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ヌリエル・ルービニ/Nouriel Roubini
日本経済復活を信じていいのか
この秋、米国経済は大失速
クビ切り急増、消費激減 − 悪夢のシナリオ
ノリエル・ルービニ(ニューヨーク大学教授)
(Voice 2009年10月号)
失業率は11%に達する
2006年7月、IMF総会の講演で、「専門家による経済予想、とくに景気後退の予測は当たらないものだ。私は経済の専門家ではないから、たぶんこの予想は当たるだろう」と切り出し、「米国はこれから厳しいリセッション(景気後退)に陥る、皆が期待するようなソフトランディングはありえない」と「予言」しました。しかし真剣には受け取られず、場内は白けてしまいました。
さらに2008年11月、カタストロフィ的な金融メルトダウンが発生し、サブプライムローンを多く抱えた大銀行の破綻と株価の急激な下落が起こるという「12ステップの金融メルトダウン」をウェブ上で発表したわけですが、その後、実際にリーマン・ブラザーズの破綻によって、世界的な金融危機か引き起こされたわけです。
その後も「これは米国、欧州、そして、いまや新興市場にとって長いあいだで最悪の金融危機だ。事態は改善する前に大きく悪化するだろう。最悪の事態はこれからやってくる」と悲観論を打ちづづけました。
予測が現実となったので、Dr.Doom(悲観論の帝王)と呼ばれるようになり、いまでも毎月、世界中から300以上の取材依頼が舞い込んできます。
ところが今年7月16日、ロイター電で「金融危機の最悪期は過ぎ、年内に景気は底打ちする」と私が発言した、というニュースが世界を駆け巡り、その日のダウ平均値100ドル近く上昇しました。
まるで修正論を出したかのように報じられ、その対応に追われることになりましたが、私の考えは終始一貫していて、変更はありません。
すなわち「深く、長期化するU字型のリセッションになり、24ヶ月続く」との主張だったわけですポ、そのリセッションが始まったのが2007年12月ですから、今年の12月までは終わらない、といったのです。しかしロイターはその文脈を無視して報道し、大きな誤解が生じる羽目になりました。
いまのアメリカ経済について、私はけっして楽観的ではありません。ダウ平均は連騰続きで9000ドル台にまで回復し、企業業績もポジティブサプライズが続出していますが、この上昇によって、アメリカ景気が回復した、と勘違いしてはいけません。
現在の景気はrally(一時的な反発)であって、recovery(回復)ではありません。前代未聞の大規模な財政出動が功を奏しているだけです。このプラスの影響はしばらく続きますが、新産業などが生まれ、経済が根本的に回復しないかぎり、また下向きになります。現状が「底入れ」と思って安心してはならないのです。
今回の危機は根が深く、そう簡単に解決するものではありません。よく見積もれば次の2、3年で1%の成長か見られるかもしれませんが、悪く考えれば、もっと悪化する可能性もあります。
おそらく失業率は2010年、11%近くにまで達するでしょう。2000億〜2500億ドルレペルの財政出動が必要とされるでしょうが、たんにお金だけを出してもそれは一時凌ぎにすぎず、景気がすぐによくなることはありません。財政出動に雇用喪失の速度を緩やかにする効果はほとんどないのです。
危機が起こった根本的な原因の一つは“信用バブル”であり、その信用を保証しないかぎり、経済はよくなりません。さらにはその信用が中小企業にまで流れることを保証する必要があります。
企業の倒産を食い止めないかぎり、失業率は上がりつづけ、労働市場はますます悪化するでしょう。
さらにいえば、失業率を見るだけでは実態は把握できません。まず、失望して自分から辞めていった人は失業率にカウントされていない。しかも現状、自ら辞めたり解雇されたりしたあとで、次の職を見つけるのが以前と違って甚だ難しいのです。
また他国への仕事のアウトソーシングも相変わらず滅っていません。賃金の安い単純労働について、そのほとんどがアメリカに戻ってくることはないでしょう。
さらにいえば、たとえ解雇されていない労働者でも危機の苦痛を共有するため、企業は労働時間の短縮や滅給を受け入れるようプレッシャーをかけています。すなわち失業者だけではなく、実際に働いている労働者の生活もますます困窮しているのです。
