ニコライ・モロゾフ/Nikolai Morozov
ミキか、マオか、ヨナか
女王はひとり
(週刊現代 2010年2月10日号)
真央が、美姫が、明子が、大本命キム・ヨナに挑む!
カナダ・バンクーバー五輪で「銀盤の女王」に輝くのは果たして?
優勝請負人モロゾフ氏の独占インタビュー
「メダルが取れる可能性が一番高いのは美姫です」
トリノ五輪で荒川静香に金メダルをもたらし、2007年の世界選手権で安藤美姫を優勝に導いた。選手の能力を引き出し、育て上げる確かな手腕をもつ名コーチが語る「女王」をめざす闘いの現場。
−バンクーパー五輪フィギュア女子シングルの日本代表メンバーをみて、どんな結果が予想できますか。
モロゾフ すばらしいメンバーが揃いましたが、実際にオリンピックで表彰台に上がるのは大変なことです。この中でメダルが取れる可能性が一番高いのは(安藤)美姫です。
(浅田)真央はオリンピックで金メダルを取るチャンスはないと思います。彼女は審判の評価が定まらない危険なプログラムを組み、大きな滅点をされかねない危険なジャンプを跳んでいるからです。テクニカルエレメンツスコア(技術点)はテクニカルコントローラー(技術審判)の手に任せなければなりませんが、彼女が跳んでいるトリプルアクセルは評価が一定しないグレーゾーンにあることを忘れてはいけません。男子選手も含めて日本の6人の選手の中にメダルを取る人がいると思いますが、外国人選手との競争はかなり激しいものになるでしょう。
−女子シングルの優勝争いは、どのようになると予想していますか。
モロゾフ 99%韓国のキム・ヨナが金メダルを取ると思います。美姫がトリプルトリプル(連続3回転ジャンプ)を成功させればメダルに手が届くでしょう。ただオリンピックは他の試合とまったく違います。何が起こるかわからない。勝負の分かれ目は、誰がマックス(最大限の力)で滑れているか、誰がマックスで滑れていないかです。美姫は多くの選手ができないトリプルトリプルが跳べます。そんな点も含めて彼女の力は真央よりも高いと私は考えています。
日本人はそこがよく理解できていません。昨年12月の全日本選手権では真央が優勝して美姫は4位でしたが、私はこの大会の結果はどうでもいいと思っていました。美姫は昨年12月のGPファイナルのあと、オリンピック出場が決まったので、全日本に向けては練習していませんでしたから。しかもスケートシューズを試合の3日前に新しくしたので、その靴にまだまだ慣れていなかったのです。
真央でな<美姫を選んだ理由
−あなたはトリノ五輪で荒川静香に金メダルをもたらしました。日本人の多くはその結果に驚きました。あなたはどんな気持ちでしたか。
モロゾフ あまり驚きませんでしたね。私は、彼女が初めて私の前で滑ったときにジャンプがヘンだと気付いた。だからロシアから専門家の友人を呼んで見てもらいました。結果、彼女は筋力が弱いことがわかったのです。私は何よりもこの問題を解決することが先決だと思いました。だから静香には五ヵ月聞ジャンプの練習をしないで、毎日40分間ウェイトトレーニングをしてもらいました。
静香が金メダルを取ることまでは予想できませんでしたが、表彰台には上がれると考えていました。その点では私も結果に少し驚きました。
−パンクーパーで安藤にもその可能性がありますか。
モロゾフ ありますね。私は先日の全日本選手権で美姫が良い結果を出せなかったことを前向きに捉えています。もしこの試合で美姫が優勝していれば、これ以上練習させるのが非常に難しくなります。コーチはスケーターの心理を理解しなければなりません。選手は有頂天になるとあまり練習しなくなります。何十年間もスケートをやっている選手は、優勝してもその後に何をしたらいいのかわかっていますが、美姫のように若い選手は優勝するととりあえず自信はつきますが、次に何をしたらいいのかわからなくなります。
−安藤が15位に終わった2006年トリノ五輪のあと、浅田真央と安藤の両方からプログラムの振り付けをしてほしいという依頼があったと聞きました。それほ事実ですか。
モロゾフ その通りです。美姫だけでなく、マネージメント会社IMGを通して、真央が私に「振り付けを担当してほしい」と言ってきましたが、私は彼女を取らずに美姫を選びました。
