SAPIO 2003年6月25日号
「アメリカは今後も武カ行使をためらわない。北朝鮮も標的だ」
ネオコン随一の理論家R・ケーガンを直撃!
力一ネギー平和財団 上級研究員 ロバート・ケーガン


【PROFlLE】1958年生まれ。イェール大学卒。八一バード大学ケネディー・スクールで政治学修士号を取得。レーカン政権時代の84〜88年、国務省において国務長官のスピーチライター責任者、政策立案スタッフを務める。97年、W・クリストルとともにシンタタンク「アメり力新世紀フロジェクト(PNAC)」を設立。現在は力一ネギー平和財団上級研究員。ペルギー在住。


昨春、ポリシー・レビュー誌に掲載され、世界中に強烈なインパクトを与えた論文『カと弱さ』の中で、“ネオコンの総本山”と評される「アメリカ新世紀プロジェクト」(PNAC)創設者の一人、ロバート・ケーガン氏は米国とヨーロッバはもはや全く異なる世界観の上に生きている」と断言し、その根拠として「カ」とりわけ軍事力」の圧倒的差異を提示してみせた。もはや、アメリカにとってヨーロッバは用なしと断じたのである。その反響の大きさから、改めて加筆して刊行した『ネオコンの論理』(光文社刊、原題は『楽園とカについて』)ではその強烈な哲学を余すところなく展開。現在、ベルギーで活動する同氏をジャーナリスト・大野和基氏が直撃した。


−「ネオコン」(ネオ・コンサバティブ=新保守主義派)という言葉は、最近日本のメディアでも頻繁に登場している。ブッシュ政権ではラムズフェルド国防長官やウォルフォウィッツ国防副長官がその代表格と見られているが、あなたはどのようにこれを定義していますか?

ケーガン ネオコンが唱える外交政策は、アメリカの力と影響力を駆使して、世界中に民主主義と自由の原則を普及させることです。これは、アメリカには国際秩序と国際平和を維持する責任と能カがあると同時に、アメリカが力や影響力を行使することはアメリカだけでなく、広く世界中の国々にとっても歓迎すべきことだという哲学に基づいている。実は何も新しいものではなく、レーガンからケネディ、トルーマンやT・ルーズベルトといった歴代大統領に遡る伝統的な米国の基本的な外交方針といえます。

−現在のネオコンは、この言葉が誕生した当時の本来の意味を失ったという見方もあります。

ケーガン その指摘は確かに当たっています。ネオコンとは、トロツキスト(注1)や社会主義者、共産主義者といった左翼だった人物たちが1970年代に一種の保守主義に転向した、そうした特定のグループをもともとは指したものでした。左翼主義から一転、新
たに保守主義となったから、ネオ・コンサバティブと呼ばれた。それが言葉の由来なのです。冷戦中、こうしたネオコンの人々はソ連に対するデタント(緊張緩和)政策に反対し、軍備増強や共産主義とソ連に対するイデオロギー上の戦いを唱えていました。

−その後、96年にあなたとウィリアム・クリストルが『現在の危険』を著わし、現在のネオコンの明確な指針を示した。

ケーガン それは恐らく当たっています。アメリカを世界で最も力のある国にしておくことが、アメリカのみならず国際秩序や国際平和を維持するためには一番いい政策だというのが私の信念でもあります。それが、アメリカが中国やロシアと勢カの均衡を保つことよりも望ましいと考えます。

−軍事カを背景に世界に平和をもたらすということですか?

ケーガン 第2次世界大戦でも、91年の湾岸戦争でも、99年のコソボ戦争でも軍事力を使って平和をもたらさざるを得ませんでした。今回のイラク戦争に限らず、軍事力を行使して平和をもたらすという手法は何も特別な選択ではありません。重要なのは、軍事力行使の目的が自由や民主主義の推進にあるということです。

