ジム・ロジャーズ/Jim Rogers
軋む中国
“伝説の投資家”が中国経済の未来を徹底予測!
バブル経済のソフト・ランディングはありえない
(月刊VOICE 2011年10月号)



けっして信用バブルではない


− 去年4月、中国政府が不動産投機抑制策を打ち出して以来、中国の不動産市場は急速に冷え込んでいます。不動産バブルの崩壊は近いとの指摘もありますが。

ロジャーズ 沿岸部の都市で起きている不動産バブル対策として、たしかに中国政府は何らかの手を打とうとしています。そのため、実際に不動産の価格は下落傾向にあるし、取引も減少している。中国政府はソフト・ランディングを試みているのでしょう。しかし問題なのは、かつていかなる国もそのソフト・ランディングに成功したことはない、ということです。どの国の政府も、それほど賢くはなかった。今後、上海やその他の不動産バブルが起きている都市で、破産に見舞われる人が出てくるでしょう。

しかし、今後予想される中国経済の危機は、アメリカのそれと比べると、本質的に異なります。サブプライム危機(2008年)以前のアメリカでは、頭金なしでも、たとえ無職でも家を買うことができた。それも、4軒も5軒もです。投資銀行はサブプライムなど多くのモーゲージ(不動産を担保にした貸付)で楽に儲けようとし、どんどんレバレッジをかけていった。その結果、史上最悪ともいえる信用バブルが起きてしまったのです。

一方、中国ではアメリカと違って、無職で家を何軒も買うようなことはできませんでした。いま中国で起きていることは、けっして信用バブルではありません。たんに不動産価格が高騰しすぎただけです。

− しかし、不動産価格の急落によって地方債務が不良債権化し、金融システムを破壊するとの警告が内外から発せられています。

ロジャーズ 繰り返しますが、中国の経済システムそのものが破綻するとは思えません。2008年に金融危機が生じた際は、すでにアメリカは世界最大の債務国であったというだけでなく、史上最大の債務国でした。しかしいま中国は世界最大の債権国です。むろん、不動産バブルの崩壊で痛い目に遭う個人は出てくるでしょうが、不良債権は国全体に広がっているわけではありません。アメリカやイギリス、またはスペインやアイルランドで起きたように、国の経済システムを危うくさせるような事態には陥らないでしょう。

− 中国の株式市場も不動産市場と同じように冷え込んでいますが、この傾向はしばらく続くでしょうか。

ロジャーズ 株式市場は世界中で冷え込んでいます。むしろいまの状況下で、中国の株式市場だけがよくなるとすれば、非常に驚きです。アメリカの株式市場が冷え込めば、ヨーロッパ、さらに中国を含む世界中の株式市場が落ち込む。なかには崩壊の危機にきらされてしまう国もあります。ギリシャがそうです。国によって影響を受ける度合いは異なりますが、世界経済が落ち込めば、必ず中国の株式市場も影響を受けます。

− 以前、あなたは「中国株は長く保有すべきもの」と発言していました。いまもその考えに変わりはありませんか。

ロジャーズ たしかに私は中国株を保有していますが、それを自分の「ポートフォリオ」の一部だとは考えていません。つまり、売買の対象外だということです。

わかりやすい例でいいましょう。私が結婚したとき、妻にダイヤモンドの指輪をプレゼントしましたが、それは売買の対象ではありません。いまも美しいネックレスをみたら妻に買ってあげますが、それも「ポートフォリオ」の対象外です。まさに中国株についても、それと同じです。

− 目先の経済状況に一喜一憂する必要はない、ということですか。

ロジャーズ もし100年前に米国株を買っていれば、80年後まで保有しておくべきでした。同様に、私は中国の株が下がれば機とみて買い増しを行ないます。だから、中国株はもっと下がればよいと考えています。しかしそれは私のためではなく、娘のためです。やがて娘は私の代わりにそれを所有するでしょう。近いうちに売るためのものではありません。

