ジム・ロジャーズ/Jim Rogers
アジアに富が集中する時代
保護政策を撤廃しなければ、
日本だけが衰退する

(月刊VOICE 2010年3月号)


借金で膨れ上がるアメリカ

2008年9月15日のリーマン・ショック後、世界経済は大混乱に陥りましたが、その後の一年で世界の株価は26%も上昇し、コモディティ(商品)価格も右肩上がりになっています。このような事実をみると、世界経済は回復しているように思えるでしょう。

実際のところ、たしかに回復を始めているところもありますが、その前にそもそも、それほど大きな打撃を受けていなかったセクターがあった、ということを知っておくべきです。具体的には農業や水処理産業はそのような問題があったかどうかすら、もはやわからないほどです。しかし、自動車産業や住宅産業、保険、銀行などの金融業はいまだ不況の真っただ中にある、そういってよいでしょう。

経済が急速に悪化したとき、世界中の政府は財政を出動し巨額の税金を便いましたから、一部でもその恩恵を被ったような人は、暮らし向きがよくなったと感じているはずです。しかし残念ながら、お金はマジックで作り出せるものではありません。政府が借りてくるか、印刷するか、税金を使うか、そのいずれかの方法で調達しなければならないのです。

多くの人の目にはいま、アメリカ経済が好調であるように映るでしょう。しかし私にはそうは見えません。アメリカはこの二年間で借金を何百パーセントも増やしてきました。そのお金を受け取った人たちにとっては、一時的には景気かよくなったかもし.れません。しかし、アメリカという国家は、ますます借金で膨れ上がっているのです。表面的に好調に見えるのは、パンドエイドを貼って取り繕っているだけです。あるいは、がん患者にモルヒネを打って沈静化させているようなものです。一日、二日は具合がよくなったと感じても、体の中はどんどん悪化しつづけています。それがいま、アメリカという国のなかで起こっている現象です。

次に問題が起きたとき、それが2010年の終わりか、あるいは2011年、2012年のいずれになるかはわかりませんが、事態はいっそう悪化することは間違いないでしょう。


コモディティこそ最適な投資先

そのような世界では、何が起きようともコモディティとその生産者が最もいい状態に位置するようになります。仮に世界経済が回復した場合、世界的に物不足が生じますから、コモディティか最適な投資先となります。一方、世界経済がよくならない場合も、コモディティが最適な投資先になるの.です。

さまざまな策を講じても経済が回復しなければ、政府はさらに多くのお金を印刷します。そして歴史を振り返れば、お金がたくさん印刷されたときは必ず実物資産とコモディティの価格が高くなっているのです。今回もまた、以前と同じようなことが繰り返されるでしょう。

たとえばコンゴは多くのコモディティを生産していますが、政治がうまく機能していないので、私は目を向けてはいません。しかし、きちんと管理されていて、そこに多くの天然資源かある国に注目すれば、おそらく大儲けができるはずです。その国が多くのコモディティを生産すればするほど、人々の暮らし向きもよくなるでしょう。

そして、そのようなコモディティのなかでも農業こそ、これからの20、30年を考えたとき、もっとも重要な産業になります。この30年間、農業はひどい状態に留め置かれたままでしたが、今後はよいかたちに好転するでしょう。

それ以外にも発展が見込めるビジネスとして、水処理産業、アジアのツーリズム、とくに中国のツーリズムは大きな産業へと成長するように思います。アジアのインフラ整備もそうでしょう。

中国は、いざというときのため、巨額のお金を備蓄してきました。いまこそまさに、その「いざというとき」です。中国は発電、ハイウェイ、港、空港などのインフラに対して、積極的に投資するでしょう。


原子力発電は経済的競争力がある

一方、世の中ではこれから大きな成長が見込めるだろうジャンルとして、グリーン(環境)産業に注目が集まっているようです。とくに政治家たちにとって、グリーン産業は非常に人気があります。

しかし、彼らがグリーン産業を好きな理由は、市民にアピールしやすい、という理由にほかなりません。「私は汚い空気が好きです」といいたい政治家は誰もいないでしょう。「私は綺麗な空気が好きです。件の悪人からエネルギーを買う必要はありません」と皆の前で堂々と話すことで、自分たちは正しいことをしているとアピールしやすいから、グリーン産業が好きなのです。

しかし残念なことに、ほとんどのグリーンエネルギーは経済的な競争がとても激しい。そして、多くの会社は助成金、つまり税金を政府からもらっているのです。さらにいえば、ほとんどの市民はその産業に対して自らが税金を払っていることに気づいていません。一部の人は内情を知っているので、そのような政治家の発言に耳を傾けることはありませんが、その他のほとんどは「私も綺麗な空気が好きです。そのような産業には将釆があると思います」といってしまうのです。

しかし、それは本当に世界にとってよいことでしょうか。アメリカにとって、日本にとってよいことなのでしょうか。答えはノーです。

なぜならそのような産業から雇用か生み出され、たしかに仕事はつくられるでしょうが、そのような仕事に掛かるコストのほうが、その仕事が生み出す利益よりも高くつくからです。そして、それは結果として、国家の財政に害を与えてしまうのです。