こういうpartially-employed worker(部分的に雇われた人たち)を考慮に入れて計算すれば、失業率は16%を越えるでしょう。臨時の職(アルバイト職)も急激に減っていますから、これは前代未聞の雇用喪失といっても過言ではありません。
すでに現実には毎月60万人ほどの雇用喪失が生じている可能性が高いと思います。そのうえに失業率のさらなる増加と勤労者所得の押し下げか、消費に悪影響を及ぼすことは十分に考えられるでしょう。
具体的には住宅セクターの底入れが先延ばしになり、銀行のローン(住宅ローン、クレジットカード、自動車ローンなど)のdefault(債務不履行)が増加していきます。それがいわゆる「double-dip(二番底)」をもたらす可能性は少なくありません。
以上を踏まえれば、景気回復はゆっくりした「U字型」になるか、企業の倒産が減り、新産業が生まれるという根本的な解決を伴わなければ、「W字型」になるでしょう。
現在、市場はかなり楽観論に傾いています。リセッションは8ヶ月間しか続かず、その後はV字回復すると予測した学者はかなりの数に上りました。しかし、リセッションが始まってすでに19ヶ月が経過しています。彼らが間違っていたことはすでに証明されているのです。小売、工業生産高、さらには労働市場をみれば、まだリセッションか終わっていないことがよくわかるはずです。
もちろん暗いトンネルの先には光がありますが、どんなに控えめに見積もっても、リセッションは今年いっぱい続きます。以揃に起こった2つのリセッション(1990年〜91年と2001年)と比較したとき、今回の金融危機は累積的GDPの縮小からみると3倍の長さ、5倍の深さがあります。かように根が深いのです。
資本注入後の企業を監視せよ
そのような危機に対処するため、オバマ政糧は景気刺激策を尽くしています。金融緩和、大規模な財政出動、滅税などを行なっているわけですが、まず忘れてならないのは、今回の危機は単純に需要不足によって引き起こされたわけではないということです。
先ほども述べたように、金融危機は不確かでかつ危険性の高い信用取引をまったく規制のない状態で行なって、そこに「信用バブル」が生じたことでもたらされました。住宅ローンがMBS(不動産担保証券)に変わり、それがCDO(債務担保証券)に変わり、実体は紙くずである商品が複雑な商品に化け、正体不明の存在になってしまったのです。何がどうなっているか誰も把握できず、気づいたときには手遅れになっていました。政府の監督がない状態でそのような毒入り商品が世界中を徘徊したことが、そもそもの問題だったわけです。
したがって、そのような状況下で金融緩和を行なっても根本的な解決になりません。しかし、回復がanemic(沈滞した、元気がない状態)でデフレのプレッシャーが優勢であるなか、あまりにも早く金融緩和を終了してしまえば新たなリセッションがもたらされます。金融緩和を脱却するタイミングも、景気回復の速さに影響するということです。
現在、もっとも重要な施策は財政出動ですが、少なすぎると効果はありませんし、大きすぎると証券、債券市場にマイナスを及ぼします。類のない規模で紙幣を刷り、お金をばらまけば当然、インフレの到来となるでしょう。
シティバンクが象徴的ですが、破綻懸念念企業を一時国有化し、蘇生させる方策をオバマ政権は行なっています。私は、「12ステップの金融メルトダウン」において、アメリカの金融機関は少なくとも1兆ドル、多ければ2兆ドルの損失を出すだろう、と予測しました。当時は誇張しすぎ、という批判を浴びたものですが、今年2月時点でその損失はすでに、1兆ドルを越えていました。
弱体化した銀行を救済するには、自由市場資本主義に任せてリーマン・ブラザーズのように奈落の底に突き落とすか、資本を注入して生き返らせるという方法があります。日本の「失われた10年」は後者を選択しましたが、政府がゾンビ銀行を支え、それがさらに別のゾンビ銀行を支える、という構造が生まれました。
国有化はあくまで一時的な措置であって、永久に続くものではない、という認識をもたねばなりません。危徴から脱し、状態が安淀するまで一時的に国有化するのです。安定すれば銀行は自らの株を買い戻せばいいだけです。完全に破綻させるとますます経済は悪化し、より多くの時間がかかります。
オバマがやろうとしていることはほとんど正しいように思えますが、しかしそこで重要なことは、たんに資本を注入するのではなく、注入した資本がどのように使われているのかを厳格に監視することです。透明性が非常に重要な鍵を握っています。民間部門のさまざまな面で債務の再編をしなければ真の回復はありませんが、公共部門でもう一度レバレッジをかけようとすると非常に危険です。金融危機以前のように状況を野放しにしておけば、新たな危機を呼びかねません。
