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「世界唯一の超大国」−これはソ連との冷戦を制したアメリカの“枕詞”だが、その有効期限が近づきつつあるようだ。圧倒的な規模とスピードで経済カ・軍事カを拡大する中国の台頭である。
元米国務省中国分析部長のJ・タシク氏は、「台湾併合は早けれぱ20lO年。15年には太平洋における潜水艦戦力で中国はアメリカを上回る」と予測し、日本に対しても「今から核武装に動かなけれぱ、20年には中国の支配下に置かれているだろう」と警告を発する。果たして中国の膨張はどこまで続くのか。
アメリカ海軍の“最強神話”を揺るがした事件
2006年10月26日、沖縄近海において、米空母と中国潜水艦の問で“一触即発の事態”が発生した。中国海軍の宋級攻撃型潜水艦が、太平洋を航行していた米海軍横須賀基地をべースとする米空母「キティホーク」を追尾し、空母からわずか8qの地点で海上に浮上したのだ。
これは中国海軍の潜水艦が、米側に探知されずに魚雷射程内にまで接近していたということを意味する。さらに宋級よりも高い静粛性と長い射程をもつキロ級(ロシア製)や元級の存在を考慮すると、米国側にとって非常に深刻な出来事だった。一つ間違え予測不能の事態にエスカレートしていた可能性もあった。
中国は台湾海峡有事での米軍の介入を阻止すべく、沿岸のみならず近海でも総合的な作戦能力を発揮できるよう軍備増強に拍車をかけているが、その柱であり、最も挑発的な試みが新型潜水艦の開発だ。
中国は現時点で5つのプロジェクトを同時進行させており、02年から4年間で、原子力とディーゼルの両タイプ合わせて14隻の新型潜水艦を建造している。今後も中国は毎年2〜3隻の建造ぺースを維持していくだろう。衛星写真からは、現在少なくとも2隻の潜水艦が建造中であることがわかっている。こうした現実を前に、アメリカ側は自国の原子力潜水艦が技術的優位にあることを主張するが、現在の新艦建造は、年に1〜1.5隻に縮小されている。冷戦後、潜水艦建造に必要なエンジニアや造船所のスタッフがどんどん滅少していることも深刻な問題である。
こうした中国による潜水艦部隊の拡充に対抗するかたちでアメリカが研究開発を試みているのは、(最も捕捉が困難な)海中で静止している潜水艦を探知する技術である。しかし、アメリカには対潜戦能力が乏しく、西太平洋海域では日本の対潜戦力に頼っているのが現状だ。
中国が、その戦カの中でも潜水艦を重要視しているのは、その目的が沿岸部の防備ではなく、台湾周辺海域を含めたシーレーン(海上交通路)の支配であるからだ。中国は2025年までに40〜50隻の潜水艦を配備することになるが、それはアメリカの全潜水艦よりも多い。太平洋海域の潜水艦戦力に限れば、15年までに中国海軍は米太平洋艦隊も凌駕するだろう。
潜水艦以外の軍事力を見てみよう。中国の陸軍兵力は約140万人、台湾は20万人だ。もし米軍が軍事介入しなければ、人民解放軍は比較的容易に台湾上陸を果たすが、その場合、アメリカが座視することはない。だからこそ中国は、空と海を制さなければならない。その鍵となる兵器が、中国の新しい防空ミサイル(SA-300PMU2)ネットワークである。射程距離75マイル(約120q)。この地対空巡航ミサイルは、台湾海峡に接近するすべての米航空機を脅かすことができる。さらに水上艦艇への地対艦巡航ミサイルも威力を発揮することとなるだろう。
宇宙開発ではどうか。アメリカは、中国が米スパイ衛星の“目をくらませる”技術開発に本腰を入れていることに、年々、警戒心を高めている。さらに懸念されているのは、アメリカの人工衡星に6〜10mまで接近できる小型の人工衛星を開発しようとしていることだ。この衛星が衛星攻撃爆弾として使われる可能性を考えると大きな脅威である。
中国は米宇宙技術の優位性を認める一方で、打ち上げられた宇宙船や衡星を「攻撃されやすい」ものと認識している。その代表例が、地表から比較的低い高度にあるGPS(全地球測位システム)衛星だ。中国独自のGPSシステムはまだ初歩段階だが、地球から4万q離れた静止軌道上にあるため、アメリカが将来開発するであろう衛星攻撃兵器による攻撃は受けにくくなる。
主力戦闘機についても触れておくと、中国はSu-27、Su-30を筆頭に、第4世代の戦闘機を数機入手し、ユーロファイターと同種である中国国産のJF-10戦闘機の配備を進めている。
中国の兵器開発のなかでも卓越した分野の一つが、弾道サイルである。1999年以来、中国が短距離弾道ミサイルの生産を倍増させていることは判明しているが、具体的には、この年から年間50基の生産が100基以上になっている。中国が驚異的なぺースで軍事増強に取り組んでいることを示す事例である。
予想される中国の「台湾併合」シナリオ
現在、中国の最大目標は台湾を併合することにある。その際、当然のことながら最大の障害と孝えられているのが米海軍であり、同盟関係にある日本の海上自衛隊である。有事の際には、中国の潜水艦が現在、探知を避けるために使用しているブラックホール(地理的死角)で米艦隊を待ちかまえることになるだろう。
もっとも中国は、台湾併合を想定した軍事戦略を立ててはいても、実際には軍事侵攻することなくそれを実現しようと考えている。孫子の兵法に“軍事戦略の最善の策は、戦場で敵を撃破することではなく、戦わずして勝つことにある”“軍事力を十分に強化すれば、敵はその軍事力を目の当たりにしたときに戦わずして降伏する”とあるように、台湾が戦意を喪失するほどの圧倒的軍事力を備えようとしているのである。
そうした野心にさらされている台湾の国民感情はどうか。