しかしだからといって、グリーン産業を完全に無視するわけにもいきません。とくに日本では、太陽光発電、エコカーなど各ジャンルで先進的な技術をもつ企業が多く存在しています。そのような日本のグリーン産業でどのような部分に将来性があるか、私はいま様子を見ているところです。

少なくとも、これまでのところは、そのような産業にいっさい投資はしていません。経済的に競争力があるものを知らないからです。もしかしたら怠けているだけかもしれません。太陽光発電や風力発電の会社で競争力のあるところがあり、助成金なしにきちんと運営されているならば、私はその会社を知らねばならないでしょうし、そこで大儲けすることもできるでしょう。

いま確実に理解していることは、原子力は経済的に競争力がある、ということです。実際のところ、原子力発電は他の電力よりも割安です。多くの国が原子力発電を推進していることは知っていますし、私自身も原子力発電に投資しています。経済的に見たときに、原子力発電は採算が合うからです。


西洋から東洋への歴史的シフト

そのような状況を踏まえて私が強くいいたいのは、リーマン・ショック後の世界で歴史酌なシフトが生じている、ということです。具体的には金融セクターから、実際にモノを作り出している人へとシフトが起こっています。鉱山労働者や石油生産者、さらには農業従事者に、世界の中心は大きく動いているのです。

歴史を振り返れば、過去にもそのようなタイミングが何度かありました。金融セクターが最も重要であった時期もありましたし、モノづくりをしている人が重要であった時期もありましたが、いまはまさに過渡期といってよいでしょう。そのような市場は新輿市場と呼ばれますが、なかにはまったくうまく機能していないところもあります。しかし先にも述べたように、天然資源の多く存在している市場は、このようなシフトのおかげでますます良好な状態になっています。

ただし、そのような新輿市場株のなかで、私はいま中国以外の新輿市場の株はもっていません。2008年11月以来、中国株も買い増してはいません。というのは、ほとんどの市場の指数がかなり上がったからで、次にどのように新興市場が動いていくか、注視しているところです。たとえばここから中国株が50%下がってプラジル株が2倍になれば、おそらく中国株に関心をもつことになるでしょう。

さらにはもう一つ、歴史的に見ていま大きなシフトが起こっています。端的にいえば、それは西洋から東洋へのシフトです。1920〜30年代に、世界の中心はイギリスからアメリカに移りました。その後、2008年に金融危機が起こり、いまアメリカからアジアヘのシフトが起きているところなのです。

現在、世界の主な債権国を見渡せば、それは中国、日本、韓国、台湾、香港、そしてシンガポールです。私がいいたいのはもはや、すべての資産はアジアにある、ということです。逆に債務国(借金国)のほとんどは西洋に位置しています。私自身がシンガポールに移り住んだように、21世紀の成長セクターがアジアになることはもはや間違いないでしょう。

しかしいま、そのようなアジアのなかで、日本だけが完全に取り残されているように思えます。昨年11月、世界各地の市場が上昇するなか、日経平均だけが下落を続けました。日本経済かそのような状態に陥ったのはなぜか。いくつかの理由があるように思います。

第一に、日本は非常に巨額の内債を背負っている、ということです。過去何十年にもわたって日本の政治家は多くの橋や道路をつくってきましたが、それは何の役にも立っていないばかりか、日本の競争力にもまったく貢献しませんでした。税金を使って遇剰に農業従事者を保護してきたこともその典型です。自民党政権は過去60年近くにわたって日本経済の多くの領域を保護してきました。

日本は本当に保護政策が好きですが、それをやっているかぎり、経済は成長しないのです。JALの問題にしても、私がJAL株で大損をしたことはさておき、どれほど想像力をたくましくしても、その再生は多くの納税者のお金を使うようなことではないと思います。一度徹底的に倒産させなければ、今後また、同じようなゾンビ会社か出てきて税金を使ってしまうでしょう。デルタ航空とアメリカン航空がJALとの提携をめぐって争っていますが、デルタ航窒もまた経営はひどいものです。アメリカン航空も似たようなもので、私は先日アメリカン航空に棄って、そのひどさを実感しました。

いずれにしても、そのような政策をずっと続けてきたことによって、日本は巨額の借金を抱え込むことになってしまったのですから。おそらくいま子供である日本人は、将来大人になったときに怒るでしょう。その人たちが40歳になるころには、国の借金が途方もない金額になっているはずですから。悪夢のなかで彼らは生きることになります。もしあなたが賢ければ、子供たちに日本を離れるようにいうべきですし、実際にそうすべきでしょう。

そのほかにも日本経済が低迷している理由はたくさんあります。日本政府はお金を貯めて投資しようとする人たちに損をさせるような政策を積極的に行なってきました。日本で投資を続けても、何の利息も付かないからです。その結果、多くの日本人はお金を日本から持ち出して、例えばオーストラリアなど、もっとよいリターンが得られる国に行ってしまいました。いってみれば、日本政府は愚策ばかりを弄して貯蓄をしている層から見放され、自国の経済を破壊しているのです。何を考えているのかよくわかりません。