レバレッジで破綻した国がアイスランドです。アイスランドの銀行はGDPの21倍の借金を海外から行なって、毒入り商品を買っていました。そしてその毒入り商品が紙くずになり、破綻しました。しかし国家には破綻した銀行を救済する資金もなく、同時に破綻せざるをえなかった。非常にわかりやすいストーリーです。
一方で、滅税については、あくまでその効果は一時的なものと捉えるべきでしょう。何度でも繰り返しますが、労働市場が回復し、消費か戻ってこないかぎり、根本的な解決にはなりません。
今年1、2月における小売の売り上げは伸張しましたが、4月に反落し、6月の数字はさらに悪くなりました。tax rebate(戻し減税)は消費を促すために行なった対策ですが、ほとんどの人がそれを貯蓄に回してしまったからです。
昨年、ブッシュ政権は1000億ドルの戻し滅税を行ないましたが、1ドルのうち、30セントしか消費に回していないことが明らかになりました。景気刺激のために滅税はあまり効栗がないことが明らかになったはずですが、オバマ政権が同じ轍を踏んだのは理解できません。案の定、今年も戻し滅税用に1000億ドルを用意したものの、1ドルのうち20セントしか使われませんでした。
戻し減税があってもこれだけしか使われないのですから、秋からさらに消費が落ち込むことは間違いありません。そしてアメリカ人の消費は世界経済に直接的な影響を与えますから、その結果、金融危機からの脱却はますます遅れるでしょう。
オバマの環境政策に期待する
新産業の創出、という意味では、オバマの打ち出しているグリーン・ニューディール政策に触れないわけにはいきません。
国連を含め、多くの機関、各国政府がこの政策を支持しています。この政策はアメリカだけを利するものではありません。発展途上国をも含む、いわば全地球規模の政策といってもよいでしょう。根本的なパラダイムシフトをもたらすものなのです。
ルーズペルト大統領のニューディール政策にあやかってそのような名称が付けられていますが、繰り返し述べているように、財政出動は一時的な弥縫策にすぎません。数字上はリセッションか終わったとしても、まだリセションが続いているような感じになりますし、新しい産業を興さないまま紙幣を印刷しすぎるとドルが暴落し、間違いなくインフレが訪れます。このリスクは大きく、たんに紙幣を刷ればよい、というものではありません。
産業革命やIT革命のような新しい革命と呼べるほどの出来事が起きなければ、経済を大きく成長させることはできないのです。現在の状態ではたとえ14兆ドルという天文学的な規模の財政出動を行っても、ギアがリバースからニュートラルに変わるだけで、それをドライブに入れることはできません。
新しい段階にギアを進めるためにこそ、グリーン・ニューディールの出番があるのです。
気候変動の問題は地球規模の問題です。renewable energy(再生可能エネルギー)がアメリカ国内で十分につくられるようになれば、石油の輸入に頼らなくてもいいようになります。その結果、石油が燃やされることで発生する二酸化炭素を軽減できるでしょう。
もちろんこれは現在衰退に向かっているアメリカの国力を増加させる雇用創出策でもあり、そういう意味では一石三鳥の政策である、といってよいかもしれません。
オバマ大続領は10年間で1500億ドルという金額を拠出し、その分野で500万人の雇用を生み出す、と明言しています。クリントン政権の元首席補佐官であったジョン・ポデスタが所長を務める民主党系のシンクタンクCenter for American Progress(アメリカ進歩研究センター)が試算したところによれば、1000億ドルを環境の分野で使えば200万人の雇用を生み出せる、という結果が出ています。
FRB(連邦準備制度理事会)についても簡単に触れておきましょう。私は今年7月、『ニューヨークタイムズ』の論説欄で、「FRBの独創的で積極的な行動が、恐慌寸前に陥るリスクを著しく低下させた」と述べました。投資銀行への融資やコマーシャルペーパー(CP)市場の支援、ペアー・スターンズとアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)に対する政府救済への参加、米国債と政府機関債、MBSなど計1兆7000億ドルの購入方針といった「金融政策の伝統的手法によらない」政策を私は高く評価しています。