−最新刊『ネオコンの論理』でも、その雛形となった論文『カと弱さ』でも、あなたはアメリカとヨーロッパの間の“軍事カの圧倒的な差”を強調されています。

ケーガン アメリカとヨーロッパの軍事力格差を決定的に示した例として、99年のコソボ戦争が挙げられます。戦争の過程は、まさに欧米間の軍事力格差を如実に反映したものとなりました。セルビアとコソボに対する空爆の大部分はアメリカ軍によるもので、情報収集能力でもアメリカが圧倒的に優れていたため、爆撃目標の99%はアメリカの情報によって決められました。軍事行動の圧倒的部分をアメリカが担ったことで、ヨーロッパは大きなショックを受けた。フランス、ドイツ、イギリスの一流の戦略家にとって、コソボ戦争はまさにヨーロッパの軍事カの無能ぶりを露呈したものでした。地理的に近いパルカン半島ですら、ヨーロッパは部隊を派遣する能力が比較にならないほどアメリカに劣っていたのです。
現在のヨーロッパが、たとえばイラクや北朝鮮のもたらす脅威に対して、許容度が高いのはなぜか。アメリカに比較して力が弱いからだと考えると分かりやすいと思います。
例えば、ナイフしか持っていない人は、森林をうろつく熊を許容できる危険だと考えるでしょう。この危険を許容しないのであれば、ナイフだけで熊と戦うしかない。しかし、同じ人が銃を持っていれば、許容できる危険についての見方がおそらく変わるはずです。戦うことだってできるのに、かみ殺される危険を冒す必要があるだろうかということになる。まったく正常なこの心理が、アメリカとヨーロッパの溝を生み出しているのです。イラク間題へのアプローチをめぐって意見が分かれたのもこのためです。
ヨーロッパは軍事カで劣ることから、当然のごとく、力の弱さが不利にならない世界を築くことに強い関心がある。ホツプズ(注2)のいう“万人の万人に対する闘争”の世界の冷酷な法則、国家の安全保障をめぐる決定的な要因が軍事力であるという世界の冷酷な法則をいずれは根絶やしにしたいと思っているのです。
一方、アメリカはヨーロツパに比較して、国の行動を規制するような多国間主義を支持するわけにはいかない。単独行動の善し悪しは別にして、アメリカは現在の一極構造の世界では、客観的にみてどの国よりも単独行動を禁止することで失うものが多いのです。


北朝鮮問題では軍事的解決しか残されていない

−01年9月11日に米国を襲った同時多発テロは、外交政策の観点から、ネオコンの思想に大きな弾みをつけたと考えますか?

ケーガン ブッシュ大統領の思考に劇的な影響を与えたのが、9・11テロだったことは問違いないでしょう。その意味において、同時テロがネオコンに弾みをつけたことも間違いありません。われわれは、冷戦終結後の世界にも依然として多くの危険が存在し、軍事力の強化は今後もアメリカの最重要課題だと主張し続けてきました。あの悲劇によって、われわれの長年の主張が裏づけられ、さらに強化する結果を招いたと思っています。

−『ネオコンの論理』には、「ヨーロッパ」を「日本に置き換えてもそのまま通じる箇所が数多くあります。

ケーガン 私はヨーロッパに既に3年住んでいますが、日本については知らないことが多いので明快なコメントはできません。それを前提としていえば、イラク戦争の結果、ヨーロッパとアメリカの関係は傷つきましたが、日本とアメリカの関係は傷ついていません。日本はアメリカとの同盟関係を現在も重要だと考えていますが、ヨーロッパはもはやアメリカの庇護は必要ないと思っています。しかしながら、彼らは遇去に例がないほどアメリカのおかげで「無料の安全保障」を享受している。

−日本も同様では?

ケーガン その質問には私が日本に3年間住んだ後に答えましょう。

−日本とアメリカにとっての目前の課題、北朝鮮の核にはどう対時すべきと考えていますか?

ケーガン まず外交上のあらゆる努カをする必要があることはいうまでもありません。とはいえ、外交上の説得や経済上の譲歩など、危機を除去するために北朝鮮に対して行なってきた政策はことごとく失敗に終わっています。全体主義的な現体制が存続している限り、日本が北朝鮮と完全に国交正常化を果たすことも不可能だと恩います。だからといって、安易に軍事力に訴えることを勧めるつもりもありませんが、それ以外の代替策もなかなか見当たりません。正直なところをいえば、北朝鮮に対して軍事力以外の外交的な手段を講じるチャンスは既に逸したと考えています。


(注1)ロシア革命(1917年)でレーニンの片腕として活躍した指導者・トロツキーの思想と案践を信奉する人々を指す。一国社会主義革命を主張したレーニンに対し単独での社会主義建設は不可能として、永続的な世界革命を提唱した。アメリカでも一時期トロツキー主義運動が盛んになったが、一大政治的勢力となるには至らなかった。
(注2)トマス・ホッブズ(1588〜1679)、英国の哲学者、政治学者。その代表作『リヴァィァサン』(旧約聖書に登場する怪物の名前)の中で、人間の自然状態は万人の万人に対する闘争にあると説いた。ケーガン氏は『ネオコンの論理』のなかで、米国の世界観に近いものとして現在のヨーロツパが志向する「世界政府による永遠平和」(カント)と対照的に描いている。
関連書籍
ロバート・ケーガン 「ネオコンの論理」
ネオコンの論理
ロバート・ケーガン (著)
光文社 2003年5月
  
 
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