さらにいえば、少子高齢化がそのような状況にますます拍車を掛けています。このまま少子高齢化が続くなら、おそらく日本はあと百年は経済的な苦しみを味わうでしょう。それだけではなく、いささか誇張した言い方をするならば、いますぐにでも子供をつくりはじめなければ、その百年間で、日本という国自体がなくなってしまうかもしれません。


移民が成長と繁栄をもたらす

それではどうやってアジアの成長を、日本は自らの成長として取り込むべきでしょうか。とくに中国とはどのような関係を構築すればよいのでしょう。

具体的には先ほど述べたことの逆を行なえばよいわけで、私ならばまず、日本にある多くの保護政策を取り払います。そして、日本に対して外国人による積極的な投資が行なわれることを奨励します。問題は、日本は外国人のことかあまり好きではないということですが、日本人は能力と資本をもつアジア人、とくに中国人にもっとオープンに接すべきでしょう。

もちろん、そのようなことを実行すれば、これまで保護を受けてきた領域ではある程度の痛みが伴うように思います。役に立たない橋をつくっていた人や、過剰に保護されてきた農業従事者は苦しみを味わうでしょう。しかしそれでも、ほとんどの人たちは、暮らし向き良くなるはずです。

たとえば農業に対する保護政策によって、日本国民にとって食べ物の値段は馬鹿げた価格に高止まりしていました。それに対してもっと安い値段を付けることができたなら、1億2500万人にとって、これほどよいことはないでしょう。

また、かつてない低水準に据え置かれている金利についても、それを通常のレベルにまで戻します。そして政府からお金をもらうのではなく、貯蓄して将釆のために投資することを勧めます。経済を立て直す方法は、お金を貯めて、それを生産的資産に投資するよう奨励することにほかなりません。

さらには地域の経済活動をもっとオープンにするために、移民を受け入れます。少子高齢化が進行する状況に対して日本にはいま、三つの選択があります。一つは先に述べたように子供をつくることです。しかし日本人はそれを実行していません。二つ目は移民をどんどん受け入れることです。そして三つ目は生活水準を下げることです。私は日本での選挙権がありませんが、外からみてどのような選択があるかを話すことはできます。この三つ以外にはないのです。

そして、いまの日本は三つ目の選択肢を取るしかありませんし、実際にそうするようです。子供をつくろうとせず、移民も受け入れず、生活水準を下げることにしたのです。もし私が日本人であれば子供もつくるし移民も受け入れる、という二つを実行しますが、どれほど私が正しいことをいっても、日本は私のいうことに耳を傾けません。残念なことです。

多くの国は移民を受け入れることで成長し、繁栄してきました。移民は新しいアイデア、資本、技術をもたらします。そして、ほとんどの移民は、そうでない人よりも一所懸命働きます。だから、多くの国は移民を受け入れようとしてきたわけですし、ご存じのようにアメリカは移民によって建国されました。そして、人口が増えると多くの場合、それがそのまま経済成長につながるのです。

もし移民受け入れを行なうならば、日本では農業に従事する人がもっと増えるでしょう。いまの日本は農業従事者がとても不足している状態です。この状態が続けばおそらくあと三十年以内に、日本から農業は消えてなくなってしまうのではないでしょうか。


新政権は戦後のシステムを変えられるか

すでに第二次世界大戦は64年前に終わり、いま生きている人で、戦争のことを覚えている人はほとんどいません。日本はまず、そのような戦後の呪縛から脱しなければならないでしょう。私は1942年、つまりは終戦前に生まれましたが、戦争のことを覚えてはいません。日本もまだ、新しい世堺に対応しなければならないのです。自国を保護し、競争を避けるといったやり方は、これまでは日本の助けになったかもしれません。しかしこの状態が今後も続くのであれば、他のアジア諸国が繁栄を謳歌するなかで、日本だけが衰退していくでしょう。相対的にも、そして絶対的にも、それは間違いのないことです。

私は日本が好きです。食べ物もおいしいし、女性も綺麗で、すべてが効率的に機能する仕組みにワクワクします。日本人は頭がいいし、本当にエキサイティングな国だと思いまず。世界でもっとも好きな国の一つである日本に対して、本当はこのようなことはいいたくありません。しかし、われわれはいまある現実に直面しなければならないのです。

今回、古い政権から恩恵を被らなかった人によって、新しい政権が選ばれました。できるだけ日本国民が恩恵を被れるよう、さまざまなことを奨励しようとしているのは見受けられます。まだ何かを実施したわけではなく、その結果を見せられてはいませんが、とにかくいろいろ実行しようとしていることは確かです。そして新しい政権になってから、日経平均はたしかに上がっています。本当に新政権が戦後日本のシステムを変えられるのか、注意深く見守っていきたいと思います。


 
 
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