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第24回 取材の裏側G ここまでやるのがジャーナリズム − 有森&ガブのケース (後編)
有森夫妻が別居したというニュースは日本中を駆け巡った。ガブの母親の離婚・結婚の繰り返し、父親の過去(これは公開情報ではないので控える)を考えると、普通では想像できないガブの育ち方もわかる。そういうことを何も知らないまま、有森は結婚したのだろうか。もし違いが日本人とアメリカ人という人種的なものだけで、育ち、性格など、他の部分がすべて同じだったら、有森はそういう日本人男性と結婚していたのだろうか。アメリカの田舎で、英語がろくにできず、毎日車で(注:免許証偽造のまま)迎えに来られたら、ほとんどの日本人女性は、そのやさしさに参ってしまうのであろうか。
そういうことを考えると、ガブがサンフランシスコでどのような生活をしているのか、本当に質素な生活をして、スーパーマーケットでこつこつ働いているのか、素朴な疑問がわいてくる。実態が逆であれば、ニュース価値が出てくることは間違いないからだ。
取材に嘘は付き物
情報を得るために嘘をつかねばならないことがあるが、その嘘はできるだけ人を傷つけないものでなければならない。極端に言えば、嘘をつかれたことさえも最後まで気づかれないものがいい。そのために相手の弱みを知ることは、CIA要員が情報を得る方法とまったく変わらない。いかにして情報を得るか、それは取材の成否にかかわるのだ。有森に電話して、最初からガブの連絡先を教えてほしいと言っても教えてくれるはずがないし、一旦そういう取材の動きがあることが少しでもばれると過敏になり警戒し始めるので、どれほど慎重になってもなりすぎることはない。情報を得ていくどの段階でも一発勝負だ。
ガブの最も脆いところは、credit bureau(信用調査所)であることは自明の理だった。あれだけ不渡り小切手を切り(実際に銀行で過去1年間の不渡りを見せてもらったが、行員もあきれて、開いた口がふさがらなかった)、小額(50ドルとか80ドルとかのレベル)であれだけ訴訟を起こされているので、credit bureauと名乗ると、必ずびびるはずだ。まず、最初に英語で有森の自宅に電話する。有森はすぐに英語のできるお手伝いに替わった。credit bureauからだと言い、ガブリエル・ウィルソンに話したいことがあるというと、あわてた口調ですぐにガブの携帯番号を教えてくれた。相手も「また!」と焦ったに違いない。その携帯番号から登録の住所を割ることは簡単だが、出てくるのはボールダーの有森の住所の可能性が高いと判断してやめた。他の方法は、いくつかあるが、本人に訊かずに探す方法を考えなければならない。とりあえず、携帯のスイッチが入っていると、その場所がわかるので、まず携帯番号からプロバイダーを探偵に調べてもらい、どこに電話したらいいのかも訊く。そのとき、探偵(元FBI捜査員)は、「そういうときは、his doctor(彼のかかりつけの医師)という立場を使うと、居場所を教えてくれる」とぼくに知恵を貸してくれた。さっそく、プロバイダーに電話して、「ガブの医師だが、さっき電話があり、すぐに来てほしいと言われたが、こちらから電話しても鳴りっぱなしで応答がない。今どこにいるか大至急調べてほしい」と、電話口で言う。こういうときは、気持ちの面で彼のかかりつけの医師になり切らないと途中でつまってしまう。少しでも疑われたらおしまいだ。オペレーターは、彼はハイウェー何号線のどこを走っているところだと正確に教えてくれ、明らかに車で移動していることがわかった。車の移動が止まるまで待つしかない。移動が止まったら教えてほしいとぼくの携帯番号をプロバイダーに伝えると、15分くらいしたらかかってきた。ガブの車が完全に停止したというのだ。その場所こそが住んでいるところだろう、と思った。そして、その住所を訊くとあっさり教えてくれた。
the fruit of serendipity
これで、ガブにばれずに居場所がわかった。さっそくその住所に行ったが、そこはスタンフォード大学を見下ろす山奥にある、高級住宅地であった。正式な訓練ができるプール付の豪邸だ。見た瞬間腰を抜かしそうになった。有森が言っていた「小さなアパート」はどこにあるのだろう。
家の前に車を止めるとすぐにばれてしまう。そこに車が止まっていること自体がおかしいからだ。その日はそのまま引き上げだ。そして、ホテルの部屋に戻り、詳しい地図をみながら、その家から街中に出るルートをみると、山を下りたところが、待ち伏せするにはちょうどいい場所であると判断した。ガブの車が来るとみただけでわかるので、通りすぎた瞬間に追跡することにした。探偵のミニバンにはいろいろな装置がついていて、長時間張り込まなければならないときのためにトイレまでついている。外からはまったく中が見えないので、安心して車中から撮影ができる。尾行していることがばれたらいけないので、ときどき追い越し、バンの後ろから運転するガブを撮影する。もちろんそのときはまさか相棒とデートするとは思ってもみなかったので、彼の車が止まり、男のような女(元男性かもしれないが)とデートするのを目の当たりにしたときは、思わず興奮してしまった。予想外の収穫になってしまったからだ。自分の心拍数が増えてくるのがわかる。とにかく、隠し撮りできるところはできるだけやるしかない。取材は恐らく拒否されるだろうが、後に回すことにした。
取材はやってみないと何が出てくるかわからない。実際この取材は数週間かかっており、この結果は計算ずくめの結果出てきたものである。偶然そこに居合わせる可能性はゼロに近いのである。今回もガブが有森の言うように「質素な生活」をしているかどうかを調べるために、居場所を探すのが当初の目的だった。ガブが有森以外の人と付き合っているという情報が先にあったわけではない。こういうのを英語でthe
fruit of serendipityという。スクープに必要な運だろう。
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| >>週刊ポスト 1998年9月4日号記事 |
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