ヌリエル・ルービニ/Nouriel Roubini
特集 米国型強欲資本主義の終焉
”Dr. Doom(破綻を予言した男)"が警告
NY大学教授 N.ルービニ 「悪魔のシナリオ“最終章”はこれからだ」

2年前からアメリカのバブル崩壊を予測していた注目の学者が見通す「金融メルトダウン」
(月刊現代 2008年12月号)


いまから2年前、2006年9月のIMF(国際通貨基金)総会のスピーチで、ニューヨーク大学教授のヌリエル・ルービニ氏はアメリカに金融危機が起きると警告したが、「人騒がせな人」と相手にされなかった。しかし、その予測は現実となった。いま彼は「ドクター・ドゥーム(破滅を予言した男)」と呼ばれ、世界中から注目を浴びている。さらに今年になって、ルービニ教授は、住宅バブル崩壊がもたらしたアメリカの経済危機は12のステップを経て「金融メルトダウン」を招き、アメリカの金融システムに1兆ドルの損失を与えると予測した。この「悪夢のシナリオ」が話題となり、取材が殺到している教授にニューヨーク大学の研究室で、「アメリカ、日本そして世界経済はこれからどうなるのか」を聞いた。




−アメリカ政府の緊急救済措置をどう評価していますか。

ルービニ 救済措置の内容は時間の経過とともに変化しています。元々の計画は金融機関が所有している株と資産を買い上げることでしたが、いまは公的資金の注入に変化している。これは適切なことだと思います。G7(主要7ヵ国財務相・中央銀行総裁会議)がまとめた「行動計計画」にも、私の考えていたことのいくつかが反映されています。私が提案したいことは以下の四点です。一つは、システム上重要な金融機関を破綻させないということです。二つ目は弱体化している銀行に資本を注入すること。そして三つ目は銀行およびノンバンクにも流動性資金を提供すること。四つ目は、預金や銀行間のローンを保証することです。

−事態は正しい方向に向かっていますか。

ルービニ 10月10日までは、アメリカの金融は破綻寸前であるかのように見えました。政府の段階的なアプローチではうまくいかなかったのです。すでに相当な損害が生じていますが、本当にすべて適切なことをすれば、ひどい恐慌は避けられるでしょう。緩やかな「U字形」の景気回復をすると予想します。ただ、いまの段階ではまだ、ひどい景気後退を避けられるとは思えません。そして日本が不動産バブルの崩壊によって1990年代に10年間も経験したような状況に、世界が陥らないようにできるかどうかもわからない。


アメリカは新興市場だ

−教授は06年にすでに現在起きているような崩壊を予測したことで世界的に有名になりましたが、どうしてそれができたのでしょうか。

ルービニ 私は10年にわたって金融危機を研究してきました。ホワイトハウスや財務省のアドバイザーとして、メキシコ、ロシア、ブラジル、アルゼンチン、エクアドル、ウクライナ、ドミニカ共和国など新興国の最悪の事態について調べて、それをまとめた『Bailouts or Bail-Ins(救
済かそれとも再編か)』という本を共著で上梓しました。

新興国にしろ先進国にしろ金融危機にはすべて同じような背景があります。私は新興国の研究に力を入れているうちに、アメリカが世界最大の新興市場に見えてきたのです。この国は信用バブル、資産バブル、そして住宅バブルによって動いていた。ですから、いま起きていることは起こるべくして起きた「事故」なのです。私には、こうした事態に遭遇することは当時から明らかでした。

−歴史的に大局的にみてそう考えたということですか。

ルービニ 歴史、経験、そしてデータを使いましたが、メカニカルなアプローチではありません。こういう問題については全体的なアプローチが必要です。二つのアプローチでは予測できません。リスクを査定するためには、すべての要素をみなければなりません。その結果アメリカ
が、破滅の道を辿っていることは明らかでした。
I
−当時、楽観的な見通しを述べている専門家が多数いました。いまあなたは、彼らに対して「だから言ったじゃないか」と言いたい気持ちですか。

