取材は、テレビなら編集する前、活字の場合は、執筆前の情報収集のことであるが、インタビューが付きものである。インタビューというと経験のない人は、簡単にできるものと錯覚するだろうが、テレビ、活字それぞれに苦労の中身こそ異なるが、そう簡単に応じてくれるものではない。相手のプラスにならない場合、まず拒否されると思った方がいい。取材を拒否されたときに、ジャーナリストとしての本領を発揮し、説得にかかるが、これが苦手な人はジャーナリストに向いていないことは明らかである。
エージェントは当てにならない
さて、インタビューには大きく分けて、電話インタビュー、アポなし直撃インタビュー、アポありインタビューがあるが、まず電話インタビューでは、電話番号がわからないと話にならない。ぼくの場合は99%欧米への英語による電話インタビューになるが、政府高官へのインタビューも電話でやらなければならないときもある。その場合普通広報を通さなければならないが、ほとんどの場合、本人に打診しないで断られるので、当然自宅に電話することになる。しかしながら、断られることがわかっていても、建前上一応広報に先に連絡しておく。後から自宅に電話したことで叱責を受けたときの言い訳に使うためだ。現米国連大使であるジョン・ボルトンが国務次官であるときがそうであった。編集部から国務省の広報にボルトンへの電話取材を申し込むが、忙しさを理由に即断られる。さっそく自宅の電話番号を割ることになるが、ぼくは電話帳に出ていない番号でも調べられるので、入手後電話することになる。幸運にも本人が電話に出たので、間髪を容れず質問した。そのときは相手に考える余裕を与えてはいけない。しゃべりまくるのだ。取材拒否できないような気持ちにさせることが重要である。電話帳に出ていない、いわゆるunlistedの電話番号を調べることができない人は論外であり、その段階で失格である。インタビューが終わって5分くらいすると、目の前の電話が鳴り、とると国務省の広報からだった。「高官の自宅に電話するものでない」と言われた。ぼくは「あなたが、本人に打診もしないで断るから自宅に電話するしかないだろう。それがぼくのやるべき仕事だ」と逆に大声でどなり、ガチャンと電話を切った。なかなか気持ちがいいものだ。
アポ取りで仕事の9割は終了
次に有名人をインタビューするときもエージェントを通すのが建前であるが、これも本人に打診しないで、忙しさを理由に断られることが多い。イギリスの有名な作家フレデリック・フォーサイスへインタビューしてほしいという依頼が月刊誌から入ったのが、校了(入稿ではない)4日前だった。当時ニューヨークに住んでいたが、飛行機でロンドンまで飛び、取材して原稿を書くにしても、翌日にはJFK空港を出発しないと間に合わない。もちろんフォーサイスのエージェントに電話したが、即断られた。慌てて自宅の電話番号を割り、電話すると奥さんが出て、夫は畑仕事をしているという。ぼくはエージェントに電話したが、そちらに連絡が入ったかどうか訊いてみた。案の定何の連絡もなかったという。フォーサイス本人に代わってもらい、事情を話すと、インタビュー資料をすべてファックスしてほしいという。フォーサイスは本当に人間がよくできていて、ぼくの気持ちをよく理解してくれた。自宅とヒースロー空港の中間地点にあるホテルをインタビュー場所として指定してくれた。航空会社に予約の電話を入れるとファーストクラス1席しか残っていなかったが、そのまま飛んだ。ヒースロー空港から、レンタカーで指定されたホテルまで行くと、5分くらいしてフォーサイスが現れた。ファックスした資料に赤線がたくさん引かれ、自分なりの考えをすでにまとめていたが、依頼から原稿を書くまで3日しかなかった。週刊誌と同じペースである。しかしこの速さでここまでやったときの充足感、成就感は何にも置き換えられないほど最高だ。その晩、取材テープを聴きながら、ロンドンのホテルで原稿を書き、翌日はホテルでゆっくりと過ごした。こういう取材は、アポが入った段階でかなり精神的に楽になるが、極端な言い方をすると、アポが入った段階で9割の仕事が終わっていると言ってもいい。あとはインタビューのための宿題をするだけだ。
トコトン追い詰める
このメルマガでも書いたことがあるが、マイケル・ムーアのインタビューのように、とりあえずアメリカに飛んで、相手が譲歩するまで追いかけて取ったこともある。時には10日以上もアメリカ中を追いかけることがあるが、相手にはどこに逃げても必ずぼくがそこに現れるという印象(恐怖?)を与えることが重要である。飛行機の便もすべて調べ上げておくので、空港でつかまえるときもあるくらいだ。目的地で行き先が割れない場合は、車で追尾して場所を確認し、後からその場所を直撃する場合もある。そういうとき相手は必ず腰を抜かし、まずインタビューに応じる。史上最悪のハッカーを追い詰めた、下村努氏をカリフォルニア州で追跡したときは(第11回、12回参照)、映画さながらの追跡劇だった。走行距離は4日間で約1600キロ。追跡だけではなく、最後は張り込みも入るので、知恵と体力は最低必要である。知恵比べのようなところがあるが、ここまでやると取材というよりも勝負という気持ちである。警察を呼ばれることもたまにあるが、警察はぼくに取材をやめさせる権利はない。逆に取材や張り込みの理由を説明すると、返って警察の方が「それは取材する価値がある」と納得するときもある。警察を呼ばれて返って、こちらが得する場合もあるのだ。警察は”Good
luck!”とぼくに明るく言って去ることになる。
心変わりする時間を与えるな
最悪のケースはアポが入っているのに、実際に行くと断られる場合だ。本当は殴りたくなるが、取材ができないと話にならないので、我慢して説得にかかる。それでもだめな場合もあるが、そういうときは当人が記事を読んだときに、取材に応じていればよかったと後悔するような記事にするのがベストである。教訓を与えるためだ。アポを入れてから、実際に会うまでに1,2日ある場合、当人が、友人や家族に相談することがある。そのときに気が変わってしまうのだ。特に調査報道で起きることが多く、しかも女性に多い。理由を訊いても教えてくれない。これはテレビ取材で昨秋、金正哲(金正日の次男)のクラスメートへの取材中、何人かの女性の元クラスメートに起きた。テレビの場合複数で動くので、莫大な経費がかかる。アポを入れて、実際に行ったときに断られた場合、その人に会うためにかかった経費の半分を払ってもらうという法律でも作ったらどうか。少なくとも最初は承諾したのだから。スイスで教訓を得たので、アメリカに住んでいる、元クラスメートの女性へのインタビューのときはアポなしインタビューを行った。友人や親に相談し、心変わりする時間を与えないためである。彼女は、まだ大学生で「宿題で忙しいから」と最初断られたが、10分で終わると言って簡単に説得に成功。そのとき、我々の心の中では、テレビ取材が10分で終わるはずがない、機材を入れるだけでも10分かかるのに、と思っているのであるが、もうこっちのものである。
この22年間本当にいろいろなインタビューをしてきたが、どういうわけかぼくのところに依頼がくるインタビューはそのほとんどが一筋縄でいかないものばかりである。それだけにやりがいがあることは確かだ。