− ワインや民間航空など、中国企業の株式をもっているそうですが、理由は何でしょうか。

ロジャーズ いま中国人はワインをほとんど飲みませんが、これからの50年、または80年のうちにたくさん消費するようになるでしょう。民間航空についても同様です。中国人は過去あまり旅行をすることができませんでしたが、いまはそれが奨励されています。パスポートも簡単に取得できるようになり、お金も海外に持ち出すことができるようになりました。1980年代、突如として多くの日本人がマディソン・アベニューに現われました。われわれは「あの日本人をみてごらん。お金がたくさんできて、旅行を始めたんだ」といったものです。日本の人口は一億数千万人ですが、中国は13億人以上。中国のツーリズムは、巨大ビジネスになるでしょう。

− ほかにどういう業界に関心がありますか。

ロジャーズ 水処理産業と農業ですね。

− 一般の投資家に対し、あなたはコモディティー(商品)を勧めていますが、その理由は?

ロジャーズ 私の考えでは、中国で投資をするいちばん確実な方法は、これから中国人が買わないといけないものを買うことです。中国人は綿を買わないといけない。ニッケルや石油を買わないといけません。国内に十分ないからです。

また、一般の投資家のほとんどは中国語ができませんので、その意味でもコモディティーが、中国で投資する場合にはベストな方法となるでしょう。中国語が読めなければ、どんな経営者がどんな経営をやっているのか、中国企業の情報は手に入りません。一方、綿について理解することは、中国株を理解するよりははるかに簡単です。ありすぎれば売ればいいし、なさすぎれば買えばいいだけですから。


人口減の影響はあるか?

− 7月下旬に中国で起きた高速鉄道事故は、個人や企業における投資対象国としての中国に、マイナスのイメージを与えたのではないでしょぅか。

ロジャーズ たしかにひどい事故でした。しかし5年もすれば、多くの人が忘れてしまうのではないでしょうか。そもそも、国が急成長するときには、どんな国でも問題が生じるものです。1994年、アメッカではロサンゼルス地震が起きて、高速道路が崩壊しました。当時、アメリカの建築基準は適切でないといわれたものですが、いまや事故があったことを覚えている人は少ない。

中国は今回の事故で、テクノロジー、建設の両面から高速鉄道のシステムを真剣に見直すでしょぅ。その結果、これから建設される高速鉄道ははるかに改善がみられるはずです。

− 中国では2016年ころから、人口がマイナスに転じるという予測があります。あなたの理論では、経済成長と人口は強い相関があるとのことですが、この点についてはどうお考えですか。

ロジャーズ ほんとうに中国で2016年ごろから人口が減るかどうか、私にはわかりませんが、人口減が経済成長に及ぼす影響については中国より深刻な国があります。シンガポールもその一つですが、だからこそ早くから移民を受け入れました。私がもっとも心配しているのは日本です。少子高齢化が進む日本経済は今後どうなるか。台湾もデモグラフィック(人口統計学上)の問題がある。そこでどうなるかを観察すれば、人口減少がどのように国の経済に影響するか、わかります。

中国の場合、すでに一人っ子政策を緩和しており、また経済も繁栄しているので、過去数百年のあいだ本土を離れていた華僑が戻ってくる可能性があります。

− 以前よりあなたは「中国は次の偉大な国と発言しています。いまもその考えに変化はありませんか。

ロジャーズ 逆に問いたいのですが、経済的にみて、いま世界のどの国が中国に“挑戦”できるというのでしょうか。


先進国の金融緩和は間違っている

− 中国経済に対する先行き不安のみならず、欧州の債務危機や米国債の格付け見直しなどの影響もあって、金融市境は混乱に見舞われています。世界経済の先行き自体に悲観的な見方が相次いでいますが。