ルービニ そこまでは口にしませんが、残念ながら現在はかなりひどい景気後退の状態にあります。それはアメリカだけではありません。地球の半分と先進国のすべてがどん底に向かっています。さらにこれはグローバルな景気後退につながるかもしれません。いまは「私が予測したことが正しかったと証明されたんだ」という気持ちですね。私は一貫して自分の分析に基づいて意見を述べてきました。しかし、あまりにも多くの人が、楽観的な幻想を長々と語ってきました。彼らは、本当は大丈夫ではないのに、大丈夫だといって“自己歎嚇のゲーム”をしてきたのです。


破綻を呼び込んだ「責任者」

−アメリカで起きていることで、想定外のことはありますか。

ルービニ 基本的にありませんね。今年2月にウェブ上に書いた「12ステップの金融メルトダウン」(悪夢のシナリオ)がまさに実際に起きました。特にこの2〜3ヵ月はそのステップに従って様々なことが発生しています。一つだけ予測と異なることを言うならば、それが起きている速度です。私が考えていたよりもはるかに速いスピードで進行している。2月に、主要なブローカー(証券会社、投資銀行)の一つか二つが破綻し、2年経てぱ、独立した主要なプローカーはなくなると書いたのですが、実際はベアー・スターンズが破綻してから6ヵ月しかかかりませんでした。ご存じのようにリーマン・プラザーズが破綻したのです。そしてメリルリンチはバンク・オプ・アメリカに救済含併され、モルガン・スタンレーとゴールドマン・サックスは、被綻を避けるために銀行持ち株会社に業態を変えざるを得ませんでした。この9月と!0月に起きたことは予想外で、シナリオの進む速度は極端に速い。

−あなたが発表した「12ステップの金融メルトダウン」とは具体的にはどんなものですか。

ルービニ 私は金融システム、つまりトラブルになっている実体経済の、重要な部分を摘出しようとしたのです。サブプライム住宅ローン破綻から問題が始まって、他のローンに広がり、モノライン(金融保証会社)の損失が生じ、商業用不動産ローンが破綻し、レバレッジド・ローンの損失が膨らんできます。私はこうした順序で生じるシナリオをまとめたのです。この2〜3ヵ月に起きていることはそのシナリオ通りになったわけです。

−いまどの段階にあるのですか。

ルービニ 第12ステップです。それぞれのステップを丁寧にみるとわかりますが、我々は金融メルトダウンの最終段階にいるのです。いま政策決定者がやるべきことは、このメルトダウンを避けるべく努カをすることです。

−金融危機の根本的な原因は何だと考えていますか。

ルービニ 専門家の多くは、往宅バブルとかサブプライム・バブルの話をします。それは当たっていますが、実際の原因は資産バブルと信用バブルです。アメリカ経済だけでなく、ヨーロッパや他の新興国では、商業用不動産、クレジットカード、自動車ローン、学生ローンなどに資金を供総するレバレッジ(借入金による投資)が問題です。そして不確かな信用取引、低利の融資、金融機関の強欲、あまりに危険性の高い取引と、監督機関が眠っていたことが、この破綻を呼び込んだのです。自己規制に任せるということは規制がないのと同じことです。アグレッシブで無謀なリスクテイキングという愚がそれに輸をかけたのです。さらに金融機関が不透明な取引に走ったことも原因になっています。いつの間にか住宅ローンが、MBS(不動産担保証券)に変わり、それがCDO(債務担保証券)となり、どんどん複雑な商品に変わって、DDD格付けのはずの住宅ローンが、すべてAAAの住宅ローンに化けていったのです。その実体は“紙くず”と同じですから、結局はシステムが崩壊したのです。

−アメリカはどこで間違ったのでしょうか。

ルービニ もっとも進んだ先進国であるはずのアメリカやイギリスの金融システムが、欠陥だらけで、監督が不足していた。そして金融機関は過度に強欲で、過度のリスク・テイキングをし、貧弱なリスク・マネジメントしかできなかった。どこかという特定のところではなく、そういうさまざまな要素が組み合わさって、この事態は起きたのです。

