カレル・ヴァン・ウォルフレン教授/Karel van Wolferen
11・2米大統領選に緊急発言
「世界をカオスに陥れるブッシュの黒幕」
再選なら、大儀なき戦争が繰り返される!
(週刊ポスト 2004年11月5日号)

世界の明日が決する日―米(アメリカ)大統領選後の世界はどうなるのか
カレル・ヴァン ウォルフレン (著), Karel van Wolferen (原著), 川上 純子 (翻訳)



現職の共和党・ブッシュ大統領と民主党のケリー候補による大統領選は、史上まれに見る激戦となっている。そうした中、日本を中心とした国際政治の第一人者であるカレル・ヴァン・ウォルフレン氏が一冊の本を上梓した。タイトルは「世界の明日が決する日」)(角川書店・刊)。同書の中で「ブッシュ再選は世界を混乱に陥れる」と警鐘を鳴らすウォルフレン氏に、その真意を質した。



「対テロ戦争」は成立しない


−あなたは今回の大統領選挙を“歴史のターニング・ポイント”と表現している。その理由から伺いたい。

ウォルフレン イラク戦争以降の世界は悲劇的な状況ですが、ブッシュ大統領の再選は、その世界を肯定することになってしまいます。これまでの、比較的予想できた世界の動きは全く読めなくなり、不確実性が増します。世界は、“新しいカオス(混沌)”に溢れたものになるでしょう。

−“新しいカオス”とはどういうことか?

ウォルフレン ブッシュ大統領が再選されれば、議会での圧倒的な共和党優位を背景に、さらにやりたい放題となるおそれがある。どれだけ世界から非難を浴びようと、彼らの極端な政策が吟味されることなく、ひたすら推進される4年間が待っているのです。

−“正義”の名の下に、大儀なき戦争が繰り返される可能性が増すと?

ウォルフレン その通りです。私はこれまで何度も、テロ根絶を目指すアメリカは「終わりのない戦争」に踏み込んでいると述べてきました。そもそも「テロに対する戦争」という論理は成り立ちません。テロリストは戦争を仕掛ける当事者ではないですから。彼らは降伏しないし、平和条約に調印する主体でもない。そんな相手に国家が戦争を行うのはそもそも不可能な話なのです。
 テロは肯定されるべきものではありませんが、テロリストの側にそれなりの理由があるのも、また事実です。だからこそ、アメリカはたくさんの国や組織と協力して、テロの原因とそのネットワークを明らかにしながら、テロリズムを生む“構造”自体を変えていかねばなりません。

−ブッシュ大統領の再選は、その可能性を絶望的なものにすると?

ウォルフレン そうです。なぜならブッシュ大統領の政治とは「恫喝」と「支配」に基づくものだからです。彼らは01年の同時多発テロ事件以降、テロの脅威に対抗するためならば何をしてもいい、自分は特別な権利を持っていると主張してきました。テロで計り知れないほど大きなショックを受けた大衆心理を、徹底的に利用しています。
 例えば政権に不利な情報を暴くジャーナリストを、別のメディアを通して「愛国心にかけている」と非難します。愛国的になっている米国民の多くは、その通りだと思ってしまう。論点を曖昧にし、反論を封じ込める。これは一種の恫喝です。彼らはこうした手法でメディアを通した大衆支配を推し進めているのです。

選挙で承認された「独裁者」

−あなたの話を聞くと、まるでブッシュ大統領は現代の“独裁者”だ。

ウォルフレン “選挙で承認された”という前提付きの独裁者です。ただ、ブッシュ大統領の背後には“黒幕”として、上級政治顧問のカール・ローブ氏がいます。彼は前回の大統領選でも中心的な役割を果たし、政策の多くを立案している人物です。

−どんな人物か?

ウォルフレン 根っからの共和党支持者で、もともと父親のブッシュ元大統領の側近でした。ローブ氏は“選挙戦のプロ”。勝つためには手段を選ばず、例えばブッシュ氏がテキサス州知事に立候補したときは、対立女性候補がレズビアンであるという噂を流し、ブッシュ氏の当選を助けたといわれています。今年、ベトナム戦争の従軍兵から構成されたある団体が「ケリー氏のようにコロコロ気分が変わる人物は大統領にふさわしくない」と記者会見を開きましたが、その背後にはローブ氏がいると噂されています。

−そのローブ氏にブッシュ大統領はいいなりなのか?

