ぼくはよく海外に出張に行くが、必ずラップトップ・コンピューターを2台持っていく。1台がウィルスにやられたり、何らかの理由で故障したときのためだ。危機管理対策である。いちいち修理している時間はない。カメラも同じで3台持っていく。そのうち2台は一眼レフで1台はデジカメ。もう1台は小型のデジカメである。取材中に壊れましたではしゃれにならないし、撮影できなかった理由にならないからだ。他に小道具として、すべてが揃っているスイスアーミーナイフ。キャンプ用の折りたたみ式スプーン、フォーク。小型セロテープ。鋏、ホッチキス2つ(太い芯と普通のやつ)。極細ドライバー。これはちょっとした修理に役に立つ。昔はポータブルのファックス機も持ち歩いたが、最近はパソコンで送受信ができるので捨てた。ペンチ付ナイフも修理に役に立つことがあるので、スーツケースに入れてある。
予備の重要性
メールアドレスは、GOLをメインにして、AOLはGOLが何らかの理由で使えなくなったときのためにとってある。相手がAOLの場合は、故意にAOLを使うこともある。相手がメールを開けた時間がわかるからである。また、最近はほとんどのホテルがワイヤレスになっているが、たまにダイヤルアップの場合もある。アメリカではどんな小さな町でもAOLのアクセスポイントがあるので、AOLを予備にとってあるのも危機管理である。AOLでインターネットにつなげれば、GOLのメールも読める。さらに、ほとんど全米で使えるWi-Fiというワイヤレスでもアクセスできるようにしている。全米のスターバックスで使えるし、空港でも使えるところが多い上に、もうすぐ機内でも使えるようになると聞いた。スターバックスが満席のときは、近くにレンタカーを止めて、そこからでもアクセスできるから非常に便利。この前取材でコネティカット州のイエール大学に行ったときは、無料ワイヤレスが町中で入るので、車の中からインターネットにつながった。便利な世の中になったものだ。だからキャンピング・カーを仕事場にしているコンサルタントも出てくるわけだ。
さらにぼくの場合は普通の人よりも胃腸が弱いので、Imodiumは欠かせない。昔は処方箋でしか手に入らなかった下痢止めだが、今はアメリカのドラッグ・ストアならどこでも手に入る。ペルーやインドへの取材のときも欠かせなかった。特に取材直前に腹痛になった場合は、これですぐに止まるのでいつも安心して取材に行ける。日本でもかばんの中に常備。ニューヨークに住んでいるときに、娘のかかりつけの医者に文句なしのthe best medicineと太鼓判を押されてからから、ずっと持ち歩いている。本当に驚くべき効能である。日本の薬は問題外である。
取材中の録音は3台の器械を使う。DATはマスター録音用。これにまさる音質はまだない。ミュージシャンがマスター記録保存用に使う理由もよく理解できる。あとはMDとビデオである。さらにNTという切手サイズのテープでデジタル録音するレコーダー。これは録音を拒否される予感がするときに、最初からスイッチを入れて、ミニマイクをポケットにくっつけて隠し録音するときに使う。デジタルだから音質は最高である。テープを入れ替えたいときは、「ちょっとお手洗いに行きたいのですが」と言えば簡単だ。相手が話し始めたときに、録音していいですか、と言った瞬間、相手の気持ちが変化しそうなときは、この手段を使う。メモも取ろうとすると、それも拒否されることがあるので、この器械は必需品である。
そして、眼鏡の予備だ。かなり近視であるぼくは、眼鏡がなくなると歩けないし、当然運転もできない。サングラスにも度が入っている。稀に取材相手がぼくに飛びかかってくる場合もあるし、そのときに眼鏡を壊されたらもうおしまいである。富士銀行NY支店の支店長がそうだった。為替投機で115億円もの大欠損を出したときに、話題になった人だ。マンハッタンの自宅マンションから出てきたときに、カメラを向けると、腕を振り上げてかかってきた。ぼくが相手を殴るわけにもいかず、防衛のみに終わったが、あういうときに眼鏡が壊される可能性がある。そういうときのために必ず予備は必要なのだ。自動車についている予備タイヤと同じである。
日米の危機管理意識の違い
事故は予期しないで起きるから事故である。アメリカの道路は事故が起きる前提で作られている。分岐点に、砂が入った大きな柔らかいドラムのようなものがいくつも置かれているが、分岐点にぶつかる事故が必ず起きるという前提で置かれている。事故が起きたときに死ななくてもいいように道路が設計されているが、日本の道路は事故が起きたら死ぬように設計されている。首都高速も事故が起きれば死ぬように設計されている。北海道を運転したときにつくづく思った。北海道はある意味でアメリカの田舎と似ているが、道路はまったく違う。アメリカは常に逃げる場所を確保し、センターラインを超えると、音がザザッと鳴るようにぎざぎざが入れられている。それでも相手がセンターラインを超えてやってきたときも、ちゃんと逃げることができるようになっている。北海道では事故を起こすと、死ぬように設計されている。フリーウェーもそうである。アメリカでは車線変更すると音が出るようになっているし、これで何回も助けられた。特に睡魔に襲われながら、運転しているときはかなり助けられた。ジェンキンスの甥に取材に行ったときは、ジェンキンスの生まれ育った家とか、他の親戚、母親のところまですべて車で行ったので、走行距離は1600キロにもなった。何回睡魔に襲われたかわからないほどだ。そのたびにこの雑音で起こされて助けられた。道路の設計の違いを見ても、アメリカの危機管理意識と日本のそれがかなり違うことがわかる。アメリカに18年住んで、日常生活の細かいところを日米で比べると、日本人の危機管理意識が、とてつもなく低いことがわかるが、こればかりは実際に経験しないとなかなか身につくものではないだろう。