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第8回 取材の裏側B アメリカでの日本人対象取材の場合(前編)
アメリカで取材対象者が日本人でも英語ができなければ、途中の壁を破ることはできない。その典型的な例が、鹿内美津子さんの取材だった。
アメリカでは日本人取材でも英語は必須
鹿内美津子さんが突然ワシントンDCのスミソニアン博物館で働くという記事が夕刊に出て、その記事がニューヨークのぼくのオフィスにファックスされてきた。「週刊テーミス」(今は月刊)編集部からだ。取材依頼は彼女の独占インタビューだが、これだけだと一見簡単な取材のように見える。他の雑誌も多分取材に来るだろうから、見えない競争になることは予想された。あとでわかったことだが、週刊文春は社員編集者を日本からわざわざ取材に来させたが、手ぶらで帰ったという。 相手がアメリカ人であれば、週刊文春はほとんど必ず取材依頼をぼくに出していたが、相手が日本人となると、英語は必要ないだろうから、英語のわからない編集者でいいとでも思ったのだろうか。「テーミス」でぼくがスクープをやったときは、当時よく仕事を依頼してきた、文春の編集長だった花田氏から文句を言われたが、最初にぼくに取材を依頼しないで、あとで文句を言うのは筋が通らないのではないか。文句を言われるまでは、週刊文春が取材に行ったことさえ知らなかったのだから。 ここで、アメリカで日本人を取材する際にとても重要なことを言いたい。被取材者が日本人だからといって、日本語だけで済むと思ったら、大間違いである。アメリカで取材する限り、途中の壁はすべて英語。取材相手に警察を呼ばれ、数台のパトカーに囲まれることもあるので、英語ができなければどうしようもない。警察を呼ばれた場合は、張り込んでいる理由をきちんと説明すると、警察は納得して帰る。それどころか「この家は、そんな悪いことをしているのか、それなら張り込む価値はある。とてもnewsworthy(ニュース価値がある)だ」とぼくを激励するほどだ。公道で張り込んでいる場合は、違法にならないから、去れとは言えない。いかなる取材行為でも違法にならないように注意しなければならない。
まずは状況把握
鹿内さんの場合、取材にいたるまでの壁は想像以上に厚かった。彼女の名前で電話番号も住所も届けられていない。もし、unlisted(電話帳に出ていない)でも彼女の名前で電話番号が登録されていれば、ぼくはその番号を簡単に入手できるが、彼女の名前で登録されていないので、どうしようもない。よくここまで隠したものだと思った。それであきらめるどころか、「絶対に割る」という根性がわいてくる。何を隠してもすべて調べ上げるという根性が出てくるのだ。 とりあえず、本人がいるかどうか確認するために、スミソニアンの彼女のオフィスに電話すると、”She
is not here right
now.”と彼女本人が答えているのが笑えた。本人はばれていないつもりだろうが、ぼくは声を聞いただけで彼女だとわかる。テレビにもよく出ていたし、東京外語大で同じ授業を取っていたことがあるので声色は覚えている。英語で応対すると記者があきらめるとでも思ったのだろうか。 本人が確実にここにいることがわかれば、とりあえず、住んでいる場所を特定するために尾行しかないが、隠し撮りだけは先に済ませておくと精神的に楽になる。後で取材OKが出ても、写真撮影は拒否される可能性があるからだ。そして、スミソニアンのオフィスのあるビルの前で、いつものようにレンタカーの中にバナナの房を持ち込んで、張り込み開始。張り込みを行う、もう一つの目的は、生活パターンを把握するためだ。彼女の場合は、朝出勤するときに、子供を連れてビルに入っていくことがわかった。その瞬間、ある考えがひらめいた。これはそのビルの中に働く女性のためのday
care
center(託児所)があるということだ。そのオフィスには、彼女の電話番号が記載されているファイルがあるはずだ。もちろん普通にたずねても教えてくれるはずがない。
アクション開始
一回の失敗も許されない場合、取材のためのpretext(口実、名目)を考えなければならない。ぼくは、アメリカのday care
centerがどういうふうになっているか、というテーマで、このセンターに取材を申し込んだ。もちろんそれは本来の目的ではない。そして最後にここに日本人の子供がいるかどうかきいて、その親にも取材したいといえばいいと思ったのだ。取材はすぐに承諾され、センターの中を丁寧に案内してくれた。ときどきフィルムの入っていないカメラのシャッターを切りながら、うなずく。案内係もここがいかに働く女性のためによくできたセンターか、誇らしげに説明してくれるが、ぼくにはそんなことはどうでもいい。ある意味で騙すことになるが、他に情報の入手方法がない場合は、pretextを使うことは、探偵やスパイのtricks
of the
trade(商売の秘訣)にある常套手段である。違法にはならない。どういう情報を得るには、どういうpretextがいいか、具体的な例を挙げながら説明した、分厚いテキストがあるほどだ。もちろんすべて英語である。 読んでいるだけで実におもしろい。現実に使われたpretextばかりなので、取材にも応用がきく。相手がこちらを疑わずに情報を渡す気持ちになるpretextが書かれているが、しゃべる口調が非常にcritical(決定的、重大)になってくるので、練習が大切である。正面からの取材をして、失敗すると二度とできなくなるような場合は、予め、一回の失敗も許されないことがわかるので最初からpretextを使う場合もある。失敗してもやり直しがきく場合は、正面からぶつかる。アメリカのテレビ・ジャーナリズムで、プロデューサーが、スーパーマーケットを騙して、雇われ、内部の肉の処理を隠し撮りしたり、老人ホームでの老人の虐待を隠し撮りするために、プロデューサーが身分を隠して雇ってもらい、隠し撮りすることがあるが、これはそれ以外暴露の方法がないから許されるのである。公共の利益と天秤にかけた場合、はるかに公共の利益が大きいので、騙すことが許されるのである。ただし、個人的な情報の入手の場合は、公共の利益は関係ないので、誰もが傷つかない嘘(white
lie:
悪意のない嘘)をつかなければならない。だまされたことで悔しい思いをするくらいは許される。それがその人の人生に影響しないことが重要である。
<第9回に続く>
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