−誰に責任があるのでしょうか。

ルービニ 責任者は一人ではありませんが、グリーンスパン(FRB=アメリカ連邦準備制度理事会前議長)に責任があることは間違いありません。金利をあまりにも低く、しかもそれを長い間そのままにしたからです。もちろん他の監督機関にも責任があります。こういう“毒入り”の住宅ローンを放任し、バンカーやトレーダーやウォールストリートのCE0の自己規制を信じたからです。彼らは強欲で、愚かで徹慢で、取るべきではなかったリスクまで取りました。

−最悪のシナリオでは、アメリカはどうなるのでしょうか。

ルービニ 失業者が増え、収入が激滅し、家を失い、貯蓄も滅り、社会経済的な貧困の状態になります。社会や人間が犠牲になりますが、この事態は、より貧しい国ではさらに劇的に起こります。


景気動向は「U字」か「L字」か

−この状況は世界に広がっていますね。

ルービニ どの先進国も景気後退の状態です。世界のGDP(国内総生産)の50〜55%が収縮しています。これが新興国にも影響している。ですから、この景気後退がグローバルに広がる可能性は非常に高い。

−どんどん悪化していますね。

ルービニ そうです。半年前はアメリカだけが景気後退の状態にあるように見えましたが、いまはすべての先進国がそうです。そのうち新興国もそうなるでしょう。アメリカは世界のGDPの20%を占めていますから、この国が風邪をひくと他の国も風邪をひきます。しかも現在は風邪どころではなくて深刻な肺炎の症状です。他の国も大きな打撃を被るでしょう。

−アメリカの金融がメルトダウンするだけでなく、世界恐慌になりかねないのではありませんか。

ルービニ 「恐慌」(depression)という言葉は強烈な言葉です。早急な「V字形」の景気回復はあり得ませんが、アメリカ、ヨーロッパ、さらに新興国でも、「U字形」のゆっくりした景気回復の可能性はあります。当初、日本のように、景気が悪いままになってなかなか回復しない「L字形」になることは考えていなかったのですが、その可能性はこの2〜3ヵ月で高くなりました。景気
がL字形の状況となることを避けるには、いまの時点で、どれだけアグレッシプな政策を実行できるかにかかっています。

−世界中で株価も下落しており、状況は1929年に始まった世界恐慌と似ています。

ルービニ 1929年の恐慌では2日で20%も株価が下落しましたが、今回は5日間かかっているので、“スローモーション版”と言えるでしょう。ただし規模は1929年と同じです。


邦銀にとってはチャンス

−日本では東証株価が10月に入って、記録的な暴落をして、その後も乱高下しています。日本の経済もアメリカのようになりますか。

ルービニ 日本は90年代に、不動産バブルがはじけて金融危機を経験しました。その後も政策の失敗で、10年以上も景気が停滞しました。ある意味では、いまも日本はその停滞から回復していません。人口も増えず、生産性も上がっていませんから。しかし、日本の金融機関は、不良債権を処理して、アメリカやヨーロッパほど傷んではいない。すでに起きた金融危機のときの失策から学んだので、アメリカほどひどい状態ではありません。しかしこの2〜3年日本はずっと経済が停滞しています。株が下落し、また景気後退期に入っています。アメリカと密接につながっているからです。でも、日本でもう一回金融危機が生じることはないと思います。ただ失業率は上がるでしょう。株式市揚はすでに大幅に下落していますが、状況がさらに悪化してもアメリカやヨーロッパほどではないでしょう。

−日本政府はいま何をすべきでしょうか。

ルーピニ それは難しい質問ですね。日本はすでに一回危機を経験しているので政府も理解しているでしょう。私は、景気回復策として、ゼロ金利に戻すのも悪い考えではないと思います。もっと経済を刺激すべきです。いまやるべきことは生産性を上げるための構造改革ではないでしょうか。