ロジャーズ むしろ、もっと悲観的であってほしいですね。繰り返しますが、歴史上、アメリカは最大の債務国なのに、誰もそのことを気にしている様子がない。何の成果もないままに巨額の紙幣が印刷され、しかもアメリカの債務は、国と国民合わせて総所得の4倍にまで膨らんでいます。次の景気後退(リセッション)がくれば、より事態は深刻になるでしょう。これ以上、紙幣を印刷することができないからです。それでもさらに紙幣を印刷しようとすれば、ドルは崩壊するでしょう。

− アメリカ以外でも、先進国はリセッションへの対策として、さらなる金融緩和に踏み切ることが考えられています。

ロジャーズ それはまったく間違ったやり方です。1990年代初期、スカンジナビア諸国が金融危機に陥った際は、企業をどんどん倒産させました。その結果、3年間不況が続きましたが、その後に企業の合併などを通じて業界の再編を行なって以来、いい時代が続いています。メキシコや韓国、ロシアも問題を起こし、失業と破産のひどい時代を経験しましたが、強力な国になって復活しています。

一方、日本ではバブル崩壊後、多くの銀行を倒産させず、延命させました。そこで「失われた十年」を経験し、いまでは「失われた二十年」になってしまいました。

− 日本の政治家が犯した間違いを、他の国の政治家も犯すとお考えですか。

ロジャーズ そうでしょうね。何をしても不利になるので、何もしようとしないのです。あるいは、もっとも“痛み”が少ない方法を採ろうとする。それは紙幣を印刷してお金を使うことです。しかし、国が経済的な危機に陥った際に唯一うまくいく方法は、これまでの間違いを認め、現実を受け入れてやり直すことです。それは楽しいことではありませんが、問題を将来に引きずってはなりません。日本はそれを証明しました。アメリカも、すでに「失われた十年」を経験しています。アメリカはいまこそ、これまで40年間で犯した多くの間違いを認めなければなりません。さもなければ、「失われた十年」が「二十年」「三十年」になってしまう恐れもあります。

ただし、最終的には、市場が決断を強要するでしょう。それがまさに2008年に起きたことです。市場は、「ベアー・スターンズよ、破綻です」「リーマン・ブラザーズよ、あなたも破綻です」と行動と決断を促しました。

− アメリカの場合、深刻な財政危機が続く一方で、ドル安が進行しています。

ロジャーズ ドル安について話すときは、慎重にならないといけません。ドルはどの通貨に対しても安いのではありません。ドルが安いのは、主に円とスイス・フランに対してだけです。私を含めて、ドルの将来に対してはみんな悲観的ですが、近いうちに必ず反発が起きるはずです。私の経験からいえば、みなが同じ方向に向かっているときは、あえて別の方向をめざすべきです。一時的にドルは反発して、われわれを驚かすかもしれません。ただしそれは、おそらく円に対してではなく、他の通貨に対してでしょう。

しかし長期的にみれば、もうドルの時代は終わったのです。かつてポンドで起こったことと同じようなことが、ドルで起ころうとしているのです。今後二十年、三十年のあいだに、ドルはかなり下落するでしょう。

− 以前あなたは、人民元を保有することは、もっとも安全な投資であり、買えるときに買うと発言されていたと思いますが。

ロジャーズ もっとも安全といった覚えはありません。他の通貨よりも安全、といえばいいでしょう。私は、買えるときはいつでも人民元を買います。他の通貨と違って、人民元は銀行に電話をかければいつでも買えるわけではありません。合法的に買うことができるときは限られています。だから、買えるときに買うといったのです。


円はますます強くなる

− 日本に話を移しましょう。震災と原発事故で日本経済は打ちのめされたかのようにみえます。

ロジャーズ 日本で震災が起きたとき、私はシンガポールの自宅にいました。日本を救うために妻と何ができるか話し合ったのですが、それから一週間は、毎日、日本食レストランに行くことに決めました。そして震災から一週間くらいして、いくつかの日本株を買ったのです。

− どんな銘柄の株ですか。

ロジャーズ 一つは、農業関係の株ですね。日本は必ず復興すると確信しているから、私は日本株を買ったのです。私の考えでは、これからアメリカやイギリス、他の欧州諸国が受ける“痛み”と比べると、日本のそれは少ないでしょう。

− その根拠は?