ウォルフレン ブッシュ大統領は意志の弱い男で、自分では何も出来ない空っぽの人間です。その空の部分をローブ氏が埋めた。ブッシュ大統領のような不器用で素朴な男に、アメリカ人が好意を抱くということを見抜き、調教していったのです。

−つまり操り人形?

ウォルフレン いえ、操り人形よりはマシです。操り人形には脳がありませんが、ブッシュ大統領には脳があります。多くの人が思っているほど、ブッシュ大統領は“アホ”ではありません。処世術に長けていて、政治的な直感力があります。ただ、彼は無知で好奇心がありません。彼の有名な言葉に「新聞は読まない。関心がないから」というものがあります。自分の直感を信じているから物事を慎重に、深く考え抜く必要などないというわけです。
 だから周囲の人間の指示が必要なのです。ブッシュ大統領は重要な会議の後に必ずチェイニー副大統領だけを部屋に残し、相談していると聞いたことがあります。チェイニー氏はローブ氏と並ぶブッシュ大統領の指南役です。彼はアメリカ史上最強の副大統領です。

−この事実を米国民はわかっているのか?

ウォルフレン 全く知らないでしょうね。先日行われた副大統領候補の討論で民主党のエドワーズ候補が、「ハリバートンがイラク復興で大儲けしている」と指摘しました。ハリバートンはかつてチェイニー氏がCEO(最高経営責任者)を務めていた石油関連企業ですが、アメリカ人のほとんどはそんなことすら知らないのです。残念なことですが、アメリカ大衆は無知です。ローブ氏らはそうした“無知”につけ込み、世論を自分たちに都合の良い方へ誘導しているのです。

ケリー当選と日米経済摩擦

−そうしたブッシュ政権に小泉首相は追従している。

ウォルフレン 私は首相になる前の小泉氏と何度か話をしたことがありますが、彼はブッシュ大統領よりも世界情勢を把握していますし、知的好奇心もありました。ただ、ブッシュ氏の牧場に招かれて機嫌を良くし過ぎ、ブッシュ大統領の悪い点が見えなくなってしまったのかもしれません。イラク戦争への自衛隊派遣にしても、小泉首相は初期の段階で決定を下した手前、その路線を変更できずにいるのでしょう。

−あなたは自衛隊のイラク派遣に強く反対してきた。

ウォルフレン もちろんです。それは悲劇的な過ちです。イラクの自衛隊は軍隊としては何もしていません。通常、イラクに派遣された軍隊の武装車は多くのダメージを受けて汚れていますが、日本の武装車は輝いています。

−とはいえ、日米関係がかつてないほど強固なのも事実だ。日本ではケレー氏の勝利を不安視する声がある。労働組合から支持を得ているケリー氏が当選すると、日米経済摩擦が再燃し、対日制裁を行うという見方もあるが?

ウォルフレン 日本の役人はそれを心配するでしょうね。ただ、私がケリー氏の数人のアドバイザーと話をしたところ、彼らは日本について詳しく知りませんでした。むしろ私から日本のことを知りたがっていた(笑い。
私はケリー氏の当選で日本の経済対立が激化するとは思わないですね。むしろ日本に求められるのは、多額の財政赤字に悩むアメリカに自国の経済問題に取り組むように促すことです。

−破産寸前ともいえる米国経済を救う意味でもブッシュ再選は阻止されるべきだと?

ウォルフレン そうです。ブッシュ大統領は他国の占領のために多額のお金を使い、一方で減税するという矛盾した政策を採っています。それによって一部の富裕層と大企業だけを豊かにし、貧困層はますます増えている。そんな悪夢のような政治を終わらせるべきかあと4年間続けさせるべきか−。米国民は今こそ試されているのです。

 
 
Copyrights 2003 @ Globe Walkers Club. All Rights Reserved.