−日本の基幹産業である自動車産業は、これからどうなるでしょうか。

ルービニ アメリカの景気がひどい状態になっているので、当然アメリカに輸出される日本の自動車の台数も滅ります。またアメリカで製造される日本車の量も減る。景気後退はGMやクライスラーに打撃を与えるだけでなく、日本のトヨタやホンダや日産の利益率にもかなり影響を与えるでしょう。アメリカは日本の自動車会社にとって大きな市場ですから、大きな打撃を受けます。それでもフォードやGMより、それは小さい。

−三菱UFJフィナンシャル・グループがモルガン・スタンレーに9000億円もの出資をしました。日米の金融機関の関係はこれからどうなるのでしょうか。

ルービニ 逆説的に言えば、日本の金融機関はアメリカやヨーロッパよりもはるかに健全な状態です。自国で危機を経験したので、リスクを取る点で慎重になっているからです。ですから、今回、アメリカの金融機関を買収する絶好の機会がきたといえるでしょう。アメリカは、中国、
ロシア、アラブ諸国のような、白分のライバルの国の金融機関には自国のそれを買収させようとしませんが、同盟国にはオープンです。日本の銀行にとっては好機到来ということかもしれません。


大英帝国のように

−ドルが弱体化し、基軸通貨でなくなり、最後は「アメリカ帝国の終焉」という結末になるのでしょうか。

ルービニ ドルの役割はユーロや他の通貨と比べるとこれから収縮していきます。地政学的にいうと、「アメリカ帝国の終焉」の始まりです。ソ連の崩壊後、アメリカは唯一の超大国でした。現在、EU、中国、ロシア、日本のような経済大国に比べて、アメリカの力が小さくなってきています。アメリカの政策の失態で、それがさらに加速化されている。一晩では変わりませんが、徐々にアメリカのパワーが小さくなり、かつてのローマ帝国や大英帝国のように、段階的に衰退していくでしょう。

−そうならないためにアメリカは何をすべきでしょうか。

ルービニ 最初に述べたように、すでにたくさんのことが実行されています。銀行への資本注入、部分的な国有化、重要な金融機関の救済、企業にクレジットを与え、適切な方法で保証することなどです。


証券化という詐欺

−EUはペイオフの額を引き上げています。このことは効果がありますか。

ルービニ アメリカでも預金保証額をすでに10万ドルかち25万ドルに引き上げています。ただ、預金を抱えている銀行が再びクレージーなことをしないように、政府がよく見張っている必要があります。

−リーマン・ブラザーズの破綻などから考えてみると、ウォールストリートのビジネスモデルは聞違っていたと言えるでしょうか。

ルービニ なんでもかんでも証券化する手法に欠陥があったのです。証券化が破綻を呼び込んだのです。これが多くのブローカーやディーラーの収入源になっていましたが、それは詐欺と同じ行為です。銀行からカネを借りて、レバレッジを利用してその資本を何倍にもして投資し、それで“ぼろもうけ”するのですから。こういう行為をする金融機関は銀行と同じように政府によって規制されなければなりません。もっと資本を増やし、レバレッジを少なくしなければならない。数ヵ月のうちにこの手の金融機関は消えるでしょう。

−そういえぱ、先日、投資銀行最大手のゴールドマン・サックスは2年以内に売却されると予測していましたね。

ルービニ 私が言いたかったのは、2年以内に主要な独立した投資銀行はなくなるということです。すでにゴールドマン・サックスでさえも銀行持ち株会社に転向せざるを得なくなっています。これによって銀行と同じ規制を受けることになりました。

−大統領選で民主党のオバマが勝つとアメリカ経済はいまよりよくなりますか。

ルービニ オバマのほうがマケインよりも住宅危機、金融危機について、よりよいプランを持っていると思います。アドバイザーがすぐれているのでしょう。この危機から早く抜け出せるように、かなりアグレッシブにそれを実行するでしょう。過去の間違いを繰り返さないために。


ヌリエル・ルービニ 1958年トルコ生まれ、イタリア育ち。88年ハーパード大学で経済博士号取得。IMFコンサルタント、財務省顧問を経て現職。

 
 
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