一斉に、銀行の国有化や企業救済など、“社会主義国化”したかのような政策を打ち出しました。しかし、そのようなシステムをかつてから構築してきた国、それこそが中国です。株価か急回復しているのも中国の体制が、極端にいうなら「最先端の経済モデルだから」といえる部分があるのではないですか。

ロジャーズ 現在の中国はますます資本主義的になっています。アメリカは逆で、ますます社会主義的になっている。世界的に見て、これは大きなシフトです。

いまから20〜30年たてば、アメリカではさらに政府のコントロールが増大し、混乱も増すでしょう。一方で中国は政府のコントロールが減少し、大成功を収めるでしょう。

中国の経済システムは最先端であるとは思いません。ケ小平は1978年に「われわれは何か、新しい事を始めなければならない」と言いました。そして「黒猫であれ、白猫であれ、鼠を捕るのが良い猫である」ともいいましたが、それ以来30年間、資本主義化の路線を中国は歩んできたのです。すなわちこの30年で、ますますオープンな市場になった、ということです。

このようにオープンになって資本主義化する市場は、閉鎖的になって社会主義化する市場よりもずっと素晴らしい。中国の変化の方向は非常に健全です。だからこそ、これからは「中国の時代」である、と私は言いたいのです。

− しかし中国は国家管理経済が発達しているため、資本主義国に比べて政策決定の実行スピードが速く、それが迅速な経済対策の実施につながっているという面はないのでしょ
うか。

ロジャーズ 中国は多くの経済のセクターでビューロクラシー(官僚制)、すなわち意思決定における煩雑なプロセスがありません。だから政策決定が早いのです。もちろんそれがまったくないといっているわけではありませんが、経済セクターのほとんどの部分はフリーマーケット状態になっています。現在のアメリカや日本において、このような状態は考えられません。あまりに意思決定がビューロクラティックであるため、政策を実施するのが遅れてしまうのです。

− 中国政府がスピーディー打ち出した4兆元の投資を含む内需拡大策は、その強みを最大限、生かしたものだと思います。中国経済の回復に対する期待感が日本の産業界でも高まっていますが、内需型経済へのシフトはうまくいくとお考えですか。

ロジャーズ 内需を高めることは長期的な戦略として有効です。しかし、そのためには消費者支出を高めるための政策が必要となる。国民の収入を上げること、自動車購入を奨励すること、田舎の市場を開発すること、不動産市場を安定させ、とくに低収入世帯に住宅を提供し、昨年の四川大地震で破壊された地域の再建を加速すべきです。

中国政府は、農民や収入があまり多くない都市生活者への援助を続けています。9080億元もの金額を使い、国民生活を向上させ、消費を刺激する状況をつくろうとしているのです。

中国の場合、財政出動を倍にすることには問題がありません。外貨準備高として1.94兆ドルあるわけですから、むしろ本当に必要な部分にどうやってお金を回していくか、というほうが重要でしょう。銀行は、規模か小さかったり、田舎にある企業にはお金を貸しません。一方で、そのような企業もお金を借りようとはしません。

しかし、私は6月半ばにバケーションで10日間ほど中国に滞在しましたが、すでに奥地は消費ブームになっていました。金融危機のかけらも見られません。甘粛はとても賑わっています。道路や灌漑用水賂はいうまでもなく、鉄道だけでも126本が建設されているのです。


FRBの政策は破壊的だ

− そのような強みを生かしながら中国はさらに資本主義化し、大成功を収める。一方で、アメリカ経済はどのように復活するのでしょうか。現在のダウ高や、好転しはじめた企業業績をどうご覧になっていますか。

ロジャーズ アメリカには立ち直り(rebound)や相場の反発(rally)か見られますが、以前のような最強の状態に比べれば、もはや世界でもっとも裕福でバワフルな国家ではありません。

現在、了メリカが行なおうとしているのは、まさにあなたが指摘したように、さらなる社会主義的な政策です。いま市場が求めているのは信用できる計画です。リーマン・ショックヘの対応に見られるように、アメリカ政府が計画を発表するたび、市場は崩壊していきました。

市場は絶えず半年、一年先を見ています。巨額のお金か印刷され、金利が上がって高インフレになることを予想しているのです。だからその計画は嫌われ、通貨が混乱し、市揚は
悪化するのです。

