マイケル・サンデル/Michael J. Sandel
著者は語る
正解なき難題をめぐる、知的興奮に満ちた講義録
『これかちの「正義」の話をしよう−いまを生き延びるための哲学』
マイケル・サンデル著 鬼澤忍[訳]

(週刊文春 2010年6月24日号)

これから「正義」の話をしよう
これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学 [単行本]
マイケル・サンデル (著), Michael J. Sandel (著), 鬼澤 忍 (翻訳)

「1人を殺せば5人が助かるなら、あなたはその一人を殺すべきか」「極端な累進課税
は公正か」一これら「正義」をめぐる哲学の問題を、アリストテレス、ミル、ロールズなど古今の哲学者の考えをもとに突き詰めていく。ハーバード大学史上最多の履修者数を誇る講義をもとにした全米ベストセラー、待望の邦訳。

マイケル・サンデル「ハリケーン襲来後の便乗値上げの正当性」「PTSDに苦しむ退役軍人に名誉負傷勲章の受勲資格はあるか」「自身が望んでの臓器売買は許されるのか」……これら容易に答の出ない問いを前に、マイケル・サンデル教授はペンサムの功利主義、カントの道徳論、ロールズの正義論、さらにはアリストテレスまで古今の哲学理論を参照しながら、大ホールを埋めつくす学生達に思索の種を蒔いていく。「以前から政治哲学を現実世界、政治上の議論にぶつけてみたいと思っていた}

今、ハーバード大学で最も人気のある講義「Justice(正義)」が一冊の本にまとまった。テレビ放映が話題となり日本でもベストセラーとなったが、教授は当初、本書をまとめ
ることをためらっていた。

「講義の持っているスリルやサスペンスを台無しにしたくなかった。本を出すことで、議論の方向性がある程度見えてしまうからね」

たとえば代理出産の問題。教授は代理母が子供引き渡しを拒否した事例を引き、インドの代理母ビジネス事情や功利主義の立場からの主張(金銭授受を伴う妊娠は契約に基づく産業で、当事者の幸福を促進するから許される)を示しながら、学生を「『正義』をめぐって対立するさまざまな考え方の分岐点」に立たせていく。悩みながらも自説をたずさえ、次々に教授へと挑んでいく学生たち。この独創的かつエキサイティンクな講
義スタイルは、一体どのようにして出来上がったのか。

「学生時代、{新聞社でインターンをしていた頃にウォーター.ゲート事件が起きた。『今が^ジャーナリズムのピークだ』と言われて進路が見えなくなった。その時、自分が政治に関するディペートが好きなこと、哲学の講義が余りにも描象的で理解できなかったことを思い出した。だからこの授業は、自分が学生の時に受けたかった授業そのものなのだ」

教授自身は共同体主義者=反リベラリストとして知られている。だが・・・・・・・。

「私は自分の考えを最後まで提示しない。代理出産問題なら、私は『子供の商品化は親が無条件に注ぐ愛情の価値を損なう』という立場だが、講義の目的は学生が自分の仮説をとことん考え抜けるような質問の枠組みを作ること。だから私の意見と対立することは大いに歓迎する(笑)。正義は一つではないし、民主主義とは同意することではない。多様な意見に敬意を表しなからも、どう反対するかを学ぶことが大切なのだ」



マイケル・サンデル/Michael J. Sandel
1953年生まれ。ハーバード大学教授。専門は政治哲学。80年代のリベラル=コミュニタリアン諭争で脚光を浴ぴて以来、コミュニタリアニズムの代表的論者としで知られる。02年〜05年にかけて大統領生命倫理評議会委員を務める。『リベラリズムと正義の限界』など著書多数。

 
 
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