週刊ポスト 2003年5月2日号
独占インタビュー マイケル・ムーア
「日本のみなさん、アホなブッシュですみません」

アメリカの銃社会をテーマにしたドキュメンタリー映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』でアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した席上、「プッシュ大統領よ、我々はイラク戦争に断固反対する。恥を知れ!」と絶叫して“勇名”を馳せたマイケル・ムーア監督。プッシュ批判の急先鋒として世界中から注目を集める一方で、ジャーナリストとしても名高いムーア氏を日本のメディアとしては初めてシアトルで独占直撃した。
イラク戦争の勝利は、何をもたらしたのか。
「アメリカは世界に嫌われた。中東に対しても、強行策はとらず、むしろ平和をもたらそうとした。ところがブッシュがすべてをご破算にしたんだ。あいつが米兵を十字軍に見立て、イラク戦争を“神のミッション”などと真顔でいっているのを見ると、アメリカは本当に怖い国になってしまったと感じる」
イラク戦争が起きた理由をどう見る?
「動機は単純だ。アメリカ政府は、自国の企業が他国でのビジネスをやりやすくするために戦争を始めたんだ。つまり、戦争で奪った他国民を安い賃金でこき使って製品を作り、アメリカだけが金持ちになるように仕向けているということだ。政府は『イラクに民主主義をもたらす』なんていっているが、そんな幻想を真に受ける国など、世界のどこにもない」
国際社会の冷ややかな目とは裏腹に、プッシュ大統領は自信を探めている。
「特に、最近のシリアに対する発言には驚くね。イラクヘの先制攻撃を始めた時の言い訳をそっくりそのまま使っている(苦笑)。僕自身はブッシュに投票しなかった大勢のうちのひとりだが、その代表として世界に向けて謝罪したいと思う。スミマセン。残りの任期中にブッ.シュが再び破壌行為を行なわないように監視したいし、次の大統領選挙までには、アメリカを国民が自分の手でコントロールできる国に戻したい」
プッシュの大統領としての資質についてはどうか。
「あいつは単なるパペット(操り人形)だよ。裏でラムズフェルド(国防長官)やチェイニー(副大統領)といった“ネオコンサバティプ(新保守主義者)”に操られ、レーガン政権時代のような『強いアメリカ』の真似ごとをやっている。それだけだ」
アフガン戦争、イラク戦争を見ていると、アメリカはなぜ『9・11』が起こったのか理解しようとしていないのではないかとも思える。
「まず、ワールド・トレード・センターやハイジャックされた飛行機で亡くなった人はもちろん、一般のアメリカ人にも罪はないということをいっておきたい。確かに、アメリカ人はテロ事件が世界にどんな影響を与えたか理解していない。でもそれは、アメリカ人が努力していないから理解できないのではなく、政府がアメリカの国民に正しい教育をしないからなんだ」
どういうことか。
「アメリカの公共教育に問題がある。この国では、子どもは何も教わらないまま社会に放り出されてしまう。具体的な例を挙げよう。昨年、米誌『ナショナル・ジオグラフィック』が18歳から25歳の若者を対象に行なった調査によると、高校卒業者のうち、実に85%がイランもイラクもどこにあるのかわからないと答えた。もっと驚くことに、11%の若者は地図上で自分の国であるアメリカがどこにあるのか示せなかったんだ。(声を荒らげて)まったく、信じられるかい?これだけ無知な若者が増えれば、政治のことなど到底、理解できるはずがないだろう」
「アメリカに尻尾を振るな」
日本の若者も政治への関心は薄い。
「少なくともアメリカよりはましだ。僕が会った日本人の高校生は世界銀行のことも話せるし、IMF(国際通貨基金)がどういう機関かも知っていた。他国の教育レペルの高さには腰を抜かすばかりだよ。断わっておくが、僕は貧しくて教育を受けられないアメリカ人のことをいってるわけじゃない。アメリカの名門ハーバード、プリンストン、エールといった大学の4年生でさえ、南北戦争がいつ始まったのか(1861年)、という問いに対して、答えられる学生は5割しかいないんだ。この質問は選択問題だったから答えやすかったはずなのにね(笑い)。プッシュやチェイニーは、国民を無知なままにしておいて、自分たちだけが好き放題に振る舞えれぱいいと思っているのさ。僕はそんな連中を許すつもりはないし、戦い続げる」
あなたは今のアメリカをかなり嫌っているようだが。
「もちろん好きなところもあるよ。例えば、日本人は複雑で、あまり意見をいわないから何を考えているのかわからないところがあるが、アメリカ人は単純で明快、とてもチャーミングだ。国民ひとりひとりを見れば、わかりやすくていい人だということがわかってもらえると思う。僕が不満を持っているのは、国民が自国の政治や経済をコントロールできず、一部の人間が権力を持ちすぎている点だ」
そんなアメリカの言いなりになっている日本についてはどう思う?
「コイズミ首相は早い段階でアメリカの先制攻撃を支持したが、明確な理由を示すことができなかった。日本は独自の意見なり考えを持っていないのではないかな。ブッシュに盲従していては、アメリカが儲かるだけだよ。このままでは世界から『アメリカよりアホでマヌケな国』と見られるかもしれない」
どうすべきか。
「かつてアメ車より性能の良い車を作り出すことに成功したように、日本はモノの改良の仕方はよくわかっているが、発想力がない。もっと自分で考える力をつけなければならない。発想力を高める教育はもちろん、政治家が個人としての意見をきちんと主張
していくことも大事だ。幸い、量近では良質で個性的な映画も続々と作られているし、日本はまだまだ捨てたものじゃない。まず、アメリカに尻尾を振るのをやめることから始めるべきだね」
| マイケル・ムーア 1954年ミシガン州フリント生まれ。地元紙の編集長を経て89年に初めて制作したドキュメンタリー映画が高い評価を受け、ジャーナリストにして社会派映画監督と認知された。現在は映画のみならず放送作家、テレビプロデューサーとしても活躍し、著書『アホでマヌケなアメリカ白人』は全米で100万部、日本でも20万部を越えるベストセラーとなっている。オスカーを獲得した『ボウリング・フォー・コロンバイン』では、コロラド州コロンバイン高校の生徒2人が銃を乱射して12人の生徒と1人の教師を殺害した後、自殺した衝撃的な事件(99年)を追った。
|
|
関連書籍
|