ロジャーズ 国際的にみると、日本は大債権国であり、国民の貯蓄も巨大です。なにより日本の教育レベルは高く、国民は勤勉で賢い。日本国民は復興のために何をなすべきか、すでにわかっているはずです。

問題は、日本の政治家の資質です。政治家が国民の邪魔をしないことが、復興の条件となるでしょう。ここ数年、短期的にみれば、日本経済をそれほど悲観する必要はありません。むしろ心配なのは、十年後、二十年後の日本の姿です。

− 日本の財政赤字は、GDPの約二倍という最悪の水準です。にもかかわらず、目下「円買い」が進んでいます。なぜでしょうか。

ロジャーズ 現在、私は円を所有していますが、それは売買するためのもので、娘や孫のためにではありません(笑)。世界経済の見通しが暗くなればなるほど、海外に投資されていた円が日本に戻ってくる。すると、円はますます強くなるでしょう。ただし、十年後もこの傾向が続くとは思えません。

ご指摘のとおり、現在日本には目のくらむような財政赤字があります。先ほどもいいましたが、出生率も減少しています。ここで少子化を食い止めるか、あるいは移民を入れないと、日本の生活水準は下がる一方です。いま現実を直視しないと、これから二十年、三十年の日本は悲劇的なことになります。こんなことをいいたくないのですが、ほんとうのことです。

− 先日、日本では新首相が誕生したばかりですが、財務省を中心に増税を求める声が根強くあります。

ロジャーズ すでにいまの日本は、政府がお金を使いすぎています。さらなる増税は、とても正気の沙汰とは思えません。消費を低迷させて、より経済を悪化させるだけの結果に終わるでしょう。いまこそ日本政府は、大幅に減税すべきです。

− 福島第一原発事故の影響で、太陽エネルギーや風力といった再生エネルギーに注目が集まっています。

ロジャーズ 福島での事故は、原発が40年前という非常に古いタイプの設計だったことも関連しています。これから建設される原発は、より強固なものになるでしょう。安全規制も厳しくなるはずです。日本人はけっして忘れないでしょうが、数年たてば、原発事故に対する記憶は世界のほとんどの人のあいだで薄れてしまいます。

実際、いまでも多くの国が原発を建設しており、その流れは続くはずです。原子力はエネルギー効率がよく、石油や石炭よりもクリーンだからです。なお、私はグリーン・テクノロジーの株を一つももっていません。各国とも助成金に頼っているので、経済的に競争力がないからです。

− 最後に、日本人にアドバイスを。

ロジャーズ 私がもし日本人であれば、リアル・アセット(実物資産)についてもっと勉強します。通貨の混乱から自分を守るには、リアル・アセットをもつしか方法がありません。それがシルバーなのか、コメなのか、天然ガスなのかは、私にもわかりませんが。

− 目下、史上最高値をつけているゴールドについてはいかがでしょうか。

ロジャーズ ゴールドは私ももっていますが、ご指摘のとおり、過去最高値になっていますね。しかし、売る気持ちはありません。むしろ価格が下がればいいと思っています。もっと買えるようになるからです。シルバーやコメも、もっと買いたい。リアル・アセットの将来は非常に明るいはずです。


− どのような経済見通しから、そういえるのでしょうか。

ロジャーズ 今後、世界は間違いなくインフレになるからです。先進国の政府はリセッションを避けるため北も、もっと紙幣を刷るでしょぅ。そうすれば、リアル・アセットに資金が流れ込みます。これは歴史を通して変わらぬ「真実」です。もちろん、それが高騰しすぎて“バブル”になることも予想されます。まだ先のことだとは思いますが。いずれにせよ、やがて調整局面はくる。しかし、それがベストの市場というものです。

 
 
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