−そのとき、なぜ安藤を選んだのですか。
モロゾフ 安藤のほうが難しくて自分にとってチャレンジになると思ったからです。発展途上の人を指導して、成功させることこそが私にとってやりがいのある仕事なのです。
感情的な人聞のほうがスポーツ向きだ
−あなたは、安藤は感情的なタイプだと分析しています。そして、このことがフィギュアスケート選手に向いている資質だと話しています。どういうことでしょうか。
モロゾフ 感情的である人間のほうが競技に向いています。優れたスケート選手はアーティストとアスリート両方の要素を持っています。トップレベルの選手は芸術家のように感情豊かなのです。日本の教育はみんな同じような人間に育て上げることを目指しているようで、教師は規則をたくさん作り、あれをしたらいけないとか、これをしたらいけないとか言います。それは人間の本質に反し、まったくクレイジーなことです。人間はそもそも感情的な生き物なので、それを殺すように教育することは間違っています。とくにそういったことをスポーツ選手にしてはいけません。感情表現が非常に大事ですから、型にはめるのはよくないのです。
−あなたが安藤を教えるために、一番重要視したことはどんなことですか。
モロゾフ まず人間として成長させることです。それは具体的には、自分に責任を持てるような人間にするということです。私がコーチをする前、彼女はそうではありませんでした。でも今は違います。
−安藤の私生活にも多<の注文をつけたといいます。どんなことでしたか。
モロゾフ それは美姫だけではなく、他の選手にも同じ指導をしました。美姫は爪を長く伸ばしていたので、「それはやめろ」と言いました。また「自分がスケーターであるのなら、それなりの格好をしないといけない」と話しました。破れているジーンズなどのだらしない格好はやめて、品がある服を身につければ、雰囲気も変わり、リンク上での演技にも変化が現れます。食べ物についても脂肪分を取りすぎないように注意しました。体重が重くなるとケガをしやすくなるからです。
スケートを人生の目的にしてはいけない
−世界選手権優勝の後、安藤は祖母が亡くなったこともあリ、精神的に落ち込んでしまいました。こうした場合はどのようにして彼女の気持ちをスケートに向かわせるのですか。
モロゾフ 何かひとつのことがうまくいかなくなると、すべてのいいことがそのことに搦め取られてしまう。ある程度人生を経験している人間ならば話は別ですが、美姫はまだ若く、祖母が亡くなったことによって深く落ち込んでしまっ`た。私はそのとき、彼女にスケートをしなくていい、と言い渡しました。すると彼女は何をしたらいいかわからなくなる。滑りたくなって、そちらのほうにどんどん神経がいき、ますます滑りたくなる。スケーターがスケートをやめることは非常に難しい。結局、自らリンクに上がることになるのです。
−あなたは選手達とコンサートに行ったり食事に出かけたりと、親密な人聞関係を作り上げることにカを入れています。コーチをする上で、それはかえって足枷になりませんか。
モロゾフ その逆です。気持ちが通じ合うようになるので、非常にポジティブに作用する。日本人の悪いところは、すぐにこういう関係になったらいけないとか、こういうことをしたらいけないとか、決めつけるところだと思います。
−あなたはいつも選手の現役引退後の人生を考えて指導していると話しています。なぜですか。
モロゾフ それは非常に重要なことです。私もスケート選手でしたが、選手生活を終えて引退したときに人生に行き諾まりました。スケートは、何かをするための一つのステップに過ぎない。スケートを人生の目的にすると、引退したときに何をしたらいいのかわからなくなる。だから引退後はどうするのかを、選手とともに考えながら指導していくのです。
ニコライ・モロゾフ
1975年モスクワ生まれ。2006年に荒川静香をトリノ五輪金メダル、2007年に高橋大輔を世界選手権2位、安藤美姫を優勝に導く。現在、安藤、織田信成らを指導している。2010年2月、『キス・アンド・クライ』(講談社刊)を上梓した。
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