一方で、住宅不況とサブプライムローン危縫では深刻さを予想できず、住宅用不動産市場の崩壊はリセッションにつながらない、と発言した点については批判しました。住宅バブルがはじけた2、3年前、バーナンキはその1ことをcontained problem(それだけで、他に影響を与えない問題)として一蹴しました。往宅市場は経済の5%を占めるだけなので、経済には影響を与えない、と高を括っていましたが、それはまったくバカげた考えだったのです。彼は2008年に経済は底入れするといっていましたが、結果はご覧のとおりです。
サブプライム問題がcontained problemであるはずがなかったのです。「12ステップの金融メルトダウン」のなかでも述べたとおり、サブプライムローンの破綻はものの見事に他のローンに広がり、金融保証会社の損失につながり、商業用不動産ローンか崩壊しました。しかし、私の警告には誰も耳を貸さなかったのです。
もちろんウォール街の異常な貪欲がその状況に拍車を掛け、事態が悪化したことは間違いありません。もし20年前にさかのぼって経済政策の間違いを直せるならば、後知恵ですが、金融機関による自主規制が善である、というイデオロギーがパブルにつながり、今回の事態を引き起こしたのは明白で、その考え方を改めることができれば、と思います。
1980年代に不動産バブルがはじけ、S&L(貯蓄貸村組合〉危機によるリセッショシがあり、今回、再び住宅パブルが生じて崩壊しました。パブルが生まれてはじける、ということを繰り返してきたのです。
金融機関の監視はよくない、と思い込んでいたことが問題の出発点で、もちろん陰の銀行システム(タックスヘイブンなど)がそれを加速化したことはいうまでもありません。
日本はアジア経済の回復に乗れ
以上、アメリカの状況を俯瞰してきたわけですが、これから世界経済はどのような推移をたどるのでしょう。
まずはヨーロッパに目を向けましょう。東欧の新興国もまた、今回の危機で大きなダメージを受けました。欧州の新興国は破綻寸前です。ラトピアなどでは通貨暴落が起きるかもしれませんし、現状をみるかぎり、そのシナリオは避けられないでしょう。
私にいわせれば、いまのラトピアは2001年に起きたアルゼンチンの通貨危機と同じような状態です。
ハンガリーやウクライナ、ブルガリアでも通貨危機が迫っています。欧州の新輿国が不安定になれば、スウェーデン、イタリア、オーストリア、ギリシアなど西欧の銀行全般に影響を及ぼします。その結果、グローバルな金融市場が変動し、それが世界経済にダメージを与えることは必至です。おそらくヨーロッパの回復は、アメリリカよりも遅くなるでしょう。
中国はどうでしょうか。他国に比べ、中国は圧倒的な外貨準備礪高を誇っています。それが強さの源泉で、その外貨準備を銀行に貸し出し、銀行は企業に貸し出し、企業がますます元気になる、という構造です。だから上海総合指数が上がっているのです。
留意すべきは、中国は国営事業にお金を投入し、人を雇い、生産性を高めているわけですが、民間の内需についてもさらにサポートを行なわねばならないことでしょう。
今後、中国の人民元がSDR(IMFによる特別引き出し権)のバスケットに入れば、長くて20年で人民元が基軸通貨になる可能性があります。ドルの地位が衰退するにはあと10年かかると思いますが、高を括っていると、もっと早くなってしまうかもしれません。
しかし、中国が自国通貨を使って自由に国家間でお金を貸し借りできるようになれば、輸入品に対する支出が増え、民間および公共の負債の金利が上昇します。そうなれば消費や投資が衰え、成長の速度が滅速するかもしれません。
日本については、アジア全体の経済がどのくらい早く回復するか、ということがポイントはないでしょうか。今回の危機でアジアは西洋ほどダメージを受けていないので、とくに中国経済の伸張が薯しいいま、中国で多くのピジネス機会をもっている日本にもプラスの影響が出てくるように思います。
日本では円高が続いていますが、それは世界経済か不安定であることの象徴であるとも思います。1日に3%も円高になる、という状況は、いかに金融市場がナーバスになっているか、ということを表しているようです。
しかし根本的な認識としてもつべきは、世界経済が回復するためにはまず、やはり最大の消費国であるアメリカが最初に回復しなければならない、ということでしょう。そのうえでそれぞれの国の回復が同時並行的に進行することで、少しずつ明るい光か見えてくる.のではないでしょうか。
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