− FRBB(米連邦準備制度理事会)が行なっている巨額の財政出動は、景気を刺激することにはつながらないのでしょうか。

ロジャーズ アメリカ政府の計画は、ヘソリー・ボールソン前財務長官の友人たちを助けるだけです。財政出動で使われる税金を払っているような貧しい人たちを救済することにはなりません。根本的な問題解決ではないのです。

アメリカはいま、大幅なリセッション状態にあります。ヨーロッパ各国も、アメリカやヨーロッパと関わりのあるアジア諸国も同じ状熊です。これほどの信用不安が訪れたことは、アメリカの歴史はもちろん、世界史を振り返っても見当たりません。われわれは皆で、この代償を払わなければならない。いまから半年後、「これでリセッションは終了です。再出発しましょう」というわけにはいかないのです。

アメリカは金利を下げ、危機に対処しようと.していますか、それは破壊的な対策です。自らドルの価値を下げようとしているのです。中国は金利を上げているのですよ。FRBの政策は、世界を見回しても史上最悪です。おそらく、次の10〜20年で、アメリカの中央銀行は消滅してしまうでしょう。


人民元が基軸通貨になる日

− アメリカがさらに混乱し、中国が大成功すれば、いつの日か、アメリカに代わって中国か21世紀の覇権を握る日が来るかもしれません。ジョージ・ソロスはタイム・フレームに触れることなく、中国はいつかアメリカを追い抜くだろうと述べていますが、どう思われますか。

ロジャーズ そうなるかもしれませんが、それはもっと先のことです。次の10年、20年では起こりません。

− 他のインタピューで、長期的にみれば人民元がドルに代わって基軸通貨になる、ともいわれています。

ロジャーズ いずれドル以外の通貨が基軸通貨になる、という発言をしてきましたが、いまその地平線上に見えている通貨は人民元です。現状、人民元は管理通貨ですから、いますぐドルに取って代わるという議論はクレージーです。しかしさらに長い目でみれば、これから何がどう動くかは誰にも分かりません。

先ほど述べたように、中国は日々市場をオープンにしていますから、長期的にみれば、その可能性は十分にあるでしょう。事実、ブラジルのルーラ大統領は、中国への請求は人民元建てで行なう、という提案を行なったほどです。やがて台湾との貿易にも、人民元が使われるかもしれません。そのような動きが大きくなっていけば、人民元は自由に変動する通貨になる必要が出てくるでしょう。そうなった場合、ドルに対してその価値も劇的に上がります。

2010年のあいだにも、私はドルの下落が起こるのではないか、と見ています。ドルはとても欠陥のある通貨です。ユーロのほうがその欠陥が少ないといってよい。私はアメリカ人ですからドルを信用したいのですが、現実とともに生きていかなければなりません。今年か来年までに、できるだけドルを売ろうと考えています。

ドルが反発しているように見えても、それは人為的な動きであって、騙されてはいけません。アメリカはけっして安全な避難場所(safe haven)ではありません。一見、経済規模が大きいように見えますが、世界最大の債務国なのです。他国に対して13兆ドルもの赤字がある。なかでも中国に対する貿易赤字は巨額です。

これは、通貨の質を下げて解決できる問題ではありません。歴史的にみても、通貨の質を下げてこの問題を解決できた国は存在しません。アメリカは何年ものあいだ、円に対してこの方法を使い、解決を試みてきましたが、けっしてうまくいきませんでした。問題はもっと根深いところにあるのです。だからこそ、私は自分がもっているドルを売ろうとしているのです。

− アメリカがもう世界経済を牽引できないとして、次の主役に中国がなることはありえますか。

ロジャーズ 中国はいまもっとも成長している経済国ですが、世界経済全体をスランプから脱出させることは難しいでしょう。現時点では中国経済とインド経済をあわせても、アメリカ経済の規模のほうがはるかに大きいからです。4兆元の財政出動といっても、そういう観点からみればあまりに少額です。

しかし、中国の銀行は十分資本をもっていて、その貸付は経済成長に直結します。世界中が混乱していますが、その資本を貸し付けることで、中国は自国産業をいち早く救済する
ことができるのです。その結果、それが世界経済にプラスの影響を及ぼしていくのは間違いないでしょう。世界経済を救済するまでには至らないでしょうが、世界の人々の自信(confidence)に大きな影響を与えるのではないでしょうか。


 
 
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