国民の10〜15%は中国からの移住者(子孫含む、外省人)であり、彼らは親中派だ。その他にも、民族的な観点から台湾人(本省人)に支配されることを嫌う人間も数%いる。さらに、いまでは根深く浸透しつつある中台の経済関係を前に、「戦争は意味がない」と否定的な人間も少なくない。08年の総統選で国民党が民進党に勝利し、馬英九・国民党主席が新総統に就任すれば、10年には台湾が中国に併合されるかもしれない。
では、台湾が中国に併合されるプロセスを具体的に予想してみよう。
まず考えられるのは、台湾の指導者たちが中国と暫定協定を結び、その中で、中国は台湾を攻撃しない、台湾は独立を放棄することをお互いに誓う。そうした協定が結ばれると“戦う相手を失った”台湾は国防費を使うインセンティブを低下させつつ、台湾の防衛を中国に任せるようになる(もちろん、台湾併合を実現しても中国が軍拡をやめることはない)。
その協定の下で、台湾は中国と「相互信頼を醸成する政策」を追求する。中国は、船による「親善訪問」を開始する。そうして最終的に台湾の非武装化が実現するだろう。
外交面でも台湾は独自外交を放棄し、中国政府の外交政策を支持することになる。台湾側が拒否してきた「3通」(中台間の直接の通商・通航・通信。現在は航空便直通だけが認められておらず、「2・5通」とも評される)を承認する。そうなると、中国の経営者やエンジニアなどの高所得者の中には、本土よりも発展している台湾での暮らしを望む者も出てくるだろう。そうした移民を最大限受けいれながら、台湾は最終的には、香港やマカオのような「特別行政区」になるだろう。
最後に中国経済についても触れておこう。成長率(国内総生産=GDP)を見ると、78年以降、毎年10%以上の成長率で経済は発展し、その勢いはまるで永遠に続くようにさえ思われた。最近になって中国政府は、成長率の目標を8%前後に引き下げると発表したが、今後5〜10年は依然として高い成長率を維持することは確実だ。この驚異的な経済成長率が、前述した軍備拡張を支えるのである。
購買力平価に換算すると、すでに中国のGDPは日本を大きく上回っている。これから発表される06年の名目GDPでは、(サービス部門の上方修正と人民元の対ドルレートの4%上昇を受けて)3兆ドル近くになるだろう(05年は2兆2250億ドル)。
もし台湾が併合されれば、中国は、半導体を筆頭に台湾最先端産業の吸収という大きなアドバンテージを得ることになる。いずれにせよ大きな飛躍の機会をもたらすことになるだろう。
核武装の「論議」だけでは中国は動かない
こうした中国の台頭に直面しながら、アメリカはイラク、イラン、「テロとの戦い」に力を集中するあまり、対中政策をおざなりにしてきた。まさに重要な役割を果たさなければならないのが日本だが、その際に「3つの選択肢」が日本の前に横たわっている。
ひとつは、アメリカと同盟関係を維持しながら、共に西太平洋地域の戦略構想を考案する。2つ目は、自主防衛を基本理念として日本独自の軍事力強化に邁進する。3つ目は中国が何を言おうとも抵抗しない。完全に屈服することである。これは日本人自らが決定することだが、ここで重要なのは、日本の政治家と国民が、近い将来(例えば2020年)に中国がどれほどの大国となっているか、についてコンセンサスを持つ必要があるということだ。
その上で日本がやるべきことは何か。批判を覚悟の上で私見を述べさせてもらうと、日本は真剣に核武装の選択を考えるべきである。
軍事力を背景にもたない外交交渉は無意味である。日本人は、それが世界の現実であることを理解しなければならない。中国は現時点では、「日本の核武装」を現実性のあるシナリオとして認識していないが、日本の核武装議論にアメリカも巻き込んだとき、中国は初めて本気で対策を考えるようになるだろう。
では、アメリカを説得するにはどのような「論理」が有効か−まず日本はアメリカに対して、日本にとっての主たる「核の脅威」は北朝鮮であること、そして北朝鮮を非核化することに中国が抵抗している(あるいは消極的である)ことを主張する。
このままでは台湾有事の際に、中国は北朝鮮に核兵器で日本を脅かすか、攻撃するようにけしかける可能性がある。日朝間に「深刻な危機」が発生すれば、台湾を巡る日米の協力体制を崩すことができるからだ。「日本が北朝鮮の核に屈服する」というのはアメリカにとっても致命的なシナリオである。それを防ぐには、中国にそうした謀略を思いとどまらせる何らかの「保証」が必要である。それが「日本独自の核兵器」である。いまこそ日本は核武装に向けて真剣に動かなくてはならない。そのとき、中国は北朝鮮の「非核化」に動きはじめるだろう。
ここで最もやってはいけないことは、ハッタリで中国を騙そうとすることだ。それは日本国内の「核武装論議」自体が外交カードになるといった考え方である。日本が実際に核武装を「開始」しなければ、事態が好転することがないということを十分認識しておく必要がある。
このまま日本が何も行動を起こさなければ、台湾を併合した中国は、2020年までにアジア最強の大国として、日本を実質的に支配するようになるだろう。
PROFILE
ジョージタウン大学卒業。ハーバード大学において行政学修士を取得。在台北米国大使館勤務を振りだしに、国務省に23年間在籍。台湾局で政治・軍事、経済担当局長。1992〜94年、情報調査局で中国担当主席分析官をつとめる。この間、中国、台湾、香港に赴任。広州総領事館副領事。現在、米ヘリテージ財団アジア研究センター・中国政策専門研究員。著書に「本当に「中国は一つ」なのか」(草思社)。
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